日曜ヴァイオリニストの“アートな”らくがき帳 File.08

三味線を弾いているガイコツ!? 河鍋暁斎のユーモラスな戯画に奮い立つ

イベント
2019.02.25

アマチュアながら熟達した腕をもつと評判の「日曜ヴァイオリニスト」兼、多摩美術大学教授でありながら愛にあふれたキャッチーな絵を描く「ラクガキスト」の小川敦生さんによる連載。

第8回は、なんてユーモラス! 幕末から明治にかけて、戯画で人気を博した河鍋暁斎(かわなべきょうさい/1831~1889)の絵から、小川さんが感じた音、音楽とは?
「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」展は、3月31日(日)まで、東京・サントリー美術館にて。

演奏するラクガキスト
小川敦生 日曜ヴァイオリニスト、ラクガキスト、美術ジャーナリスト
小川敦生
演奏するラクガキスト
小川敦生 日曜ヴァイオリニスト、ラクガキスト、美術ジャーナリスト
1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩...

音楽と美術の関係に思いを巡らせるときに、幕末から明治時代前半にかけて独自の存在感を残した画家、河鍋暁斎のことをよく思い浮かべる。暁斎は、武者絵や猫絵で近年注目されている浮世絵師の歌川国芳に数え年7歳で入門、10代の頃には狩野派の前村洞和や狩野洞白に学び、洗練された技術と機知に富んだ発想を身につけた鬼才だ。

現在、東京のサントリー美術館で画業を顕彰する「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」展が開かれており、先日出かけてきたところだ。

サントリー美術館「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」展の会場の様子。

踊る一休の下で三味線を弾くガイコツ

音楽との関連で興味深く捉えられる出品作の筆頭は、《地獄太夫と一休》だろう。

河鍋暁斎《地獄太夫と一休》
一幅 明治4~22年(1871~1889)
イスラエル・ゴールドマン・コレクション
Photo:立命館大学アート・リサーチセンター
【全期間展示】

地獄の風景を柄にした着物の地獄大夫と躍動感たっぷりに描かれた一休が印象的な作品だが、どうしても気になるのが画面中央左のガイコツだ。踊る一休の下で三味線を弾いているところを見ると、結構激しい音楽を奏でていることが想像できる。ひょっとすると一休は、踊っているというよりも踊らされているのではないのか。

日曜ヴァイオリニストを自称する筆者は、夢で出てきた曲を書きとめたともいわれるジュゼッペ・タルティーニ (1692-1770)の名曲《悪魔のトリル》の激しくトリルが続く鬼気迫る部分をつい思い浮かべてしまう。

ジュゼッペ・タルティーニ《悪魔のトリル》/ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ

戯画性の高いこうした絵で理屈を通すことには意味がない。しかし、三味線の胴体に皮が張られていないところにどうしても目が行く。本来なら弦の音が共鳴するべき空間がないため、がんばって弾いても大した音が出ないなあとつい思ってしまうからだ。そもそも筋肉なしで動くという理屈もへったくれもないガイコツが弾く楽器ゆえ、皮がない三味線でもとんでもなく豊かな音を出せるのだろう。周りにいる小さなガイコツ群も、動きの表現に長けている。実に華やかでユーモラス、そして動的な絵である。

能や狂言を学んだ暁斎の「動」の表現

音楽は「動」の芸術だ。どんなに静かな音楽でも、音程やリズムには何らかの動きがある。そして演奏会場に行けば、奏者が動いている。

一方、暁斎は「動」を表現した絵を描くことを得意とした画家だった。暁斎は絵の修業のかたわら能や狂言を学び、狂言師の免状を持つまでになっていたという。つまりパフォーマーでもあったのだ。その感覚が絵の表現にも反映し、《地獄太夫と一休》のような作品を生み出したのではなかろうか。

基本的にガイコツが線だけで描かれているのも、暁斎の実力を象徴する。暁斎は何といっても線の達人だ。線に表現できるのは、描かれた物の輪郭だけではない。肥瘦や緩急を駆使することで線はさまざまな表情を持ち、描かれたモチーフ自体の動きや内面、さらには画面全体の空気感の表現をも担っている。

ヴァイオリンを弾いていると、どうやって音に変化をつけるかに日々悩む。これはひょっとすると筆で線を引くことと同じなのではないか。線によってモチーフに千変万化の表情をつける作品を多く残した暁斎は、そんな気づきを与えてくれる。

線の力でユーモラスに描く

ほかの出品作にも目を向けてみよう。

《鷹に追われる風神図》は、本来は天空で絶大な力を奮っているはずの風神がなぜか鷹ごときに追われているという、ユーモラスな作品。逃げる風神の必死な表情が印象的だ。画題自体は、暁斎が修業のために参照した狩野探幽の絵手本にあったことが、同展の展示で明らかにされていた。

暁斎は筆勢に加えて縦長画面を巧みに利用して、実にスピード感あふれる描写を実現している。

河鍋暁斎《鷹に追われる風神図》 一幅 明治19年(1886)
イスラエル・ゴールドマン・コレクション(ジョサイア・コンドル旧蔵)
Photo:立命館大学アート・リサーチセンター
【全期間展示】

画面からエネルギーがあふれ出ることを実感できるのが《達磨図》だ。

これぞ線の力といえようか。達磨は壁に向かって9年もの間、座禅を続けた“動かぬ人”として知られるが、その内面がエネルギーに満ちている姿を描いたところには、本質をあぶり出す暁斎の力があふれ出ている。

河鍋暁斎《達磨図》 一幅 明治18年(1885)
イスラエル・ゴールドマン・コレクション(ジョサイア・コンドル旧蔵)
Photo:立命館大学アート・リサーチセンター
【全期間展示】

《閻魔・奪衣婆図》(林原美術館)は、着物の美しい女性たちの手玉に取られているような閻魔たちが戸惑っていたり、あえて動きをおさえておとなしくしていたりする空気を見るのが楽しい。

《虎図》(東京・正行院)は、猛獣が押し込められた正方形から脱しようとしているのではないか(猫を見て描いたらしく猫目なのだけど)。線を巧みに重ねて描くことで、外にはみ出そうとする動きを感じられる興味深い仕上がりになっている。

河鍋暁斎《閻魔・奪衣婆図》 ニ幅 明治12~22年(1879~89)
林原美術館【展示期間:3/6~3/31】
河鍋暁斎《虎図》 一面 19世紀
東京・正行院【全期間展示】

こうした作品を見るにつけ、演奏の際にも豊かな表情をつけたいと心の中の手綱を締められるのである。

さて、ラクガキストとしては、河鍋暁斎に敬意を表して懸命に諧謔味を表現した(つもりの)《楽しい屁音記号Ver.2》を掲載してみた。スピード感くらいは出たのではないかと思うがいかがだろうか。

Gyoemon作《楽しい屁音記号Ver.2》(2014年)

Gyoemonは筆者の雅号。河鍋暁斎にはまったくかなわないが、ヘ音記号の動きとパワーを意識した一枚を掘り起こしてみた。暁斎は《放屁合戦絵巻》なる作品を描いており(サントリー美術館「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」展でも展示されていた)、筆者がその影響を受けてこの絵を描いたことを、この度自覚した。この程度の作品でも、動きの描写には線の力がものを言っているように思うのだが、どうだろうか。
展覧会情報
「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」展

会場: サントリー美術館(東京・六本木)

会期: 2019年2月6日(水)〜3月31日(日) 
※火曜日休館
※展示替えあり

開館時間: 10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)

※2月10日(日)、3月20日(水)は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
※3月26日は18時まで開館

※shop×cafeは会期中無休

入館料: 一般 当日1,300円
大学・高校生 当日1,000円
※中学生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料

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