イベント
2020.03.18
サントリーホール/特集「人がホールをつくる」

サントリーホールが“ときめき”の場所である理由とは?

元サントリー会長の佐治敬三が、1986年に創設したサントリーホール。その開館当時の情熱は現在までどのように引き継がれているのか。2020年の主催企画についてもお伺いした。

ナビゲーター
片桐卓也
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片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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佐治敬三の情熱を受け継ぎ、年間に約600公演

東京では初のクラシック音楽専用コンサートホールとして、サントリーホールが開館したのは、1986年10月12日のこと。今年で開館34年目となる。それまでの日本のコンサートホールにはなかった、舞台を客席が取り囲むようなヴィンヤード(ぶどう畑)形式の客席は、そこで演奏するアーティストと聴衆の一体感を作り出している。

サントリーホール。全2006席がぶどうの段々畑のようにステージを向いている。

大ホール、小ホール(ブルーローズ)合わせて、年間に約600回もの公演が行なわれているというが、世界の有名コンサートホールでも、このように稼働しているところは少ないだろう。

「しかも歌舞伎や宝塚、ミュージカルのように連続して行なわれる公演ではなく、毎日が違ったコンサートになります。舞台の裏側はいったいどうなっているのかしら、と最初の頃は不思議でした」

こう語るのは、2019年4月に総支配人となった折井雅子さんだ。6歳から日舞を習い、舞台芸術に関心が強かった。サントリーグループで働くようになってからも観劇の習慣を欠かさず、歌舞伎に精通し、宝塚を愛する「演劇少女」の一面も持ち続けている。

「クラシック音楽を愛していた佐治敬三(元サントリー会長、サントリーホール創設者)の情熱、そしてサントリーホール開館に関わった先輩方の“熱”は、今でも受け継がれています。幅広い層のお客様にクラシック音楽を楽しんでいただきたい、その想いを、スタッフ全員がいつでも共有しています」(折井さん)

総支配人の折井雅子さんは「カラヤンさんがサントリーホールを“音の宝石箱”とおっしゃいましたが、私はそこに“人の宝石箱”という言葉を加えたい」と話す。お客様として訪れるサントリー社員も、ホールにいると何割増しかカッコよく見えるそう。

サントリーホールだからできる大規模な企画

サントリーホールの特徴と言えば、その優れた音響だけでなく、自主企画の豊富さも挙げられる。

2020〜21年シーズンも、多彩な企画が準備された。

今年10回目を迎える「チェンバーミュージック・ガーデン」6月6〜21日)は、室内楽の魅力をたっぷり味わえるコンサート企画として定着してきた。ベートーヴェン生誕250周年を祝う今年は「3つの全曲演奏会」として、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ、ピアノ三重奏曲、弦楽四重奏曲の全曲が演奏される。午後1時スタートの「プレシャス1pm」や午後19時半スタートの「ディスカバリーナイト」など、通常とはちょっと違った時間にスタートするコンサートも魅力的だ。優れた若手演奏家の修行の場となっているドイツの「クロンベルク・アカデミー」の日本ツアーが行なわれるのも話題となるだろう。

©鍋島徳恭
6月6日からの「チェンバーミュージック・ガーデン」は、チェロ奏者で館長の堤剛さん肝いりの祭典。右の写真はフィナーレの様子。
サントリーホールの室内楽アカデミー・フェロー(受講生)が、日ごろの研鑽の成果を発表する貴重な場にもなっている。

7月には注目のフェスティバルが開催される。ソニー音楽財団とサントリー芸術財団という2つの民間の財団がタッグを組んだ「こども音楽フェスティバル」7月17〜21日)だ。妊娠中の方々に向けた「0才まえのコンサート」、3〜6才を対象にした「いろいろドレドレ」など、ひとつひとつが工夫をこらした企画である。0〜19歳までの子どもたちのための音楽祭としては世界最大規模となる。

「いわゆる音楽教室のように強制された形で音楽を知るのではなく、もっと音楽の楽しさそのものに触れる音楽祭にしようと、さまざまな趣向を凝らしました」と語るのはサントリーホール副支配人・企画広報統括部長の白川英伸さん。

「小さな頃からエンターテイメントに親しんでいただく機会を増やしていくのも、私たちの使命だと考えています」(折井さん)

サントリー美術館とのコラボで、美術と音楽のワークショップ&コンサートが楽しめる「いろいろドレドレ」。

世界の名だたるアーティストとの蜜月

このホールで演奏するアーティストと、長く深い関係を構築しているのも、サントリーホールの魅力だ。1986年のオープニング・シリーズに出演したピアニストの内田光子11月30日12月6日)も、常連のひとりだ。「このホールだからできること」を常にプログラミングの柱にしている。今年はヨーロッパの精鋭が集まるマーラー・チェンバー・オーケストラと、モーツァルトのピアノ協奏曲などを共演する。

内田光子(ピアノ・指揮)がマーラー・チェンバー・オーケストラとともに登場。

「スペシャルステージ」に出演するヴァイオリニストの五嶋みどり10月20〜24日)も「ぜひサントリーホールで公演を」と希望し、サントリーホールとも深い縁のあるアイザック・スターンの生誕100年を記念して5回の公演を行なう。

8月の現代音楽の祭典「サマーフェスティバル」「サントリー音楽賞受賞記念コンサート」など息の長い企画も多い。毎年恒例のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートでは、ロシアの巨匠ゲルギエフが16年ぶりに日本でウィーン・フィルを指揮する。

「サントリーホールが、“ときめき”の場所であってほしいと願っています。幸せの予感を感じる場所として、常に輝きを放つ場所であるように、これからも努力していきます」

と折井さんは結んでくれた。

折井さん(右)とともにインタビューを受けてくださった、副支配人で企画 &広報統括部長の白川英伸さんは、「五嶋みどりさんにしても、内田光子さんにしても、コンサートをするならサントリーホールで、と指名してくださるのがうれしい。ホールは生き物、意志を持った存在だと感じます」と語る。

ナビゲーターが注目する3つのポイント

1. 世界で活躍する日本人アーティスト

「サマーフェスティバル」の一柳慧、「スペシャルステージ」の五嶋みどり、マーラー・チェンバー・オケと共演する内田光子など、世界的に活躍する演奏家がサントリーホールだけで奏でる特別な時間。

2. 3つのベートーヴェン全曲演奏会

10年目を迎える「チェンバーミュージック・ガーデン」で特集されるベートーヴェンの室内楽。堤剛&萩原麻未によるチェロ・ソナタ、葵トリオによる弦楽三重奏曲、アトリウム弦楽四重奏団による弦楽四重奏曲の全曲演奏会。

3. シーズンを飾るイベント

8月の「オルガンZANMAI!」、12月のクリスマスコンサート「聖夜のメサイア」、1月の「ニューイヤー・コンサート」「ニューイヤー・ファミリークラシック」など、季節ごとに家族で楽しめるコンサートが盛りだくさん!

サントリーホール

[運営](公財)サントリー芸術財団

[座席数] 大ホール2006席(車いす専用スペー

ス6席)/ブルーローズ(小ホール)380~432

席(可動式)

[オープン] 1986年

[住所] 〒107-8403 東京都港区赤坂1-13-1

[問い合わせ]0570-55-0017

https: //www.suntory.co.jp/suntoryhall

 

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片桐卓也
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片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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