イベント
2021.03.18
東京文化会館/特集「ホールよ、輝け!」

上野公園で60年! あらゆる世代・ニーズに向けて芸術を発信する東京文化会館

1961年の開館から60年、東京の文化の中心であり続ける東京文化会館。世界に向けて発信する大作オペラ、0歳児から参加できるワークショップなど、老若男女あらゆる人が楽しめるプログラムを展開する。還暦を迎えた老舗ホールの見所を探った。

取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

東京文化会館「リラックス・パフォーマンス ~世代、障害を越えて楽しめるオーケストラ・コンサート~」より
©︎堀田力丸

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

還暦を迎え、コロナ禍にもいち早く立ち向かった老舗ホール

東京は刻々とその姿を変えている。上野駅周辺もそうだ。美術館などに一番アクセスの良い上野駅の「公園口」は、その改札口の場所が鶯谷駅寄りに変更され、外に出ると、昔のように横断歩道を渡らなくても直接、上野公園にアクセスできるように駅前のレイアウトも変わった。新しい商業施設も建設中だ。しかし、公園口を出て最初に目に入る「東京文化会館」の堂々とした姿は1961年から変わっていない。

上野駅の公園口を出るとすぐに目に入る、東京文化会館。

日本を代表する建築家であった前川國男によって設計された東京文化会館(日本建築学会作品賞を受賞)は、1961年4月7日に開館した。東京で本格的にクラシック音楽のコンサート、オペラ、バレエを上演する施設がほしいと長年待望されていたのが、ようやく実現したのだった。2021年でちょうど開館60周年の記念すべき年を迎え、数多くの公演が予定されている。

昨シーズンは新型コロナウイルスの流行により、東京オリンピック&パラリンピックも延期となり、多くのクラシック音楽の公演も中止となったが、東京文化会館も例外ではなかった。

それでも、いち早く、ここを本拠地とする東京都交響楽団がステージ上での飛沫の飛散量を計測するための試験的な演奏を行なうなど、新型コロナ対策を始めていた。公演が再開されてからも、聴衆、出演者を含めた感染対策を徹底している。公演の休憩時間にはホワイエの換気もなされ、公演が始まると、すぐにホワイエなどの清掃が行なわれている。

「当然のことですが、スタッフ側のすべきことは多くなりました。しかし、公演に来てくださるお客さまたちの、ああ、やっと生で音楽が聴けるんだという安堵感、待望感のような気持ちが伝わってきて、芸術文化が決して“不要不急”のものではないという想いを強くしました」

そう語ってくれたのは、東京文化会館事業企画課長の梶奈生子さんだ。

お話を伺った東京文化会館事業企画課長の梶奈生子さん。小ホールのホワイエで。
©︎武藤章

記念イヤー、世界に向けて発信する東京文化会館の注目ポイント

梶さんに、記念すべき60周年イヤーの見どころ、聴きどころを聞いた。

「まず、4月7日に『東京文化会館バースデーコンサート』が開催されます。規模の大きな公演としては6月6日に開催される、カイア・サーリアホのオペラ《Only the Sound Remains—余韻—》の日本初演があり、8月4、7日にはワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》が上演されます。2つのオペラは共に、国際共同制作のプロダクションです」

《ニュルンベルクのマイスタージンガー》ザルツブルク公演より
©︎OFS_Monika Rittershaus

「オペラで言えば、これまで何回も公演を積み重ねてきた『東京文化会館オペラBOX』のスペシャル・ハイライトVol.1/Vol.2という公演が9月18日、19日に行なわれますが、これはオペラをよく知りたい、オペラは初めてという方にオススメですね。オペラは敷居の高いものと思われている方には、ぜひ体験していただきたい公演です」

©︎武藤章

その作品が、常に世界的な注目を集めるフィンランドの作曲家サーリアホの《Only the Sound Remains—余韻—》は、能の「経正」と「羽衣」を素材にしたオペラで、ヴェネツィア・ビエンナーレ他との共同制作。今回のプロダクションには振付・ダンスで森山開次が参加するほか、小編成オーケストラは東京音楽コンクール入賞者とサーリアホが指名した奏者が担当する。ヴェネツィア・ビエンナーレでも同じメンバーでの公演が予定されており、日本の優れたアーティストが世界に紹介されることになる。

また2日間開催される『オペラBOX』はモーツァルト《魔笛》、ヴェルディ《椿姫》など、名作オペラ6作品をハイライト版で上演するが、歌手陣も若手の注目株ばかりなので、フレッシュな魅力にも溢れている。

0歳児から若手演奏家まで「育てる」ことも意識したラインナップ

筆者が個人的に注目しているのは「シアター・デビュー・プログラム」という青少年向けの公演で、小学生向けには新制作の「虫めづる姫君」(2022年2月5日、6日)、中高生向けには「平常×宮田大『Hamlet ハムレット』」の2021年新演出(12月18日、19日)。どちらも気鋭の演出家、振付家が、さまざまなクラシック音楽を素材に、長い歴史をもつ物語を舞台作品として、新たに作り出すものとなる。

「平常×宮田大 Hamlet ハムレット」過去の公演より
©︎堀田力丸

実は子どもから大人まで、さまざまな世代に向けたワークショップが充実しているのも東京文化会館の事業の特色で、これは東京文化会館以外でも、2021年は東京芸術劇場(池袋)、大田区民プラザ、としま区民センターなどを会場として行なわれる。

この企画を通して、ワークショップのリーダーとなる人材を育成するプログラムも並行して行なわれており、そこで育った人材が、次の世代をまた育てて行く。

また、高齢者や妊娠している方、障がい者向けのワークショップも開催しているほか、昨年から始まったあらゆる人が楽しめるコンサート「リラックス・パフォーマンス」が、今年は小ホールで開催される予定だ。

「育てる」という意味では、東京音楽コンクールの入賞者を中心に結成された「東京文化会館チェンバーオーケストラ」の存在にも注目しておきたい。若く優れた演奏家たちを集めたこのチェンバーオーケストラは、先にも書いたサーリアホのオペラにも出演し、小編成のアンサンブルとして重要な役割を担う。また若手実力派が集う「シャイニング・シリーズ」のVol.9(11月26日)にも出演、モーツァルトなどを演奏する予定だ。

東京文化会館チェンバーオーケストラと同じく、東京音楽コンクールの入賞者で構成された、東京文化会館presents 軽井沢チェンバー・オーケストラ演奏会の模様(2018年4月)。

小ホールならではの親密な音響空間で楽しむシリーズ

東京文化会館と言えば、小ホールで開催される「プラチナ・シリーズ」も、海外からのアーティストも含めた豪華なラインアップで毎年注目されている。2021年は9月24日のライナー・キュッヒル(元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスター)のコンサートでスタートし、野平一郎・堀正文・堤剛という日本を牽引してきた演奏家たちによるトリオ(11月20日)、そして小曽根真のコンサート(2022年2月14日)など、計5回の公演が予定されており、こちらはセット券も期間限定で発売される。小ホールという素晴らしい音響空間のなかで、身近にアーティストの演奏を聴くチャンスとなるので、たくさんの発見に満ちた経験となるだろう。

小ホールでもっと気軽に音楽を楽しみたいという方には、東京音楽コンクール入賞者が出演する「上野 de クラシック」(4月21日ほか)、そして音楽家と落語家がコラボレーションする「創遊・楽落らいぶ」(5月14日ほか)という企画もある(ともに、ほぼ午前11時からのスタート)。リモートワークをしていて、ちょっと気分転換したい方なども、一度覗いてみてはいかがだろう? 

ともあれ、東京文化会館、還暦バンザイ、である。

国立西洋美術館からみた東京文化会館。左手に上野駅、公園を右に進むと上野動物園がある。
東京文化会館

[運営] (公財)東京都歴史文化財団

[座席数] 大ホール2303席、小ホール649席

[オープン]1961年

〒110-8716 東京都台東区上野公園5-45

[問い合わせ]Tel.03-3828-2111(代表)

https://www.t-bunka.jp

取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ