イベント
2020.03.18
東京文化会館/特集「人がホールをつくる」

上野の街や海外との連携、社会包摂や育成で多角的に〜東京文化会館

東京・上野公園に1961年に開館した東京文化会館の2020年は、より多くの人が集うことになりそうだ。東京都の施設として、国内各地のホールや施設、海外とのつながりを強め、どんな音楽や舞台芸術を見せてくれるのだろうか。

ナビゲーター
山崎浩太郎
ナビゲーター
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

メイン写真:国際共同制作《ニュルンベルクのマイスタージンガー》ザルツブルク公演
©OFS_Monika Rittershaus

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国内外や上野の街と連携してファンをつくる

2021年に開館60周年を迎える東京文化会館。その歴史の中で築きあげてきたホールのコンセプトについて、副館長の林久美子さんは「音楽舞台芸術の殿堂として、国内でトップクラスの公演を、貸館公演でも主催事業でも、お客様に提供することです」と話す。

東京文化会館大ホール。
東京文化会館の副館長、林久美子さん。

では、ホールはどのようにつくっていくものなのだろうか。理想の姿を伺った。

「あらゆる層から多くの人が集い、親しまれるホールが理想だと思います。そして人材育成と教育普及を通じて、芸術文化の継承発展に寄与していくことですね。さらにはホールの外にも広がり、つながりをもつこと。ここから発信していくだけでなく、国内各地のホールや、最近では海外との連携も進めています」

東京文化会館が立つ上野公園内には、美術館や博物館、動物園、寛永寺などさまざまな文化施設がある。これらの施設を『上野文化の杜』と名付けて、いろいろな形で連携する活動を行なっている。

たとえば、2月には『文化の杜の音めぐり』と題して、2日間に6つの施設を順番にめぐって、コンサートを聴いていく催しを行なった。出演するのは、東京文化会館が主催している東京音楽コンクールの入賞者が中心だ。

「入賞者にはこのように、いろいろな自主事業に登場してもらって、活躍の場が増えるようにしています。ここ数年はコンクールの予選や本選を聴きに来られる方がとても増えて、コンクールを通じてファンになった演奏者をその後も応援して、彼らが出演する『上野 de クラシック』というコンサートのシリーズに来てくださるお客様もいます。このようなお客様には東京文化会館のファンという方も多くて、とても心強い存在です」

2019年9月小ホールでは、児童文学の傑作「泣いた赤おに」を、東京音楽コンクール入賞者を起用して、初めて観る人にも楽しめるオペラに。©️飯田耕治

3つの柱をさまざまなプログラムに

シーズンプログラムは、どのような目的、思いで構成しているのだろうか。

事業の柱には、①創造発信、②人材育成、③教育普及の3つがあるという。

「①の創造発信は、先駆的な内容の舞台公演やコンサートなどの主催。世界に発信し、世界や他地域と連携する活動です。

②の人材育成は、コンクールやワークショップを開催して、専門人材を育成すること。

③の教育普及は、音楽の入り口体験から、一流のオペラ、バレエ、コンサートまで、幅広く橋渡しをすることです。

シーズンプログラムのオペラやコンサート、ワークショップでは、この3つの柱がさまざまな形で関連しています。

今年度を例にあげますと、まず開館60周年のプレ・イヤーであり、オリンピック・イヤーでもありますので、これを文化の力で盛りあげていくことですね。そしてオリンピック開催の年だけではなく、レガシーとして伝えていく、受け継がれていくものを構築することが大切だと考えています」

2020夏、東京文化会館を凝縮したラインナップに注目!

その意味で重視しているのが、「社会包摂」の活動だ。子どもや障がい者、外国人も含めて、できるだけ多くの方に音楽に親しんでもらうきっかけをつくり、音楽を通じて、コミュニケーション能力、表現力を高め、その取り組みを通じて、社会的課題の解決につなげていきたいと話す。

「そのため、福祉施設や特別支援学校などにも積極的にアウトリーチを行ない、ミュージック・ワークショップを開催しています。ワークショップのリーダーを養成する講座も行なって、次代へつなげることも意識しています。『社会包摂』に力を入れているのは1年ほど前からですが、日本の劇場では最先端を走っているという自負があります。

7月には『リラックス・パフォーマンス』というコンサートがあります。これは世代や障がいを越えて、どのような方にも聴いていただけるもので、アウトリーチで施設や学校を訪ねるだけでなく、東京文化会館にもいらしていただこうというコンサートです」

これも含めて、今年の7月半ばから8月末までの夏休みの期間は、創造発信などの3本の柱が組み合わさった、活動を凝縮したような1か月半になるという。ワークショップ、コンサート、コンクール、そしてオペラが展開される、上野の東京文化会館に注目したい。

英国ロイヤル・バレエによる、ろう学校へのアウトリーチの様子(2019年6月)。©️鈴木穣蔵
ミュージック・ワークショップ・フェスタ〈冬〉「クラシックであそぼう!」(2019年12月)。2013年から連携しているポルトガルのカーザ・ダ・ムジカからワークショップ・リーダーを招いて、観客参加型で行なった。©️Mino Inoue

ミュージック・ワークショップについて

ナビゲーターがオススメする3つの企画

1.  オペラ夏の祭典2019-20 Japan⇔Tokyo⇔World『ニュルンベルクのマイスタージンガー』

日程: 6月14日(水)14:00開演、17日(日)12:00開演

大好評だった昨年の《トゥーランドット》に続くオペラ第2弾。ワーグナーの祝典的な大作を、新国立劇場や世界の一流歌劇場(ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場)との共同制作で上演する。

2. 小曽根真&アラン・ギルバート“Jazz meets Classic” with 東京都交響楽団

日程: 7月25日(土)17:00開演(会場:東京文化会館 大ホール)、26日(日)15:00開演(会場:オリンパスホール八王子)

ジャズだけでなくクラシックでも大活躍のピアニスト、小曽根真による毎年恒例のコンサート。今年は小曽根自作のピアノ協奏曲「もがみ」などを、盟友アラン・ギルバートの指揮で演奏する豪華版。小曽根は関連のワークショップ「自分で見つける音楽 Vol.8」で講師も務める(7月16日)。

2019年5月のJazz meets Classicでは、クラシックの名曲「ピーターと狼」や「動物の謝肉祭」のジャズアレンジを演奏した。©️ヒダキトモコ

3. 第18回 東京音楽コンクール 本選

日程: 金管部門 8月25日(火) 18:00開演
弦楽部門 8月27日(木) 18:00開演
ピアノ部門 8月29日(土) 16:00開演

年々人気を高める東京音楽コンクール。今年はピアノ、弦楽器、金管の3部門。本選では大ホールでオーケストラとの共演が聴ける。

2020年1月に行なわれた第17回東京音楽コンクール 優勝者&最高位入賞者コンサートにて。各部門の覇者3名が、ソリストとしてオーケストラと共演する貴重な機会。©️堀田力丸
東京文化会館

[運営] (公財)東京都歴史文化財団

[座席数] 大ホール2303席

小ホール649席

[オープン]1961年

[住所]〒110-8716 東京都台東区上野公園5-45

[問い合わせ]Tel.03-3828-2111(代表)/03-5685-0650(チケットサービス)

https://www.t-bunka.jp

ナビゲーター
山崎浩太郎
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山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

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