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2024.03.18
特集「ホールに出かけよう 2024」

フェニーチェ堺~地元住民に愛され5周年! ソッリマの100チェロなど多様な企画が彩る

フェニーチェ堺は劇場として高度な機能を備え、大規模な公演や堺市の文化資源の活用に取り組むほか、市民との関係も大切に育んできました。2024年に開館5周年を迎えるにあたり、注目公演や文化芸術の普及のために力を入れる子どもたちに向けた催しについて、企画制作担当課長の柴坂哲也さんと広報・営業担当主幹の福尾葉子さんに詳しく教えてもらいました。

取材・文
桒田萌
取材・文
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

5月から7月にかけて3か月連続で若手人気ピアニストが登場する。
左から角野隼斗©RyuyaAmao、牛田智大©Ariga Terasawa、亀井聖矢©Yuji Ueno

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2019年10月にグランドオープンした「フェニーチェ堺」(堺市民芸術文化ホール)は、これまでにロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団やロンドン交響楽団といった海外オーケストラの来日公演を開催したり、堺市に本拠を置く大阪交響楽団と連携したりするなど、大阪府南部最大の文化拠点として機能してきた。企画制作担当課長の柴坂哲也さんと広報・営業担当主幹の福尾葉子さんに、2024年度ラインナップについて話を伺った。

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フェニーチェ堺大ホールの客席。舞台は十分な広さを持ち、これまでできなかったオペラ、バレエ、大規模編成のオーケストラ公演も可能に。
©石川拓也

若手ピアニストやオープニングに登場したアーティストが5周年を彩る

柴坂前身である堺市民会館の老朽化に伴い、新しく建て替わりオープンしたのがフェニーチェ堺です。設計したのは、新国立劇場や東京オペラシティのホールも手がけた柳澤孝彦さん。前身の会館にはなかった高度な劇場機能を兼ね備えるようになり、より幅広い催しができるようになりました」

お話を伺ったフェニーチェ堺企画制作担当課長・柴坂哲也さん。
©飯島隆

今年は開館5周年を迎える。オープン直後にコロナ禍に突入してしまったものの、徐々に公演も復活。ようやく軌道に乗ってきた2023年度を経て、2024年度は5周年を大きく意識したラインナップが揃った。

福尾「5月から7月にかけて、3か月連続でピアニストの角野隼斗さん、牛田智大さん、亀井聖矢さんが登場して5周年を華やかに彩ります。角野さんは佐渡裕さん&新日本フィルハーモニー交響楽団牛田さんは山下一史さん&大阪交響楽団亀井さんは小林研一郎さん&ハンガリー・ブダペスト交響楽団と共演予定です。今をときめく3人であり、それぞれ音楽性や音色の違いを楽しんでいただけると思います」

左上:角野隼斗©RyuyaAmao
上:牛田智大©Ariga Terasawa
左:亀井聖矢©Yuji Ueno

柴坂「また、2019年のグランドオープンの際にラインナップを飾った『フィルハーモニー・オーボエ・カルテットwith佐渡裕』や、『熊川哲也Kバレエ トウキョウ』、『桂南光独演会』も5年ぶりに実施します。オープン当時の初心を忘れたくない、そんな想いも込められています」

100人のチェリストを一般募集! ジョヴァンニ・ソッリマと熱狂的な舞台をつくる100チェロ・コンサート

2024年度ラインナップの中でもとくに注目したいのが、2025年3月30日に開催されるチェリストのジョヴァンニ・ソッリマによる100チェロ・コンサート「チェロよ、歌え!」だ。小学生から高齢者まで、チェロの経験年数やキャリア、レベル、年齢などを問わず100人の演奏者を募り、3日間のリハーサルを経て本番を迎えるプロジェクト。日本では2019年にすみだトリフォニーホールで行なわれて以来の実施で、関西初開催となる。

福尾「演奏者が3日間ともに過ごすことで一体化された音楽は、きっと素晴らしいものになるはず……というソッリマさんの想いを聞いて、私たちも『これは楽しくなるぞ』と確信し、実施に至りました。ソッリマさんは、音楽の持つ力を信じていらっしゃる方であり、それを世の中に伝播していく力のある方。とにかくお客様に来ていただき体感してもらいたい公演の一つです」

広報・営業担当主幹・福尾葉子さん。「音楽の楽しさを広めたいと思っているので、ソッリマの企画はぴったりだと思いました。この企画を通して、チェロを愛する方たちのコミュニティができたら嬉しい」と語ってくれました。
©飯島隆
左:ジョヴァンニ・ソッリマ
イタリア・シチリア州パレルモ出身。世界最高峰のチェロ奏者兼作曲家。音楽一家に生まれ、幼い頃から音楽や楽器に囲まれて育つ。特に作曲家兼ピアニストであった父エリオドロ・ソッリマの影響で、幅広い音楽性を身につけた。パレルモ音楽院でジョヴァンニ・ペリエラからチェロを学び、優秀な成績で史上最年少で卒業。その後シュトゥットガルト音楽大学とモーツァルテウム音楽大学で、チェロをアントニオ・ヤニグロに、作曲をミルコ・ケレメンについて学んだ。
ジャンルを超えた幅広い活動で知られ、クラシックはもちろん、ジャズ、ロック、即興演奏、さらにヨーロッパ~中東~アフリカに及ぶ地球上のあらゆる民族音楽まで飲み込んだ唯一無二の演奏スタイルと作風を持つ。
©2012 Almendra Music

下:2019年にすみだトリフォニーホールで開催された100チェロ・コンサートの様子。2025年、ついに関西でも初開催!
©石田昌隆

「芸術文化で子どもたちを育てる」を掲げ、子どもたちに向けた催しで文化芸術の普及を

フェニーチェ堺は公共ホールであるため、地域住民に文化芸術を届けることが使命の一つ。鑑賞だけでなくワークショップや人材育成の事業、そして子どもたちのための企画も行なっている。昨年は「子どものためのオペラ《まほうのふえ》~パミーナ姫のたんじょうび~」を上演し好評を博したが、今年はどんな企画があるのか。

柴坂「フェニーチェ堺では、大阪交響楽団の小編成アンサンブルによる『音楽のあるひととき』を年間を通じて開催しており、劇場内のカフェやホワイエ、大スタジオなども会場にして、さまざまな編成で行なってきましたが、今年は8月に初めて子どもたちを対象とした演奏会を実施予定です。演奏を聴くだけでなく、たとえばサイズの小さなチェロを用意するなど、子どもたちが楽器体験もできるような企画を予定しています。未就学のお子さまも来場いただけますので、お気軽にお越しいただきたいです」

子どもたちに向けた催しを増やしていきたい、と話す柴坂さん。11月23日には、チェコ・ナイブニ人形劇場も登場する。

柴坂「こちらは2歳から鑑賞いただける公演です。ノンバーバルで擬音を中心に上演されるため、小さなお子さまでも楽しんでいただけます。チェコの人形劇を鑑賞できるのはたいへん珍しい機会ですので、親子で楽しんでいただければと思います」

1時間の「音楽のあるひととき」に来場されたお客様が「もっと聴きたい!」と演奏時間の長いコンサートに来てくださるようになったこともあるそう。
チェコ・ナイブニ人形劇場の公演より。1949年に設立された歴史ある人形劇場。

5周年を経て、新たな未来へ

オープンしてから今日に至るまで、地域住民や、フェニーチェ堺を愛する人々と関係性を育む4年間だった。5周年を境に、次はどんな未来を思い描いているのだろうか。

福尾「ホールに来てくださる方からは、たくさんの激励のお声をいただくことが多く、距離の近さを感じます。演奏者からも『お客さまの反応が熱いですね』といっていただくことがあって。公演というのは、演者だけでなくお客さまも一緒につくっていくものだと、日々現場で感じています。今後も、フェニーチェ堺ならではの空気感を大切にしていきたいです」

柴坂「フェニーチェ堺は、地域住民に愛される劇場でありたいと思っています。地域に根ざした公演を行ない、文化に溢れた堺市の魅力を市外にも発信していきたいです」

フェニーチェ堺の外観。堺市は大阪だけでなく、兵庫、京都、和歌山、奈良からのアクセスも抜群。
©石川拓也
フェニーチェ堺

[運営](公財)堺市文化振興財団

[座席数]大ホール2000席、小ホール312席

[オープン]2019年

[住所]〒590-0061  堺市堺区翁橋町2-1-1

[問い合わせ]Tel.072-223-1000

取材・文
桒田萌
取材・文
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

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