インタビュー
2022.07.17
2022年7/22(金)東京、8/20(土)大阪で公演開催

石田泰尚と﨑谷直人のヴァイオリン・デュオ「DOS DEL FIDDLES」が抱く野望とは?

神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスターとしてカリスマ的存在感を放つ石田泰尚と、オーケストラのゲストコンサートマスターやカルテットなど引くてあまたの﨑谷直人が、クラシックに留まらずワールド・ミュージックやロックなどに手を広げ、ヴァイオリンそのものの魅力を開拓する「DOS DEL FIDDLE」。今夏、東京(7月22日)と大阪(8月20日)で公演「Vクラシック」を開催する。前半はクラシック、後半はロックという斬新なプログラムで、どんなグルーヴが生まれるのか。公演に先立ち、2人の関係性や当日の聴きどころを聞いた。

取材・文
桒田萌
取材・文
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

写真: 蓮見徹

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音楽への向き合い方が正反対の2人

——DOS DEL FIDDLESが活動をスタートしたのは、2020年のこと。﨑谷さんが「石田さんにしかないもの」を感じて誘ったことが、結成のきっかけだそうですね。

﨑谷 僕たちは、まったくタイプが違うんです。例えば、僕は作品に取り組む際、「どうやってこの曲を弾こう」と楽譜に向き合い、組み立てていくタイプなんですが、石田さんは違う。自分の感性を大切にしていて、最終的にどんな作品でも石田さんのキャラクターに染まるんですよね。僕は石田さんのそんなところがいいなと思っていて、一緒に弾いていても楽しい。いつも「なるほど、そうなるのか」と発見があり、おもしろいですね。

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石田 僕のほうこそ、﨑谷ちゃんから得るものはたくさんありますね。「デュオをやりませんか」と誘われたときは、まずは「本当に俺でいいのか」と確認しましたね。そして「やるなら本格的にやろう」と、活動を始めました。

——﨑谷さんは理論重視で、石田さんは感性重視。そんな印象を受けます。

﨑谷 「感性で弾く」と言葉で言うのはすごく簡単なんですが、実はすごく難しいことなんですよね。感性を売りにしながらも、実は何をするのか分からないような、ヒヤッとするような演奏をする方もいるわけです。

その点、石田さんにはそのめちゃくちゃさがない。本人の中できちんとロジックができあがっているんでしょうね。音に説得力が伴っているからこそ、石田さんならではの世界観が仕上がるんだと思います。

石田 もちろん2人ともタイプは違いますが、一緒に演奏していて、僕は﨑谷ちゃんのやりたいことが自然とわかるんですよ。「こう弾きたいんだろうな、こんな音楽がしたいんだろうな」というのが伝わってくる。そして﨑谷ちゃんも、僕のやりたいことをわかってくれる。

﨑谷 神奈川フィルでも、隣で弾くことがありましたが、「ここ、こうですかね?」と細かなやりとりをよくしましたよね。

石田 こういう相性って、誰とでも合うわけでもないんですよね。上手な人同士だから噛み合うものでもないですし。

——お二人の相性の良さが非常に伝わります。阿吽の呼吸が合っているんでしょうね。

﨑谷 あと、共通しているところもあって。二人とも、人にはあまり見せませんが、すごく練習します。でも、練習のタイプは正反対。僕の場合、コンチェルトやカルテットなどの大きな作品は固定で、それ以外は「今日はこれだ」と思った作品を、その時に練習したりするんです。石田さんは逆で、すごく細かく練習のスケジュールを立てているんですよ。

石田 まずは紙にスケジュールを書き出していますね。日付と、その日にやるべき作品を書く。その日ごとに、決めた曲しかやらない。

﨑谷 ビジュアルや演奏の印象からすると、多くの人は「逆じゃないの?」と思われるんじゃないですかね。

ヴァイオリンそのもののかっこよさを追い求めて

——ヴァイオリン・デュオのジャンルは、やはりカルテットなどに比べて珍しいかと思います。改めて、ヴァイオリン・デュオの魅力を教えてください。

石田 違うタイプの2つのヴァイオリンの音が聴けるところ。それに、アンサンブルとして演奏するだけでなく、それぞれがソロのような動きをする見せ場もある。オーケストラやカルテットとは全然違いますよね。

﨑谷 そうですね。我々がどんなデュオを目指していくのかは模索中です。今はたくさんのレパートリーを増やして、実験的に取り組んでいきたい。「ヴァイオリンをかっこよく見せたい!」というのが一番の思いです。

アルバム「DOS DEL FIDDLES -LIVE-」

——今回行なわれる「Vクラシック」のプログラムは、前半はクラシック、後半はロック。選曲には、お二人の「模索」が反映されているのでしょうか。

﨑谷 そうですね。今回のプログラムは、自分の固定概念から外れた音楽に取り組みたい、という思いから選曲しました。新しいインスピレーションを得たいと思い、ロックを取り入れたんです。

石田 僕もジャンルにこだわらず、いろんな音楽がやりたいな、と思っていました。ロックだけでなく映画音楽やポップスなど、今後もたくさんレパートリーが増えたらいいなと。

——東京公演では石田組でも活躍してきたチェリストの西谷牧人さん、大阪公演では多くのジャンルで活躍されているチェリスト&ギタリストの伊藤ハルトシさんが加わります。お二人の存在は、DOS DEL FIDDLESにどんな影響を与えてくれそうでしょうか。

石田 僕たちを全面的にサポートしてくれるのではないかと期待しています。

﨑谷 そうですね。西谷さんも長くオーケストラをやってこられて、自分としてはシンパシーを感じています。お二人とも、いろんなジャンルで活躍されているので、刺激をもらえるのではないかと楽しみですね。

クラシックもロックも、原点は同じ

——今後もさまざまなジャンルに取り組んでいきたいとのこと。お二人はクラシック業界で活躍されていますが、そんな音楽家だからこそ、ロックなど他のジャンルに取り組む意義を教えてください。

石田 クラシックをうまく演奏できるからって、ロックもうまくなるとは限りません。時には「ダサい」演奏になることもある。だからロックって難しいんです。僕たちは普段クラシックを弾いているから、いつも以上に弓の圧力をかけたりして、体力を消耗する。石田組でもロックをやりますが、いつもとは違う疲れを感じますね。

だけど僕は、「クラシック畑でやってるけど、ロックもこれだけうまくできるんだぜ」と見せつけたい。いわば、挑戦ですよね。

﨑谷 ベートーヴェンやヴィヴァルディも、彼らが生きていた当時は先進的だったはずなんです。WANDSの上杉昇さんが「ロックはジャンルではなく、生き様だ」とおっしゃっていたのですが、僕もそう思います。そんなメンタリティは、いわゆるクラシックの作曲家にもあったと思うんです。たまたま時を経たから「クラシック」というジャンルに振り分けられただけで。

そもそもロックも、ジャズから派生していたり、ニルヴァーナのようなオルタナティブ的な要素の多い音楽をやっている人もいたり、マーズ・ヴォルタのように尖っているバンドもいる。原点に立ち返ってみると、実はどんな音楽も同じ場所にあるのではないか。今回の公演には、そんな思いも込めています。

——石田さんの著書『音楽家である前に、人間であれ!』(音楽之友社)によると、石田さんは「野望を抱くこと」を大切にされているとのこと。最後に、DOS DEL FIDDLESの野望を教えてください。

石田 まずは日本全国を征服することですね。まだ行っていない都市もたくさんあるので、そこで公演をしたいです。それこそ、音楽番組やCMにも出演したいですね。洗剤でもコーヒーでも、とにかくCMに出たい(笑)。

﨑谷 出たがりなんですよね。

石田 僕、口にしたことはほとんど達成しているんですよ。あとは、コンサートホールでの公演もしていきたい思いもありますが、一方でその場所から出ていきたい気持ちもあります。

﨑谷 そうですよね。クラシックの世界で、石田さんのことを知らない方はどんどん少なくなっていて、僕のことを知ってくださっている人も多い。ありがたいことに、この業界では評価をいただいてきました。

だからこそこれからは、クラシックだけでなく、さらに違う世界とつながりたいです。そうすることで、最終的にクラシックの世界も広がると思うんです。

石田 DOS DEL FIDDLES、羽ばたきます!

公演情報
Vクラシック

日時・場所:

東京公演 7月22日(金)有楽町よみうりホール

大阪公演 8月20日(土)ザ・シンフォニーホール

曲目:
クライスラーを予定(詳細未定)
ピアソラ(篠田大介編):鮫
ピアソラ(篠田大介編):オブリビオン
ピアソラ(篠田大介編):ブエノスアイレスの四季より冬
ピアソラ(林そよか編):リベルタンゴ
———-
以下、ロックバージョン ※編曲 大橋晃一
ヴィヴァルディの四季メドレー 春・夏・秋・冬
ロマンス(PENICILIN)
END OF SORROW(LUNA SEA)
グロリアス(GLAY)
紅(X JAPAN)

詳しくはこちらから

取材・文
桒田萌
取材・文
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

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