インタビュー
2024.10.11
芸術監督を務める「ミュージックダイアログ」 創立10周年を記念したCD「ブルックナー/ミヨー」発売

大山平一郎 国際的キャリアを育んだマールボロ音楽祭の理念「音楽=対話」を次世代へ

室内楽を通して、若手演奏家が経験豊富な演奏家と一緒に真の音楽づくりを学ぶ「ミュージックダイアログ」が創立10周年を迎え、ブルックナーとミヨーの室内楽というユニークな曲目で気鋭のメンバーによるCDをリリースした。ブルックナー「弦楽五重奏曲」は、芸術監督を務める大山平一郎がちょうど50年前にマールボロ音楽祭の選抜メンバーと演奏を重ねた特別な曲でもある。ミュージックダイアログの音楽的成果を物語る、このCDについてお話を伺った。

取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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音楽を作り上げる時、一人ひとりの演奏家が楽譜と対話するところから始まり、演奏者同士の対話(学び)を通して成長していく。室内楽などを通してそれを実現しようという試みが「ミュージックダイアログ」である。

その芸術監督である大山平一郎はヴィオラ奏者として活躍後、ロサンゼルス・フィルハーモニック時代は巨匠ジュリーニに首席ヴィオラ奏者に任命され、さらに指揮活動も始めた。

大山が始めた「ミュージックダイアログ」が創設10周年を迎えた今年、ミュージックダイアログ・アンサンブルとして初めての録音がリリースされた。

選ばれたのはブルックナーの「弦楽五重奏曲」とミヨーの「世界の創造(ピアノ五重奏版)」であり、もちろんブルックナー生誕200年、ミヨー没後50年という年にちなむ選曲でもあるのだが、その奥にはさらに深い意図もありそうだ。大山に聞いた。

大山 平一郎(指揮、ヴィオラ)Heiichiro Ohyama

京都生まれ。桐朋学園で江藤俊哉、鷲見三郎、斎藤秀雄各教授に師事。1968年、英国に渡り、ニーマン、プリース、ダート各教授に学びギルドホール音楽学校を卒業。1970年には米国インディアナ大学でプリムローズ、リッチ、ギンゴールド、シュタルケル、プレスラー各教授に師事。インディアナ大学コンクールではヴァイオリン、ヴィオラ両部門で同時優勝を果たした。1972年、マールボロ音楽祭にヴィオリストとして参加後、数多くの国際音楽祭に招待され、またギドン・クレーメル、ラドゥ・ルプー、アイザック・スターンなど著名な音楽家とも共演する。

1973年、カリフォルニア大学助教授に就任、翌年ニューヨーク国際ヤング・コンサート・アーティスト賞を受賞。1979年にカルロ・マリア・ジュリーニの率いるロサンゼルス・フィルハーモニックの首席ヴィオラ奏者に任命された後、指揮の勉強を始める。1987年、アンドレ・プレヴィンにロサンゼルス・フィルの副指揮者に任命され、定期コンサート、ハリウッドボール、青少年ロサンゼルス交響楽団夏季トレーニング・オーケストラを指揮する。   

その後、オペラ・リヨン、ロイヤル・フィル、ボルティモア響、ハレ管、サンフランシスコ響などと共演。日本では1991年に京都市交響楽団を指揮してデビュー。以降読売日響、新日本フィル、札響など、数多くのオーケストラを指揮している。

1992年にはサンタフェ室内音楽祭の芸術監督に、1993年にはニューヨーク州のカユガ室内オーケストラの指揮者兼音楽監督に就任。1973年から2003年までカリフォルニア大学教授、1982年から2017年までサンタバーバラ室内管弦楽団音楽監督を務める。

1999年から5年間、九州交響楽団の常任指揮者、2004年から2008年まで大阪シンフォニカー交響楽団(現、大阪交響楽団)ミュージック・アドヴァイザーおよび首席指揮者、2007年から2009年までながさき音楽祭音楽監督を歴任。文化庁の‘芸術祭優秀賞’、米国‘サンタバーバラ市文化功労賞’を受賞。

現在“ミュージック・ダイアログ” 芸術監督。CHANEL ピグマリオンデイズ 室内楽シリーズ 芸術監督。ロベロ劇場室内楽プロジェクト芸術監督 ©Tsuru

ブルックナー「弦楽五重奏曲」は身体のなかに染みついている

大山 ブルックナーの弦楽五重奏曲に出会ったのは1970年代に参加していたマールボロ音楽祭*でのことでした。その音楽祭の参加者の中から選抜されたメンバーが「ミュージック・フロム・マールボロ」としてツアーを行なうのですが、1974年に10回ぐらい仲間(その中には今井信子さんもいました**)と演奏したことで、身体のなかにこの曲が染みついています。

面白いことに、その時にニューヨークでの我々の演奏会があり、同じ週にズーカーマンたちのグループもこのブルックナーの曲を取り上げるコンサートがあったのです。そこで調べてもらったら、ニューヨークでも10年遡っても、ブルックナーの五重奏曲の演奏記録がないと。それぐらいレアな作品を、ブルックナーの生誕200周年の年に取り上げるのは大事だと思いました。

*マールボロ音楽祭:アメリカのヴァーモント州マールボロで1951年、R.ゼルキン、A.ブッシュ、モイーズらによって創設された、室内楽のための教育的音楽祭。カザルスやホルショフスキからヨーヨー・マ、五嶋みどりにいたる名手たちも参加した。教師、学生の区別なく、しばしばベテランと若手によって室内楽のアンサンブルが組まれ、演奏会が催される。

**ジェームズ・バスウェル、ユージン・ドラッカー(vn)今井信子、大山平一郎(va)マデリーン・フォーリー(vc)のメンバーで、このレアな上演はニューヨーク・タイムズでもレビューされた

ブルックナーとミヨーの室内楽でクラシックの多様性を1枚に

ミヨーの「世界の創造」も室内合奏版はたくさん録音があるが、ピアノ五重奏版での録音はとても珍しい。

大山 作曲家本人による編曲だからこそ取り上げました。それに、僕はアメリカでサンタ・バーバラ室内管弦楽団を35年間も率いていたので、室内合奏版はそこで取り上げてよく知っていたのです。

このミヨーの作品の中には、ロンドンやハーレム(ニューヨーク)で流行していたジャズの要素がたくさん入っています。その前には「屋根の上の牛」という作品でブラジル音楽を取り入れていて、ひじょうに幅広い音楽的な要素を持っていた作曲家でした。

ブルックナーがヨーロッパの古典的な音楽の枠組みを持ち、ミヨーには世界的な音楽への眼があるとすれば、ふたりを合わせればクラシック音楽の主要な要素を1枚の録音に詰めこめる、それは面白いと思ったのですが、仲間たちに話したところ、みんなちょっとキョトンとした顔をしていました(笑)。

実力派メンバーの「音の対話」が聴きどころ

その録音メンバーというのが実力派揃い。石上真由子、水谷晃(以上ヴァイオリン)、村上淳一郎(ヴィオラ)、金子鈴太郎(チェロ)、吉見友貴(ピアノ)。

大山 ブルックナーを演奏する上では、石上さんの厚みのある音がとても良いと思っていました。他のメンバーはオーケストラでブルックナーの演奏経験も豊富で、「ブルックナーとは」というイメージをしっかり持っている。それぞれの体験も含めて、豊かな演奏になったと思います。ブルックナーの意外な一面も見えて来るはずです。じっくり楽しんでください。

大山ももちろん演奏に参加しているが、さまざまなバックグラウンドを持つ演奏家たちの対話を、録音のなかに聴き取ることができるはずだ。

ブルックナー「弦楽五重奏曲」を演奏するミュージックダイアログ・アンサンブル:左から石上真由子、水谷晃(以上ヴァイオリン)、金子鈴太郎(チェロ)、大山平一郎、村上淳一郎(以上ヴィオラ)©Taira Tairadate

ミュージックダイアログでは、聴衆とのコミュニケーションや、社会に対するアプローチも含めて若い音楽家を育てている。とくに特徴的なのが、室内楽の初合わせの現場を公開する「公開リハーサル」。レストランでいえば厨房を見せてもらえるようなことで、聴き手にとっては有難いが、音楽家のほうは本番より緊張することもあるという。

商品情報
ブルックナー&ミヨー/ミュージックダイアログ・アンサンブル

収録曲

ブルックナー:弦楽五重奏曲 へ長調 WAB112

ミヨー:バレエ音楽「世界の創造」Op.81b(ピアノ五重奏版)

 

演奏

ミュージックダイアログ・アンサンブル

ブルックナー:

第一ヴァイオリン:石上真由子

第二ヴァイオリン:水谷晃

第一ヴィオラ:村上淳一郎

第二ヴィオラ:大山平一郎

チェロ:金子鈴太郎

 

ミヨー:

ピアノ:吉見友貴

第一ヴァイオリン:水谷晃

第二ヴァイオリン:石上真由子

ヴィオラ:大山平一郎

チェロ:金子鈴太郎

 

解説】小室敬幸

 

商品番号】CD KICC-1619

 

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取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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