インタビュー
2020.08.22
宮本亞門の演出で2年ぶりの再演

黒澤明の名画『生きる』のミュージカル版——強い意志をもった女性2役を歌手May'nが語る

黒澤明の映画を舞台化した『ミュージカル 生きる』が、2020年10月に幕を開ける。2018年の初演につづき、自由奔放で溌剌とした小田切とよと、地に足をつけた現実的な女性・渡辺一枝という一見正反対な2役を、歌手のMay'nが演じる。ミュージカルへの想いを語っていただいた。

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

写真:各務あゆみ

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黒澤明監督の名画を舞台化した『ミュージカル 生きる』(作曲・編曲:ジェイソン・ハウランド、脚本・歌詞:高橋知伽江)が今秋、2年ぶりに再演される。2018年の初演時と同じく、宮本亞門が演出を担い、主役の渡辺勘治を市村正親と鹿賀丈史がダブルキャストで演じる。

30年以上役所に勤めた市民課長の渡辺が、胃ガンのため余命半年を告げられ、ようやく生きることの意味を見出すというストーリー。そんな渡辺が第二の人生を歩むきっかけを作った小田切とよと、渡辺の息子の妻である一枝との2役を、唯月ふうかとダブルキャストで演じる歌手のMay’nにインタビューした。

May'n
2003年ホリプロタレントスカウトキャラバン”ラブ・ミュージックオーディション”にてファイナリストとなったのをきっかけに2005年若干15歳にしてメジャーデビュー。POPSからROCK、DANCE、R&Bと幅広く歌いこなす実力派女性歌手。

「とよにそっくり」ライヴを見たプロデューサーによる抜擢

——May’n さんにとって、2018年の「生きる」が初めての本格的なミュージカルの舞台だったと聞きました。

May’n いつかミュージカルをやってみたいと思っていました。初演のときは、初めての演技で、不安やわからないことでいっぱいでした。

稽古に入る前から演技のレッスンを受けていましたが、キャストのみなさんはキャリアを重ねた方ばかりで、自分の演技のできなさに唖然としました。何ができていないのか、どういう努力をすればできるようになるのかもわからず、市村(正親)さんの相手役が務まるのか不安でしたが、市村さん自ら『May’n、稽古するぞ』って本読みに誘ってくださいました。キャストやスタッフの方々に助けていただいて、最後は本当に楽しく終えることができました。

——May’nさんは、2年前の初演に続いて、小田切とよと渡辺一枝の2役を、唯月ふうかさんと交替で演じるのですね。

May’n プロデューサーの方は、私のライヴを観て、とよにぴったりだと思われたそうです。自分はとよの溌溂とした感じがつかめなくて、とよ役が難しかったですね。(宮本)亞門さんからは『課長に気を遣うのはとよじゃない』と言われましたが、やはり大先輩の市村さんには気を遣ってしまうのです(笑)。でも、あるときから、とよになれた瞬間がありました。

初めてのミュージカルなのに、さらに2役というのはたいへんでした。それぞれ違うキャラクターですが、ともに自分の信念、生きる意味、目標を持っている女性。どちらの人生も“生きる”ことができたのは貴重な経験でした。

とよは毎日ワクワクしていたい女の子。元気で、渡辺のうじうじしているのも嫌い。未来を変えていきたいと思っています。一方、一枝はちゃんと現実を見ていて、不安も感じながら、一つひとつ課題をクリアしていくタイプ。旦那さんのこと、生まれてくる子どもの未来を背負っている。強い女性の覚悟を感じます。自分は道を組み立てるタイプなので一枝に近いかも。周りからは、とよだよと言われますが(笑)。

稽古で煮詰まったときは、プロデューサーさんが私のライヴを観てとよにぴったりだと考えてくださったように、何も考えず、とにかく楽しく元気を与えたいと思っている自分のライヴのことを思い出します。

ミュージカル版『生きる』は生きるパワーが全開

——『ミュージカル 生きる』は、原作となっている黒澤明の映画とどのように違いますか?

May’n (ミュージカルは)とにかく生きるパワーを感じます。映画を知っている方がこのミュージカルを観たら、びっくりすると思います。亞門さんらしい、ハッピーで華やかなシーンでいっぱいです。もちろん、黒澤監督の映画が原作なので、渡辺は死んでしまいますけど、彼の生きるためのパワーやこうやって生きていくんだというところ、そして、周りのキャラクターの生きるパワーに胸を打たれると思います。私のお気に入りの役所のシーンは、映画よりも、よりコミカルに、よりハッピーに描かれています。

——ジェイソン・ハウランドの音楽はいかがですか?

May’n もちろん『ゴンドラの唄』も出てきますが、それ以上にジェイソンさんのオリジナル曲が大好きなのです。渡辺が最後に歌う『青空に祈った』とか。とよの頭の中を表現しているような『ワクワクを探そう』は滅茶苦茶ハッピーなナンバーです。一方、一枝は、現実的なことを歌って、とよと対比されます。

音楽的に煮詰まったときに、ジェイソンさんからは、「普段のMay’nでいいのに」と言われました。私にとっては新しいチャレンジだったので模索していたのですが、いつものように思いっきり楽しんだらそれが正解だと、彼は教えてくれました。

——ミュージカルでの体験は、シンガーとしてのご自身にどういう影響がありましたか?

May’n ミュージカルを通して、音楽の世界観を伝えることや表現力を以前よりも大事にできるようになったと思います。私はもともと歌詞を届けることを大切にしてきましたが、ミュージカルでは、よりはっきりと言葉を伝えるようになりました。

これまで、自分の曲は自分の得意な音域に合わせていましたが、ミュージカルはそうではないので、苦手だった地声とファルセット(裏声)のミックスの部分も練習するしかありませんでした。ミュージカルでは地声とファルセットの切り替えが自然にできる人が多いですね。ポップスでは、その切り替えが目立っても、そのニュアンスが切なさや悲しさなどの表現につながりますが。

ミュージカルを通して、自然にミックスからファルセットに行くことができるようになり、それをポップスにも活かして、歌い方に広がりができました。ヴォーカリストとしてすごく楽しいです。

——今秋の再演ではどのようなことを楽しみにしていますか?

May’n 前回は東京のみでしたが、素晴らしい作品をもっとたくさんに見てもらいと思っていました。今回は東京以外のところ(注:富山、兵庫、福岡、名古屋)でも見てもらえるのがとてもうれしいです。

今回は、一枝の旦那さんである光夫役の村井良大さんが初めてなので、楽しみです。また小説家とのダブルキャストの組み合わせのミックスも楽しみです。

目の前の相手が変わると自分も変わる。小説家役が小西遼生さんと新納慎也さんとでは違うとよになると思います。

May’n 毎日、いろいろな不安がありますが、『生きる』はワクワクや未来への希望を絶やさずに精一杯生きている、人生を楽しんでいる人たちの物語だと私は思っているので、みなさん一人ひとりのパワーになる、そんな作品になればと思います。是非楽しみにしていてください。

黒澤明 生誕110年記念作品『ミュージカル 生きる』
東京公演

期間 2020年10月9日(金)~28日(水)

会場 日生劇場主催

お問い合わせ ホリプロチケットセンター TEL: 03-3490-4949平日11:00~18:00/土日祝・休 ※一般発売日のみ10:00~13:00)
ホリプロステージ  https://horipro-stage.jp/

富山公演

期間 2020年11月2日(月)~3日(火祝)
会場 オーバードホール
お問い合わせ イッセイプランニング TEL: 076-444-6666 (平日 10:00~18:00)

兵庫公演

期間 2020年11月13日(金)~14日(土)

会場 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

お問い合わせ 梅田芸術劇場 TEL: 06-6377-3800 (10:00~18:00)

福岡公演

期間 2020年11月21日(土)〜11月22日(日)

会場 久留米シティプラザ ザ・グランドホール

お問い合わせ 博多座電話予約センター  TEL: 092-263-5555平日 11:00~15:00  土日祝・休)

名古屋公演

期間 2020年11月28日(土)~30日(月)

会場 御園座

お問い合わせ 御園座 TEL: 052-222-8222 10:00~18:00)

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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