インタビュー
2024.09.18
9月25日待望のデビューアルバム『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲』発売!

山根一仁、いまもなお深化し続けるバッハへの熱い想いの現在地

注目のヴァイオリニスト 山根一仁が満を持してCDデビュー! いよいよ9月25日に発売となる必聴のデビューアルバム『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲』に込められた深く熱い想いを、山根一仁に伺った。

岩永昇三
岩永昇三

北海道出身。早稲田大学を経て、2006年音楽之友社入社。『レコード芸術』『音楽の友』各編集部を経て、現在『音楽の友』編集長。一方でヴィオラ弾きとして、オーケストラから...

写真=ヒダキトモコ

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バッハとの距離が近づいた現在地ならではの表現を聴く、貴重なデビューアルバム

「僕が初めてヨハン・セバスティアン・バッハの作品に感動したのは、小学生のとき。《シャコンヌ》を聴いて、なんてすばらしい作品なんだろうと思いました。いまでもあのときの体験は忘れられません。とくに最後の変奏から冒頭の主題に戻るクライマックスは、魂がゆっくりと鎮まっていくかのようで、今日までずっと大好きな部分です」

そう語るのは、現在最も注目を集めるヴァイオリニストの一人、山根一仁。数多くの日本の若手演奏家が国内外を問わず活躍するなかにあって、ひときわ特異な輝きを放つ逸材だ。

山根一仁(ヴァイオリン)
1995年札幌生まれ。中学校3年在学中、2010年第79回日本音楽コンクール第1位、およびレウカディア賞、黒栁賞、鷲見賞、岩谷賞(聴衆賞)並びに全部門を通し最も印象的な演奏・作品に贈られる増沢賞を受賞。同コンクールで中学生の1位は26年ぶりの快挙であった。以後、桐朋女子高等学校音楽科(共学)に全額免除特待生として迎えられ2014年3月に首席で卒業。高校在学中より国内外の音楽祭、マスタークラスでソロ、室内楽ともに研鑽を積み音楽賞、ディプロマなど数多く受賞した。これまでバーミンガム市響、プラハ=カメラータ、N響、新日本フィル、東京シティ・フィル、日本フィル、都響、東響、札響、山響、京響、大阪フィル、名古屋フィル、アンサンブル金沢など国内外のオーケストラや世界的ソリストたちと共演を重ねるほか、テレビ・ラジオの出演も多い。これまでに故富岡萬、水野佐知香、原田幸一郎、クリストフ・ポッペンの各氏に師事。

「初めて弾いたのは『パルティータ第3番』のプレリュードで、12歳くらいでコンクールに挑戦しはじめたころ。ヴァイオリンで弾きながら、どこか教会に響くトランペットのような高貴な、誇り高い印象を抱いていました。それからずっとバッハのことは大好きなのですが、どこか自分のなかで、権威とか神々しさ、プライドのようなものとセットで捉えるところがありました。

でも20歳になってドイツで勉強をしはじめてから、自分とバッハとの距離がより近くなった感じがしています。バッハの人間的な部分、ある意味で俗っぽいキャラクターが楽曲に表れていることを理解できたのです。また、日常的にドイツ語を使うことで、バッハが記した音符に対しての、細かい発想のありかた、ヴァイオリンを通しての演奏イメージに確信を持てる部分が増えていきました。とくに理由なく『この演奏、いいな』と素直に感じたものが、よく考えるとそうした感覚の積み重ねから影響を受けていて、自分でも驚くことがあったほどです」

そんな山根が自身のデビューアルバムに選んだ楽曲は、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ」全曲。古今東西の名ヴァイオリニストたちが録音を残してきたヴァイオリン作品の頂点に位置する名曲を前に、山根は真摯に、ときに自身の瞬間的インスピレーションを生かしながら、全3日間の録音に挑んだ(場所は宮城県加美郡加美町にある加美町中新田文化会館『中新田バッハホール』)。「バッハのすばらしさを伝えられていたらうれしい」と語るその演奏は、真っ向からひたむきに音符を紡いでいった清々しさ、瑞々しさに満ちた快演である。

 「僕たち演奏家は、楽譜を見てそれを音楽にしますが、聴いているお客さまは楽譜になにが書かれているのかを知らないかたのほうが多いと思うし、それで構わない。知らなくても、バッハのすばらしさは変わらないですし、きっと伝わるものですから。そういう意味で、楽譜そのものはいちばん音楽的ではないもの、と言うことができるかもしれません。

もちろんバッハに限った話ではなく、楽譜の情報を超えて、作曲家がなにを伝えたかったのかをお伝えするのが僕たちの役割ですし、それが作曲家への本当のリスペクトであると思います。演奏家それぞれの個性は、そのなかで自然と滲み出てしまうもので、それが芸術の美しさでもあります。

現時点での僕の考えるバッハ像と今回の録音の演奏は、違う部分もあると思いますが、バッハに対してのリスペクトは変わりません。バッハ演奏の一つの表現として、一つの作品として、たくさんのかたに聴いていただいて、みなさんそれぞれの考えるバッハとどう違うのか、あるいは一緒なのか、楽しんでいただけたらと思います」

アルバム情報
山根一仁『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲集』

https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICC-1621/

KICC-1621~2 定価:¥5,500 (税抜価格 ¥5,000)

[収録内容]

CD1

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001

無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番 ロ短調 BWV1002

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV1003

CD2

無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 二短調 BWV1004

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005

無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006

使用楽器:Nicolò Gagliano(1782)

録音:2024年5月15~17日 中新田バッハホール

岩永昇三
岩永昇三

北海道出身。早稲田大学を経て、2006年音楽之友社入社。『レコード芸術』『音楽の友』各編集部を経て、現在『音楽の友』編集長。一方でヴィオラ弾きとして、オーケストラから...

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