T-SQUAREのリーダー安藤正容の音楽歴と、いい音へのこだわり
43年という日本最長バンドと言ってもいいほど、長い音楽活動の歴史を持つ、カシオペアと並ぶ日本屈指のフュージョンバンド、T-SQUARE。アルバム数は実に46作品、数多くのライブ活動を毎年続け、今年の4月22日にも47枚目の新作「AI Factory」をリリースする。
その歴史を紐解くにはかなりの時間が必要だが、ここではその一端を紹介するべく、リーダーの安藤正容さんにじっくりと話を聞く機会をもらった。
東京生まれの東京育ち。田舎に憧れ、自給自足を夢見るオジサン(多分無理)。中近東の転勤を命ぜられ広告会社を退社し、現在の出版社に就く。FM誌の編集を経験した後休刊と同時...
少年〜青春時代の音楽との出会い
76年に活動をスタート、’78年に『Lucky Summer Lady』でアルバム・デビューしたT-SQUARE(その当時はザ・スクエアというバンド名)。毎年途切れることがないと言っていいほど秀作を出し続けているバンドのリーダー、安藤正容さんとの対面は、3歳年上の聞き手にとっても過去の時間を手繰り寄せながらの話になる。
——まずは、安藤さんの生い立ち、音楽の出会いから聞くことが、後の音楽活動との接点に結びつくことになるのでしょうか。
安藤 そうですね、青春時代の音楽の出会いとなると、小学校3年のとき、おそらく父親が購入したと思いますが、家に当時でいうセパレートステレオが届きました。なにを聴こうかとなって、当時、学校で器楽クラブが花形で、運動会のときのマーチの演奏に感動したこともあったので、母親に「双頭の鷲の旗の下に」などのレコードを買ってもらって聴いていました。
安藤 音楽の授業は正直好きじゃなかったけど、笛とか合奏することに興味がありましてね。お小遣いでは、映画で話題になっていた『メリー・ポピンズ』のサントラ盤を買って聴いたのが最初です。それから小学校6年あたり、加山雄三が家族そろって大好きでギターの真似事をしながら、よく歌をTVで聴いていました。
安藤 年齢的にはビートルズ世代ですが、私はビートルズについては奥手で、最初に中学1年のとき、モンキーズのTV番組「ザ・モンキーズ・ショー」にはまり、特に彼らのナンバーがとっても気に入っていました。でも、実際の演奏をTVライブで聴いてがっかりしてしまい、熱は冷め、ビートルズに興味は移りました。最初に手にしたのが『The Beatles』(通称White album)でしたね。どちらかというと、彼らにとって後半の作品ですね、そこからビートルズを後追いするようになりました。
ポール・マッカートニーの曲に大いに影響を受けました。でも、歳とともにジョン・レノンの凄さがわかってきて、二人の絶妙なバランスと対比(甘口のポールと辛口のジョン)がビートルズの凄さだと理解できるようになりました。ソロのポールには興味はなくなりました。
ジャズ研から本格的に楽器の道に
——青春時代はなかなかウイングの広い音楽との出会いでしたね(笑)。楽器の出会い、音楽活動のきっかけはどんなことからですか?
安藤 もともと、まわりに音楽の好きな友人がいなかったので、TVの影響は大きかったですね。友人に漫画家を目指していた人がいて、自分も将来漫画家になりたいと思った時期もありました。演奏にふれるようになったのは、中学時代の友人が違う高校に入って、その当時珍しいジャズ研に入り、そこでマイルス・デイヴィスの曲をアドリブというか真似事でやっているのが面白そうで。
私はその頃、初めて大阪球場で見た外タレというか、アメリカのロックグループ、GFR(グランド・ファンク・レイルロード)にハマり演奏していたけど、エレクトリック時代のマイルスに「なんだこれ!」となり、自分がエレキを担当して、それにピアノ、ベースとドラムを加えた4人で演奏していました。
その後、明治大学に進学、モダンジャズ研究会で演奏活動を本格的に始めるようになり、その頃よく通っていた名古屋のジャズ喫茶のオーナーからジャズギターリスト、高柳昌行氏を紹介され師事する。そして、76年在学中に大学で活動していた仲間とグループを結成、日大のビッグバンドで名を馳せていた伊東たけしが加入して本格的な活動を開始し、78年『Lucky Summer Lady』でデビュー。一躍フュージョン界を代表する存在となる。
長く続けるバンドの秘訣、これからのこと
——バンドの歴史とともにメンバーも入れ替わりがありましたが、THE SQUAREからT-SQUAREに代わったいきさつを教えてください。
安藤 1987年頃、海外でもコンサートツアーをやるようになり、アメリカのフュージョンバンド、HIROSIMAのオープニング・アクトを務めていたら、向こうのプロデューサーの耳に留まり、『TRUTH』を全米で発売、全米ツアーをすることになりました。その頃、アメリカでSQUARESという似た名前のバンドがあり、アメリカでは、同じようなバンド名は紛らわしく、よくないとのことで、TokyoのT、Tの字に赤い四角というT-SQUAREというバンド名に変更、全米デビューで名乗ることになり、そのまま日本でもその名前を使うことになったんです。
——43年もの長きにわたり、リーダーとしてやってこられてご苦労もあったと想像しますが、どうでしたか?
安藤 このバンドの言い出しっぺもあったし、私はこれはやるしかないという気持ちでした。どのバンドでもリーダーが主導権を握っていますよね。サザンオールスターズなら桑田君だし、渡辺貞夫クインテットだった渡辺さん。でも、うちのバンドは実に民主主義なバンドです。みんなで曲は書くし、トラブルが起きても「まあまあ」と。平和主義ですね。
それと、このバンドには、大学時代からの仲間で、現在も事務所の社長である青木幹夫の存在が大きいですね。彼がノーをだしたらダメになります、彼が絶対ですから!(笑) 言いたいことをお互い言って、喧嘩しても残らない。彼なしでこのバンドは考えられないです。
——バンドの年数、作品もさることながら、ライブにも精力的ですよね。アニバーサリーごとに大掛かりなコンサートを行なったり。
安藤 年間で50本以上をツアーした時代もありましたが、最初の頃、私はあまりライブが好きじゃなかった。上手くできるときとできないときの波があり、そんな不確実なものより、アルバムを作って世のファンに問いたいと考えていました。
歳とともにライブでやることが楽しくなってきて、お客さまの生の反応が楽しみでね。以前に比べてライブ本数は少ないですが。ちょっとしたライブは、別に“あんみつ”というギターデュオでやっています。
45周年(2023年)アニバーサリーですか? これがなかなか大変なんです、今までのメンバー総勢で15人以上になるので、スケジュール調整が大変だし、ステージセットもこれまた大変(笑)。さあ、どうなりますかね?
いい音とは、心に伝わるものなのかどうか
——音へのこだわりについてお伺いしたいです。レコーディングではミックスダウンなどの工程で、どのようなこだわりがありますか?
安藤 エンジニア次第ですね。僕は、あまり同じ人とはやりたくないので、とてもフィーリングが合う方だと、モニターから出た音がすぐOKとなるんですが、あまりフィーリングが合わないと、どのように伝えればいいか困ることがあります。
そういった意味では、95年にロンドンでレコーディングしたアルバム『Welcome To The Rose Garden』は最高でしたね。イエスなどを手掛けたエンジニアのジュリアン・メンデルスゾーンは、曲の重要な部分を深く理解してくれていて、こちらが何も言わなくても理想的な音に仕上げてくれましたね。まさに思い描いた通りの音で、未だにそれを超えられる作品はありません。作品としては、このアルバムが僕の中では、一番のお気に入りです。自分がよくできた作品と世の中に好まれるのとは違うかもしれませんが(笑)。
——さて、普段はどのように音楽を聴いているのかを教えてください。
安藤 音楽は、夜寝るときにスマホに入っているデータをインナーイヤフォンで聴くことが一番多いです。部屋で大きな音を出して音楽を聴くことはしていないですね。
曲作りやアレンジといった仕事では、基本的にヘッドフォンで、たまにモニター用のパワードスピーカーを使います。
——今回、イクリプスのスピーカーを聴いて、どう思われましたか?
安藤 聴いた瞬間に立体的な音像が聴けて、とてもバランスがいいなと思いました。小型なのに、しっかりとベースラインが聴こえました。スタジオで聴いている以上に、ハイファイに聴こえましたね。僕らはスタジオではだいたいヤマハの10Mで判断することが多く、たまにラージスピーカーで聴くと「うわぁ気持ちいいな」とは思いますけど、これはスタジオモニターとしても使えるくらい、音像がはっきりと定位するし、ヘッドフォンと変わらないくらいわかりやすいです。
ギターに付いているリバーブがスーッと流れる方向までわかる感じがしました。今、プラグインでリバーブも山ほど出てて、いつもどんなリバーブにしようか悩むんですが、このスピーカーで聴くと、きめ細かい、荒いといったリバーブの粒立ち、広がり方がとてもよくわかりますね。
こんな小さいのに、スピーカー間が点ではなく、面となって音が聴こえてきて驚きました。奥行き感も出るし。
——どの辺に注目して聴いているか教えてください。
安藤 僕は、ぱっと聴いたときのバランスですね。各楽器がどのように配置されて鳴っているのか、ベースが出すぎていないか、高域がキツくないか、という部分で、音が出た瞬間に気持ちいいか、違和感があるかで「いい音」かが決まってくると思います。なので、このスピーカーは、僕がとても好きなタイプですね。妙に低音が出てて、迫力はあるんだけど、塊になって聴こえるようなものは好きじゃないんですよ。
——安藤さんにとって「いい音」とは?
安藤 音楽って、激しい音楽にせよ、静かな音楽にせよ、聴き手が気持ちよくならないとダメだと思うんですよ。楽曲が製品として世に出て、何かしらのカタチで再生されたときに、「いい音」なのか。「いい音」というのは、ハイファイかどうかではなく、心に伝わるものなのかどうかが大事。肌触りというか、音触りというか。このスピーカーを通じて、自分の作品を客観的に聴くと、それが出ていた部分、出ていない部分がすごくよくわかりました。アコギをポーンと弾いたときのリバーブがどう広がっていくのかが、わかりましたね。めちゃめちゃ解像度が高いので、よく作られた音楽は気持ちよく響くと思います。
——最後に、この製品を使ってみて、音や使い勝手などの要望はありますか?
安藤 音に関しては、何も言うことがないと思います。ぜひパワードスピーカーでブルートゥース対応があると嬉しいですね。
4月22日発売 価格:3,700円(税込)
CD/SACDハイブリッド&特典DVD(OLCH10017-18)
通算47枚目オリジナルアルバム、名匠バーニー・グランドマンによるマスタリングのSACDハイブリッド盤。5月20日にはLPも発売予定。
問い合わせ先:ティースクエア・ミュージックエンタテインメント Tel. 03-6820-8384
詳しくはこちら
T-SQUAREのメンバーは、左から伊東たけし(Sax,Ewi)、河野啓三(Key)、安藤正容(Gt)、坂東慧(Dr)。
5月24日(日)Zepp Nagoya
開場16:00/開演16:30
6月6日(土)なんばHatch
開場16:00/開演16:30
7月19日(日)LINE CUBE Shibuya(渋谷公会堂)
開場15:15/開演16:00
7月23日(木祝)Zepp Fukuoka
開場16:00/開演16:30
8月16日(日)Zepp Sapporo
開場16:00/開演16:30
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