インタビュー
2022.10.05
記者会見でアンバサダーの石丸幹二と対談!

アンドレア・モリコーネ、敬愛する父の意志を継ぎワールドツアーでタクトを握る~『ニュー・シネマ・パラダイス』「愛のテーマ」誕生秘話

11月5日(土)と6日(日)に東京国際フォーラムで開かれるエンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』に向け、同公演の指揮者でありエンニオ・モリコーネの息子のアンドレア・モリコーネが緊急来日。都内のイタリア大使館にて公演に向けた記者会見に参加した。共に登壇したのはジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア大使、本公演のオフィシャル・アンバサダーを務める俳優の石丸幹二。アンドレアは会見で、モリコーネ親子の絆について静かに語った。

取材・文
三木鞠花
取材・文
三木鞠花 ONTOMO編集者

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

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エンニオ・モリコーネの企画を受け継ぎ、指揮台に上がる

今回のコンサートは、2020年にこの世を去った巨匠エンニオ・モリコーネが、存命中にプログラムや構成など、すべてを企画した。それをエンニオの次男であるアンドレア・モリコーネが受け継いで、ワールドツアー開催に至る。コンサートに先立ち、イタリア大使館で記者会見が行なわれ、ジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア大使、アンドレア・モリコーネ、そしてオフィシャル・アンバサダーとして石丸幹二が登壇した。

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記者会見は、大使による挨拶から始められ、「未だかつてない唯一無二のコンサートだと聞いています。東京から世界ツアーが始まるので、日本の多くのファンの皆様へのプレゼントになるのではないかと思います。最初の一音から彼の作品だとわかるような音楽で、世界中に感動を与え、一度聴いただけでも記憶に残ります。この世界ツアーが多くの観客を魅了し、新たな発見をもたらし、またさらにファンが増えるのではないかと思います」と歓迎の意を表した。

アンドレアは「父の音楽に捧げられた素晴らしいコンサートを行なうにあたり、記者会見を開いていただくという格別な名誉を与えてくださいましたことを、心より御礼申し上げます」と感謝の気持ちを述べ、次いで石丸が「世界ツアーが日本から始まるということで、世界中の人たちに素晴らしいモリコーネの音楽が伝わることを祈っておりますし、拝聴するのを楽しみにしております」と挨拶した。

今回は、門外不出と言われたエンニオ・モリコーネの楽譜を用いて、指揮台に上がるという。父親の意思を引き継ぎ、父親のスコアを見て指揮をするアンドレア。父・エンニオとの関係に、どのような想いを抱いているのだろうか。

10歳で父のような作曲家になりたいと決意し、24歳で『ニュー・シネマ・パラダイス』の「愛のテーマ」を共作

石丸 『ニュー・シネマ・パラダイス』がエンニオ・モリコーネさんの音楽と最初に出会った作品だったのですが、なんと、アンドレアさんがあの「愛のテーマ」を作曲されたということを知りました。僕が一番好きな曲なんです。最後にキスシーンをつなぎ合わせたフィルムを主人公が観るときに流れるのが「愛のテーマ」で、あのシーンを思い出すだけで、私はもう涙腺が緩んできます。

『ニュー・シネマ・パラダイス』より「愛のテーマ」

アンドレア 『ニュー・シネマ・パラダイス』の「愛のテーマ」は、唯一、父と一緒に作曲しました。私にとってはかけがえのない作品です。

24歳のときに、電話で父から「電話の曲を書いてみないか」と言われて、脚本を見せられたのです。私はすぐにそのテーマ曲を書き、父のもとに行きそれを見せたのですが、父はとても気に入ってくれました。コードを2つ加えて、すぐにオーケストレーションをしてくれて、この音楽は最後のキスシーンに使われました。メロディは僕のものですが、父と一緒に作った唯一の作品なのです。そういう意味では、私にとっては非常に大切な作品です。

アンドレア・モリコーネ
イタリア出身。作曲、指揮の両分野で豊富な経験を持ち、クラシックやコンテンポラリーから、映画音楽やクロスオーバー楽曲まであらゆるジャンルの楽曲を手掛ける。
代表作は、イタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の「愛のテーマ」。彼の父親であるエンニオ・モリコーネとの共同作品で、英国アカデミー賞作曲賞を受賞した。
また、作曲活動だけでなく、ロサンゼルスからモスクワ、ロンドンからベネズエラまで、世界中で多くのコンサートを行い、スティング、アンドレア・ボチェッリ、ジョシュ・グローバン、ヨーヨー・マなど、多くのアーティストと共演。2015年ミラノ国際博覧会のテーマソングを作曲、アンドレア・ボチェッリが歌唱。

石丸 感動的な誕生秘話ですね。お父様はどのように映画音楽を作曲されていたのか、アンドレアさんの目にどう映っていたのか、教えていただけますか?

アンドレア 父は天才でしたので、自然に作曲をしていました。彼は机に向かって作曲していて、ときどきコードなどを確認するためにピアノに移動しましたが、ピアノはほとんど必要としていませんでした。

石丸 アンドレアさんは、お父様のそういう姿を見て、ご自分も作曲家になろうとおもわれたのですか?

アンドレア そうですね。10歳のときに、父の音楽作品が大好きでしたので、作曲家になりたいと心に決めました。でもその過程は、非常に難しく、厳しいものでした。ですが、作曲家になってよかったと思っています。

ここでもう一度、『ニュー・シネマ・パラダイス』の話に戻りたいと思うのですが、あのメロディを父はとても気に入ってくれて、映画が公開されたあとも、いつも褒めてくれていました。偉大なエンニオ・モリコーネが、この僕に、「このメロディはいつも意外なタイミングで僕の頭に浮かび、よく流れる。これは大したものだぞ!」と言ったんです。僕は「そんなことはない。僕はお父さんの音楽が好きなんです」と答えました。

「デボラのテーマ」に秘められた説得力

石丸 エンニオさんが一番好きだったのは、息子さんの曲だったかもしれませんね。僕はコンサートで『海の上のピアニスト』の「愛のテーマ」を歌ったことがあります。映画の最後で歌われる曲を日本語に訳したもので、とても好評でした。これからもエンニオさんの曲をどんどん歌っていきたいという気持ちでいっぱいです。数あるお父様の作品の中で、アンドレアさんが一番好きな曲を教えていただけますか?

アンドレア 「デボラのテーマ」です

石丸 今回のコンサートでは演奏されますか?

アンドレア はい、コンサートの前半で演奏します。まずこの曲が好きな理由は、弦楽器の曲を書くというのは、非常に難しいことだから。特に5つの楽器(ヴァイオリン2パート、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)で、流麗なメロディを作曲するのはとても難しいのですが、この作品はとても美しいメロディです。ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチの作品と比較すると、同じような美しさがあると思います。この曲の魅力は、パウゼ(すべての楽器が休符の際に生じる間)と音の進行だと思います。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』より「デボラのテーマ」

アンドレア この曲には一つの戦略があります。チェロとコントラバスから始まり、長い音を弾きます。それからファースト・ヴァイオリンがメロディを奏で、それを追ってセカンド・ヴァイオリンが演奏しますが、リズムが微妙に違うのです。チェロとコントラバスがほかの楽器の動きを待ちます。そして、父が「驚異のコード」と名付けた和音を弾く準備をします。つまり、9度の跳躍があり、ディミヌエンドします。

要するに、このテーマの構造は、レトリックなもので、非常に大きな表現の力を持っています。ローマ時代の雄弁家たちが演説をしたかのように、そして動きをもってそこに到達します。人に感動を与える、納得をさせるメロディなんです。これは映画に合わせて素晴らしい形で盛り上がっていくのです。

アンドレア 弦楽器だけのテーマというのはなかなか少ないと思います。『プラトーン』という映画の中に、数少ない例の一つとしてあります。また、マーラーの交響曲第5番の第4楽章も、弦楽器のためのテーマがあります。父はこの曲が大好きで、この曲をよく聴いて僕に話してくれました。なぜなら、このメロディをヴァイオリンの4番目の弦(一番低い弦)で演奏するからです。一番低い音こそ、ヴァイオリンの本来の音、声なのです

マーラー:交響曲第5番より第4楽章

石丸 ミュージシャンがエンニオさんがご存命中に一緒に演奏していた仲間がイタリアからいらっしゃいます。日本のオーケストラやコーラスと合わせてヨーロッパからアーティストがやってくる、ここも見どころ、聴きどころですね。

アンドレア ご紹介いただいたミュージシャンですが、イタリアからは5人が来ます。エレキギター、エレキベース、ピアノ、キーボード、ボーカルが来ます。彼らがこの演奏会のリズムの部分を担当します。

石丸 モリコーネ・ワールドを皆さんに楽しんでいただけたらと思います。ぜひホールに行ってご自身の耳で確かめていただけたらと思います!

エンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』
公演情報
エンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』

日時: 2022年11月5日(土) 16:00開場/17:00開演、 11月6日(日)【昼】11:00開場/12:00開演・【夜】15:30開場/16:30開演

会場: 東京国際フォーラム・ホールA     

出演: アンドレア・モリコーネ(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団(オーケストラ)、レアンドロ・ピッチョーニ (ピアノ)、マッシモ・ダゴスティーノ(ドラム)、ナンニ・チヴィテンガ(ベース)、ロッコ・ジファレッリ(ギター)、ヴィットリアーナ・デ・アミーチス(ソプラノ)、ステファノ・クッチ(合唱指揮)、GLORY CHORUS TOKYO(合唱)

料金: S席15,000円、A席13,000円 、学生席5,000円

取材・文
三木鞠花
取材・文
三木鞠花 ONTOMO編集者

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

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