インタビュー
2021.11.17
映画『ミュジコフィリア』原作者

さそうあきらが『ミュジコフィリア』で描いた“生活の延長線上にある音楽”とは

11月19日に全国ロードショーの映画『ミュジコフィリア』。原作者である漫画家のさそうあきらは、今作をはじめ、天才ピアノ少女を描いた『神童』、オーケストラと謎の指揮者で音楽を奏でる『マエストロ』など、音楽にまつわる作品を残してきた。独自の捉え方で音楽を描くさそうさんに、音楽の原点や現代音楽への思いを聞いた。

構成・文
桒田萌
構成・文
桒田萌 ライター

1997年大阪生まれ。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。音楽をはじめとする、幅広いジャンルで取材・執筆を行う。『まいどなニュース』『デイリ...

写真:各務あゆみ

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音楽漫画の原点はインドネシアにあり

——この度は映画化、おめでとうございます。すでに作品は観られましたか?

さそう はい、2回観ました。自分も撮影に参加し、ワンカットのみカメオ出演もしました。気づいていただけますでしょうか。

——はい、気づきました(筆者注:どこのシーンかは、映画館でのお楽しみに!)。

さそう 今回、僕の作品が映画になるのは5本目で、初めて脚本の制作段階で口を挟ませていただきました。『ミュジコフィリア』は現代音楽が大きなテーマですが、同時に異母兄弟の漆原朔と貴志野大成の葛藤の話がメインでもあるので、そこは押さえてほしい、と。

原作では、僕の考える現代音楽をとにかく詰め込んだので、物語の落としどころに迷ったんです。結局は裏テーマの「音楽の無名性」みたいなものを持ってきて、朔は自分の作品が自分だけのものでなくなり、喜びを見つけ、大成は神に捧げる音楽を作る……そんな終わりでしたが、映画では映画ならではの締めくくりになりました。

『ミュジコフィリア』
作:さそうあきら
2011〜2012年、『漫画アクション』(双葉社)で連載された。『神童』『マエストロ』に続く音楽シリーズ第3作。
京都の芸大を舞台に、現代音楽に没頭する学生たちの群像劇や兄弟の葛藤が描かれる。全5巻。

——今回の『ミュジコフィリア』に限らず、『神童』『マエストロ』でも音楽に関する作品を描いています。音楽を描くことに対して、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

さそう そもそも私は、子どものころからクラシック音楽が好きでした。世の中には、クラシックや現代音楽を聴き、それを退屈だと突き放してしまう人も多くいるかと思います。しかし、漫画で描くと、読者はそれぞれの頭の中で、自分にとって一番気持ちのいい音楽に変換して読んでくれるんです。逆説的ですが、音が聴こえない漫画だからこそ、私の持つ「音楽が好きだ」という気持ちをもっとも伝えられるのだと思います。

さそうあきら/漫画家
1961年、宝塚市に生まれる。早稲田大学第一文学部卒業。第2回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞および第3回手塚治虫文化省を受賞した『神童』、第12回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『マエストロ』、そして今作『ミュジコフィリア』の音楽三部作を残した。そのほか、『シロイシロイナツヤネン』『俺たちに明日はないっス』『コドモのコドモ』など多数。2006年より15年間、京都精華大学マンガ学部マンガ学科の専任教員を務める。

生活と音楽はつながっている。京都の街の音を描いた『ミュジコフィリア』

——作品を描かれるうえで、音楽家や業界の方に取材を重ねられていますよね。しかし作品からは、それだけでは掴みきれないような、深い音楽の捉え方が垣間見えます。その原点はどこにあるのでしょうか。

さそう 高校生のころに現代音楽に興味をもち、ストラスブール・パーカッション・グループのコンサートに行ったり、大学卒業後にガムラン演奏を習い始めてインドネシアに行ったりしました。
音楽をいろんな角度から眺められる視点をもったことが、作品の中に色濃く反映されていると思います。

ストラスブール・パーカッション・グループの演奏によるクセナキス《プレイアデス》

バリのダンスグループ「グヌンサリ」に合わせて奏でられるバリ・ガムラン

インドネシアのバリ島では、島民みなが芸術家で、「仕事が終わった、さて音楽だ」というようなノリがあります。芸術の存在が、特別なものではないんですね。音楽と生活ってこんなにつながることができるんだ、と気付かされました。

——確かに、漫画『ミュジコフィリア』では、生活の中の音を通して「音楽って何なんだろう」と問いかけるシーンが多かったように思います。さそう先生の場合はそれをインドネシアで経験したわけですが、作品では舞台が京都でした。鴨川でエオリアンハープを張るシーンもあり、土地の音を生かした音作りが印象的でした。

さそう 2006年より京都精華大学で教員を務めていることもあり、「京都の街を音として表現したい」という思いがありました。それに、京都にはライブハウスもあり、ノイズミュージックも盛んです。伝統的なものと新しいものが溶け合っている街。舞台にぴったりだと思いました。

——漫画は視覚的な芸術ですが、音楽は聴覚的な芸術です。漫画で音楽を描くうえで、意識したことは。

さそう 漫画でできることは、いろいろ試しました。例えば古典的な手法ならば、音を絵で表現すること。しかしほかにも、「この演奏者はこんなに良い楽器を使っていて、こんな演奏をしている」という、読者の知らないうんちくを披露することで、音を伝える、ということも考えましたね。

しかし、もっとも力を入れたのは、エピソードそのもので音を伝えるということ。『神童』では、主人公の天才少女・うたが、思いを寄せる音大生からもらったりんごをかじり、頭の中で彼の奏でる音楽が流れる……というシーンを考えました。日常の音と音楽はつながっているんだ、ということを表現したかった部分ですね。

——バッハの《マタイ受難曲》の中のモチーフが使われていた『桜の木の下に眠れるもの』(第1巻)など、架空の音楽作品が多数登場しました。こうした作品は、どこからアイデアが浮かぶのでしょうか。

さそう 小さい頃から、「こんな音楽があればかっこいいな」「こういう楽器を使うといいだろうな」とよく考えていたんです(笑)。作曲はできないのですが、考えるのは楽しかったです。

埋もれてしまう「天才」を知ってほしい

——『神童』では主人公でピアノ弾きの少女・うた、『マエストロ』では指揮者・天道徹三郎、『ミュジコフィリア』では天性的な音楽の才能を持つ朔。いずれも「天才」がいて、彼らの存在が物語で重要になっています。どうして「天才」を描くのでしょうか。

『神童』/さそうあきら
音楽大学を目指す浪人生の菊名和音と、ピアノの天才少女・うたが出会い、ピアニスト同士で交流を深め、互いに音楽家として成長していく。
『マエストロ』/さそうあきら
すでに解散した名門オーケストラが、謎のマエストロを迎えて再結成する。それぞれのキャラクターや楽器の物語を描きながら、一致団結し再び表舞台に立つことを目指し奮闘する物語。

さそう 誰しも、天才に対する憧れはあると思うんです。天才たちは、凡人とはまったく違う価値観をもっていて、違う視点で世界を観ている。そのため、どんなエピソードで天才を表現するのかということを考えるとわくわくしますし、それが読者に伝わればいいなと思っています。

『ミュジコフィリア』の取材のために、武生国際音楽祭や秋吉台の現代音楽セミナーに行きました。そこには、日本の最高峰ともいえる音楽の天才たちが集まっていて。しかし、それにもかかわらず、地元の人たちもほとんど関心をもっていない……そのことを残念に思いました。「どうすればこの天才たちの存在を知ってもらえるのか」という問題意識が、ミュジコフィリアを描く強い動機になっています。

——才能ある音楽家を世に知ってもらい、音楽と人々を近づけるという意味では、やはり「生活と音楽」というテーマにつながりますね。

さそう コロナ禍で「不要不急」という言葉が話題になりました。しかし、不要不急なことを生きがいにしているのが、人間だと言ってもいいでしょう。

芸術も「不要不急なもの」とみなされがちですが、私は人間にとって必要なものだと考えています。そのため、それを生活の延長線上でいかに取り入れていくかを考えなければ、と思います。

そのため、バリ島の人たちと音楽との距離感は、理想的で参考になります。

——最後に、さそう先生から映画『ミュジコフィリア』の観どころをお願いします。

さそう 漫画の中では聴こえなかったものが、音楽として聴こえる。それが映画の良さですよね。『神童』も『マエストロ』も映画化されましたが、現代音楽のおもしろさがダイレクトにわかるという意味で、『ミュジコフィリア』がもっとも映画化に向いているのではないか、と思っています。俳優の皆さんも熱演ですので、ぜひこれを機に現代音楽の魅力を知ってほしいですね。

映画情報
『ミュジコフィリア』

公開:11月19日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
11月12日(金)京都先行公開

出演:井之脇海、松本穂香、川添野愛、阿部進之介、縄田カノン、多井一晃、喜多乃愛、中島ボイル、佐藤都輝子、石丸幹二、辰巳琢郎、茂山逸平、大塚まさじ、杉本彩、きたやまおさむ、栗塚旭、濱田マリ、神野三鈴、山崎育三郎

原作:さそうあきら「ミュジコフィリア」(双葉社刊)

脚本・プロデューサー:大野裕之

監督:谷口正晃

主題歌:松本穂香「小石のうた」(詞・曲:日食なつこ)

主題ピアノ曲:古後公隆「あかつき」「いのち」

音楽プロデューサー:佐々木次彦

音楽:橋爪皓佐、池内奏音、宮ノ原綾音、長谷川智子、植松さやか、小松淳史、大野裕之

チーフ・エグゼクティブ・プロデューサー:柴田真次

制作:フーリエフィルムズ

製作幹事:劇団とっても便利

配給:アーク・フィルムズ

特別協賛:伊藤園
協賛:キャビック、お弁当のいちばん、小室整形外科医院
後援:京都市
特別撮影協力:京都市立芸術大学

©️2021 musicophilia film partners ©️さそうあきら/双葉社

構成・文
桒田萌
構成・文
桒田萌 ライター

1997年大阪生まれ。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。音楽をはじめとする、幅広いジャンルで取材・執筆を行う。『まいどなニュース』『デイリ...

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