石若駿が即興の魅力を語る〜「その人」が見える演奏が面白い!
「Echoes for unknown egos—発現しあう響きたち」の初演で、AIとのセッションというコンセプトもさることながら、観客の心を掴んだのは、打楽器奏者・石若駿さんの「即興演奏」の素晴らしさ。ジャズドラマーとして活動を始め、ロックやクラシックを学んだ石若さんが考える「即興」の魅力とは? 公演に接した生形三郎さんが伺いました。
オーディオ・アクティビスト(音楽家/録音エンジニア/オーディオ評論家)。東京都世田谷区出身。昭和音大作曲科を首席卒業、東京藝術大学大学院修了。洗足学園音楽大学音楽・音...
「はじめまして」の数分後に一緒に演奏できるジャズのコミュニケーション能力
——今回、「Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち」という作品をYCAMと共同制作されましたが、その核となるのは、やはり「即興演奏」だと思います。石若さんにとって、即興演奏とはどういうもので、どのようなところに魅力を感じられているのでしょうか?
石若 即興を主体とするジャズという音楽は、演奏するミュージシャン側から見ると、一枚の楽譜にメロディとハーモニーが書いてあって、最初に一度メロディを演奏して、それについているコード進行を奏者のスタイルやバックグラウンドによって、アドリブで組み立てていく、というやり方の音楽です。そういったアドリブによる自由な表現、曲の中で演奏者がどういう演奏をするのかというものに小学生の時に出会って、凄く不思議な力があるなと思ったのです。
石若 アンサンブルで、誰か一人がアドリブでソロを演奏しているときに、それ以外の楽器の人たちが、そのソロに耳を傾ける行為が凄く面白いなと思って。誰かと初めて一緒に演奏するようになったのがジャズだったので、こんなに自由な音楽があるのだと驚きました。
例えば、メロディとコードがあり、演奏のボキャブラリーを持っている人であれば、「はじめまして」と出会った数分後には一緒に音楽ができる。こんなに自由なことがあるのかと。
そこからジャズを深く勉強していって知ったジャズの好きな部分に「その人の人生でどうやってその人の音楽が変わっていくか」ということがあります。
例えばジャズの帝王と言われるマイルス・デイビスであれば、1940年代はこの人のバンドでこういう音楽をやっていた、50年代では自分のバンドでこういう音楽をやって世の中に衝撃を与えた、60年代でスタンダードからより自由な音楽へと向かっていき、70年代にはジミ・ヘンドリックスやビートルズなどの影響も受け、80年代は病気で大変だったけど、91年の亡くなる直前のコンサートでは50年代に自分がやったことを再現したとか。この人は、こういう変化を残してきたのかというのを見るのが好きなんです。
石若 トラディショナルなことをやってきた人でも、新しいことがやりたくなってフリージャズのバンドを組んだり、そういう変化の振れ幅が大きなところも魅力だと思います。そのような気持ちを分かりたいと思って、そこから学ぶものがあったことも、今回の作品でのチャレンジに繋がっているのだと思います。
クラシックから学んだ相応しいタイミングやピッチ感覚
——石若さんは、ジャズだけではなく、東京藝術大学などでクラシックも勉強されていらっしゃいますね。
石若 はい、クラシックを学んだ藝高、藝大時代は、専門的な知識や理論などを鍛えられました。譜面から情報を読み取る力は勿論ですが、ジャズだけをやっていたら分からない耳の使い方ができたのが良かったです。例えば、オーケストラでトライアングルをチーンとやる体験などは、その音楽にとって、その演奏場所で、一番いいタイミングで、それにふさわしい音をだすためにはどうしたらいいのか、などを学びました。それは、それまでのジャズとかロックとかでは学べなかったことですね
現代ギリシャの作曲家ヤニス・クセナキス作曲「6人の打楽器奏者のためのPersephassa」を演奏する石若
——今回の作品(取材前に行なわれた「Echoes for unknown egos—発現しあう響きたち」の初演)でも、曲中やインスタレーション作品で、AIのエージェントが演奏するシンバルの響きのピッチ(音程)にフォーカスするというアプローチがありましたが、そういった部分も関連していますか?
石若 打楽器はマリンバやヴィブラフォンなどは別として、ドラムはピッチを担うことは少ないですよね。C Major(ドミソ)とか、コードを演奏することは出来ないですけど、C Majorと思ってマレットでシンバルを叩くときと、何も考えずに叩くときとで全然違ってくる。体の力の入れ具合とか抜け具合で、もしかすると何か違っているのかと思います。
例えばドラマーでも、ハーモニー感覚が優れている人や、ピッチ感覚を持った凄く耳の良いドラマーが居て、その人の演奏を聴くと、そういったことを意識していることがよく分かるんです。音楽のハーモニーの移り変わりとかに対して、ドラマーが持っているハーモニーの感覚とかセンスによって、纏うサウンドが違うのかなと思っています。そういう意味で、逆説的に、そういったものを見せるため、出すためにはどうしたらいいのかと常々考えています。
即興は、演奏する人が持っているコンテクストが見えてくるのが面白い
——石若さんの中での、演奏の善し悪しがあるとすると、それはどのようなものですか?
石若 意図せず面白いものが出来てしまった瞬間というか、今日の演奏でも思いましたけど、印象に残る瞬間がある演奏が良いなと思います。こういう景色が見えた、こういう記憶が残っている、とか、終わった後全部は覚えていないけど、こういうコトが印象的だったとか。
それが今まで自分が経験したことのない状況だったら、それをもとに、どんどんガシャンガシャンと、鎧のように自分に身に着ける。こういうことをすれば、こういう響きが得られるということを覚えて、次にはその響きを実際にすぐ出せるようになっていたり。
——今回のAIとのセッションは、そういった未体験のものを如何に発見できるかということも到達点のひとつでしたか?
石若 そうですね、今回のAIとのセッションは、「あー、こういうテーマを出したいのに自分の技術がついていっていないな」とか、逆にどうしたらこう出せるかなと考えて奏法を変えたり、この小物の打楽器を組み合わせたら出せるかもとか、そういう自分の中でやったことのないものを発見することができる音楽作品ともいえます。
バックグラウンドはジャズにあるけれど、自分にとって聴いたことのない展開などに興味があるので、今回この作品をやってみて、自分はこういうやり方で音楽をやっていたのだと、方法とかスタイルが良くわかりました。そして、その自分が好きなコンセプトや、やり方があって、それをコンピューターに教えてあげることで、自分自身がより上手く演奏できるようになったかなと思っています。
——即興というものは、自由なだけに、非常に奥が深いものですね。
石若 即興は、演奏する人が持っているコンテクストが見えてくるのが面白いんです。よく思うのですが、即興・インプロビゼーションというものを勘違いしている人が多い。内橋和久さんというギタリスト・サクソフォン奏者共演したときにも、「即興演奏をちゃんとやっている人は少ないし、それをもっと言っていかなきゃ駄目なんだ」と仰っていたのですが、それは私もすごく感じます。
海外の演奏会場でブッキングされて、本番の5分前に初めて出会った人であっても、一緒に演奏をすると「あ、この人はこういうことが好きで、こういうやり方でやっているんだな」というのが伝わってくるのが楽しい。そういうところも即興の魅力のひとつですね。
——本日は本番直後のお疲れのところ、誠にありがとうございました。
関連する記事
-
東京音大で社会学者・宮台真司が「アーティストにしかできないこと」をテーマに特別講...
-
「クリスマス」がタイトルに入ったクラシック音楽15選
-
サー・アンドラーシュ・シフがカペラ・アンドレア・バルカの活動終了を発表
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly