インタビュー
2019.10.29
クラシックで踊ったことある? シンフォニアクス インタビュー

フロアをクラシック×EDMで熱狂させるエリート集団「シンフォニアクス」が日本デビュー

こんなに本気でEDMに取り組むクラシックミュージシャンたちはいただろうか? しかも、彼らはそれぞれアカデミックな教育を受けた一流のミュージシャンたち。

ヨーロッパで人気を博し、2019年11月に満を持してアジア・デビューを果たすシンフォニアクス。「クラシック音楽で踊ったことある?」のメッセージを掲げて日本にやってくる、彼らの音楽的ルーツ、活動への思い、Newアルバムの聴きどころまでたっぷりと伺った。

取材・文
東端哲也
取材・文
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

photo:Toru HASUMI

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クラシックでEDM!? 話題のイケメン・エリート・チームが日本デビュー

パーティーで最速テンションMAXになれる楽曲としてお馴染みの、人気DJたちが手がけるEDM(Electronic dance music)の数々。それらを本気でカヴァーし、ヨーロッパの音楽シーンで大きな話題を呼んでいる若手のクラシック奏者集団を発見!

シンフォニアクス(SYMPHONIACS)は、ドイツを拠点に活躍するヴァイオリニスト×3人、チェリスト×2人、ピアニスト、そしてエレクトロ担当の7人からなる“イケメン・エリート”チーム。メンバーはそれぞれ異なるバックグラウンドを背負っているが、いずれも名門音楽学校で学び、著名なオーケストラとの共演やソリストとして活躍を重ねている強者(つわもの)揃い。

 彼らがEDM曲やコールドプレイ、ダフト・パンクのヒット・ナンバーなどをクラシカルな楽器を用いて、よりダイナミックで洗練されたサウンドに変身させたり、バッハやヴィヴァルディの名曲に躍動感あふれるエレクトロニックなリズムトラックを導入して演奏すると、客席はすぐさまノリノリ状態。クラシックなコンサート・ホールが一大ダンス大会の会場と化してしまうとか。

そんなシンフォニアクスが、まもなく本格的なアジア進出を果たす。11月15日に東京国際フォーラムで初の日本公演が決定し、それにあわせて日本盤デビュー・アルバムもリリースされる。このたび、プロモーションで事前に訪れていた6人に直撃インタビュー。

まずは簡単なプロフィール紹介とメンバーからのコメントを……。

7人のメンバーのうち6人がプロモーションのために来日。普段は個々の活動も忙しいメンバーたち。集合できたことが嬉しかったようで、和気あいあいとした取材となった。

ヨハネス・フライシュマン(ヴァイオリン)

ウィーンの音楽一家に生まれて、ウィーン国立音楽大学を卒業。ウィーン・フィルを始めとする、さまざまなオーケストラに定期的に客演し、多くの巨匠指揮者と共演。オーストリア外務省より音楽大使に任命されており、来日経験も多い。2019年も1月に「日墺友好150周年記念イヤーキックオフ ニューイヤーコンサート」で演奏し、9月にジャパン・ツアーを成功させたばかり。

ヨハネス: この中でいちばん日本に来ているかも……合計で18回くらいになるかな。もはや第2の我が家だね。でも、シンフォニアクスとして、メンバーと一緒に来られるのが嬉しい。ヴァイオリンの音色、特に高音の響きが好きなんだ。子どもの頃はずっとチェロを勧められていたんだけれど、今はヴァイオリン奏者になれて良かったと思う。

クリスチャン・キム(ヴァイオリン)

ドイツ人化学者の父親と韓国人ピアニストの母親をもつ、ボストン生まれのドイツ育ち。カールスルーエ音楽大学、イェール大学の修士課程も卒業。現在、ソウル大学で博士号取得を目指しながら、江南大学校で教鞭をとる。世界各国でソリストとして活躍しているほか、ユーゲント・ムジツィールトの審査員を務め、ドイツと韓国でマスタークラスやワークショップも開催している。

クリスチャン: 子どもの頃からずっとアカデミックな世界にいて研鑽を積み、2016年からシンフォニアクスでも活動を始めた。保守的だった僕の目を開いてくれて、特にライヴでのパフォーマンス、魅せ方について意識するようになったよ。普段ポップスを聴いている人にとってクラシック音楽の入り口になり、クラシック・ファンには新しいアイデアを提案する、そんな存在になりたい。教鞭に立って教える身でもあるので、若い世代にとって良い見本になれればいいね。どんなジャンルの作品でも自分に嘘をつかない演奏をする姿を見せたい。

トム・スーハ(ヴァイオリン)

ハンガリーのブダペスト生まれ。世界的に有名なピアニスト、ジョルジュ・シフラを大叔父にもつ。数多の名ヴァイオリニストを世に送り出したレオポルト・アウアーの姪であるエリザベス・スカルテティのレッスンを受け、バルトーク音楽高校に入学。リスト・フェレンツ音楽大学を首席で卒業後、多数のマスタークラスやリサイタルを開催、自身で編曲も手掛けている。

トム: 2歳のとき、ヤッシャ・ハイフェッツの演奏するヴァイオリン・コンチェルトのレコードにとり惹かれて、名前を呼ばれても返事しないくらい、夢中になって聴き続けていたらしい。家族はピアノをやらせたかったみたいだけれど、僕の中ではもうヴァイオリンに決めていたんだよね。

コリン・ストークス(チェロ)

ペンシルベニア州ゲティスバーグ生まれで、現在はニューヨーク在住。11歳からメリーランド州のボルチモア芸術学校に通い、卒業する際には最も有望なパフォーミング・アーティストに贈られる賞を受賞。これまでにアニ・カヴァフィアン(ヴァイオリン)やユーリー・テミルカーノフ(指揮)からアメリカを代表するシンガー・ソングライターのジェームス・テイラーまで、さまざまなアーティストと共演を果たしている。

コリン: ロシア出身のコンスタンチン・ マナーエフとともに、シンフォニアクスのチェロ担当。今回のプロモーションに参加できなくて、コンスタンチンもベルリンで残念がっていたよ。ヴァイオリン3本に対してチェロ2本だけど、楽器が最高なので負けてない。飛行機でもヴァイオリンが貨物室に閉じ込められるのに対して、チェロはチケットと座席を与えられて人間と同じ扱いを受けるもんね(笑)。とにかくチェロを愛している……2歳のころにラジオから流れてきたヨーヨー・マの演奏に魅了されてからずっと。ペンシルバニアの小さな街で生まれ育ったので、音楽で食べていくなんて無理だと思っていたけれど、高校時代に憧れのヨーヨー・マとヴィラ=ロボス〈ブラジル風バッハ 第5番〉で共演したことがターニングポイントになった。

オスカー・ミカエルソン(ピアノ)

スウェーデンのエーテボリ出身で、現在はデンマークのコペンハーゲン在住。王立デンマーク音楽アカデミーで学ぶ。オルガン奏者で、作曲家でもある。即興演奏にも精通しており、ジャズや現代音楽などに関する著書もあるとか。ソリスト及び室内楽のピアニストとして北欧やオーストリア、ドイツなどで活躍している。

オスカー: ヴァイオリン奏者やチェロ奏者と違って自分のピアノを持ち歩くことはできないけれど、演奏会場でいろんなピアノと出会えるのが楽しみ。メーカーによって音に特色が出るので、ある程度は予想もつくしね。故人ピアニストではスヴャトスラフ・リヒテルを尊敬している。存命の巨匠ではアンドラーシュ・シフが好きだけれど、この曲はこの人のピアノで聴きたいって、作品ごとに違うかも。

アンディ・レオマー(エレクトロ・アーティスト)

オーストリア出身のプロデューサー、作曲家であり「音の職人」を意味するドイツの国家資格トーンマイスターの資格も有する。5歳でピアノを始めウィーン国立音楽大学を卒業後、アメリカのポップ・ミュージックシーンで成功を収め、米国映画やテレビの音楽も手掛けた。現在はベルリンを拠点にシンフォニアクスの全面的なプロデュース及びオリジナル曲の作曲を担当。コンサートではエレクトロ・サウンドを操りコンダクターも務める。

アンディ: 伝統的な楽器奏者とは違うタイプだけれど、みんなと同じこのグループの一員。クラシカルな楽器が奏でる響きに、ダンスの要素を合体させるためのエレクトロ担当。いわば、みんなを踊らせる手助けをする役目を担っている。

クラシックとクラブ・ミュージックって両極端な音楽で、その2つを一緒にするのは無謀だって、いろんな人に忠告されたけど、僕にはごく自然な組み合わせのように思える。今の時代に存在する音楽として対等だし、むしろ一緒になるところをいろいろ考えるのが面白くてたまらない。たとえば小さな子どもって、クラシックを聴いていても楽しいと身体を動かしてリズムにのって踊ったりするよね? 僕らが目指しているのもそれと同じことなんだ。

メンバーの「推し曲」の発表! Newアルバムの聴きどころは?

日本でのデビュー・アルバムとなる『SYMPHONIACS』は現在の彼らを象徴する1枚。

オランダ出身のトップDJマーティン・ギャリックスの代表曲でYouTubeにおいて10億回以上の再生を記録している〈Animals〉や、ドイツのNo.1DJロビン・シュルツがリミックスを手がけ、世界27ヶ国のiTunes Storeで第1位を獲得した〈Prayer In C〉(※オリジナルはフランス出身のデュオ、Lily Wood & The Prickの楽曲)を始めとする超人気EDMのカヴァーと、エレクトロニックに生まれ変わったヴィヴァルディ《四季》やJ.S.バッハ〈チェロ組曲第1番〉などバロックの名曲が、違和感なく共存している。

アンディ: 僕が素敵だと思うのはエモーショナルな音楽。そこに境界線はない。過去の偉大なる巨匠作曲家たちに対する敬意さえあれば、素材として自由に料理して新しいものを作り出してもいいと思う。考えてみたら、モーツァルトもベートーヴェンも当時のミュージック・シーンのヒットメイカーだったのだから。

ヨハネス: そう、ロマン派の音楽なんて、ほとんどがラヴ・ソング。シリアスそうに見えるクラシックにもエンターテインメントの要素がある。それと同じで、現代のヒット・チューンを僕らのようなクラシックの演奏家が本気で楽しみながらカヴァーすることがナンセンスとは思えない。むしろ、それってすごく面白いよ。

メンバーそれぞれにアルバム収録曲から「推し曲」を教えていただくと……。

クリスチャン: スウェディッシュ・ハウス・マフィアの〈Don’t You Worry Child〉だね。オリジナルとはかなり違ったものになったけれど、よりクラシカルでリリカルな作品に仕上がっていると思う。

コリン: 〈Don’t You Worry Child〉は僕も好き。オリジナルでもよく聴いたけれど、今回のアレンジで実際に演奏するのも楽しかった。それからチェリストとして弾き応えがあったのは、アヴィーチーがリミックスを手掛けたフェイスレスの〈Insomnia〉かな。聴衆を異世界に誘うことができるから。

トム: アルバムはお気に入りの楽曲だらけだけれど、僕も〈Insomnia〉が好き。そしてそれと同じくらいヴィヴァルディの〈冬〉も好き。とにかく演奏するのが楽しい、何度でもね。

オスカー: 〈A Sky Full of Stars〉かな。コールドプレイのファンからも好評だと聞いて嬉しかった。オリジナル自体、モチーフや音数が非常に少なくて、シンプルなメロディを膨らませて壮大な楽曲にしている点がバッハやモーツァルトにも通じる手法を思わせる……名曲だよね。

ヨハネス: 僕もコールドプレイの〈A Sky Full of Stars〉が好き。そしてヴァイオリン奏者としては〈Insomnia〉にも惹かれる。すごく盛り上がったかと思うと1回ガタンと落ちてブレイクがあって、再度盛り上がるところなんかが。あれは普通にクラシック曲を演奏しているときには味わうことのできない醍醐味だと思う。

アンディ: ヴィヴァルディの〈夏〉かな。実はオリジナルにそんなに手を加えていないんだよね。ソロの部分は基本的にそのまんま。EDMの人気曲はかなりベースが効いているので、それにあわせてみただけ。もともとヴィヴァルディって、かなりロックな作曲家だと思う。

初来日はみんなで踊って盛り上がろう!

本国の公式サイト http://www.symphoniacs.com には過去のライヴの模様を収録した映像が満載。11月15日に東京国際フォーラムで開催される日本初公演への期待も高まる。

アンディ: サウンドだけでなく、視覚にも訴えて総合的にステージを盛り上げるよ。会場に大々的なダンス・パーティーを出現させたい。そして、踊れる曲だけじゃなくクラシックの室内楽的な曲も演奏する予定。公演が終わったあとは、周りのみんなと友だちになって帰るかも。

オスカー: いろんな要素が詰まった、お楽しみいっぱいのコンサートになるはず。YouTubeで観るのとは迫力が全然違うよ。僕らそれぞれの楽器の音をそのまま聴かせるコーナーも設けようと思う。大きなホールなのでたくさんの方のご来場をお待ちしています。

コリン: ずっと日本に来るのが夢だったんだ。東京国際フォーラムでお会いしましょう!

トム: 僕も日本の文化を愛している。欧州以外で恋に落ちた初めての国かもしれない。

クリスチャン: 日本初でもあるしアジアで初の本格的な公演になるので今からとても興奮している。カヴァーだけでなく(アンディが書いた)オリジナル曲も披露するので乞うご期待!

ヨハネス: 日本の音楽シーンに素敵なインパクトを残せるコンサートになるはず。これをきっかけに若い世代がクラシックのホールに足を運んでくれるようになれば嬉しい。年配の方も、僕らと一緒に踊りましょう!

公演情報
SYMPHONIACS The Very First Japan Show

日時: 2019年11月15日(金)19:00

会場: 東京国際フォーラム ホールC 公演

チケット:
指定席 9,000円 学生席 5,000円 前方VIP席(プレミアムギフト付) 20,000円

取材・文
東端哲也
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東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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