インタビュー
2023.12.18
「東響とのコラボレーションにリミットはない」――11シーズン目を迎え、さらなる高みへ

東響 音楽監督 ジョナサン・ノット 来季はフランス音楽でオーケストラの色彩を追求したい 

2024年で11シーズン目を迎える東京交響楽団と音楽監督ジョナサン・ノット。就任以来、奏者と聴衆を常に高い次元へと引き上げてきたマエストロの勢いはとどまるところを知らず、来シーズンもスイス・ロマンド管他と東響の共同委嘱作品を初演するなど、意欲的なプログラムが並びます。来シーズンで注力したいことやとくに注目してほしい公演、また地元川崎との関係の深まりについても伺いました。

取材・文
後藤菜穂子
取材・文
後藤菜穂子 音楽ライター、翻訳家、通訳

桐朋学園大学卒業、東京芸術大学大学院修士課程修了。音楽学専攻。英国ロンドン大学留学を経て、音楽ライター、翻訳家。訳書に「オックスフォード・オペラ事典」(共訳、平凡社)...

撮影:ヒダキトモコ

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奏者をソリストに起用することで楽団をより身近な存在に

東京交響楽団の音楽監督に就任してから10年、ジョナサン・ノットはつねに冒険心をもって率いてきた。彼らの直近の演奏会からも、意欲的なプログラミングとそれに全力で食らいつく奏者たちの意気込みが伝わってくる。

「最近嬉しく思っているのは、私と奏者との関係と、私たちと聴衆との関係がよい感じで混ざり合っていることです。これまでも折に触れてオーケストラの奏者を独奏に起用してきましたが、今では地元の聴衆のみなさんもそれを楽しみにしていて、奏者たちをより身近に感じてくれているのではないでしょうか。来季でいえば、ベルリオーズの《イタリアのハロルド》のソロに首席ヴィオラの青木篤子さん、ハイドンのチェロ協奏曲にソロ首席チェロの伊藤文嗣さんが登場します」

ジョナサン・ノット(指揮)
Jonathan Nott, conductor
2011年に《ダフニスとクロエ》(全曲)などを指揮して東京交響楽団にデビュー。この共演が決定的となり、2014年度シーズンから東京交響楽団第3代音楽監督を務める。
1962年イギリス生まれ。ケンブリッジ大学で音楽を専攻し、マンチェスターのロイヤル・ノーザン・カレッジでは声楽とフルートを学び、その後ロンドンで指揮を学んだ。ドイツのフランクフルト歌劇場とヴィースバーデン・ヘッセン州立劇場で指揮者としてのキャリアをスタートし、オペラ作品に数多く取り組む。1997~2002年ルツェルン交響楽団首席指揮者兼ルツェルン劇場音楽監督、2000年~03年アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督、2000年~16年ドイツ・バンベルク交響楽団の首席指揮者を経て、2017年1月よりスイス・ロマンド管弦楽団の音楽監督を務める。
古典から現代曲まで幅広いレパートリーと抜群のプログラミングセンスを持つ。
ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ニューヨーク・フィル、シカゴ響、ロサンゼルス・フィル、フィラデルフィア管、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、バーミンガム市響、チューリヒ・トーンハレ管、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、ドレスデン・シュターツカペレ、バイエルン放送響、サンタ・チェチーリア管など世界一流のオーケストラと客演を重ねている。
カールスルーエとルツェルンの音楽院で教鞭をとっているほか、G.ドゥダメルを輩出した「マーラー国際指揮者コンクール」も統括した。

フランス音楽のサウンドとは「つねに漂っているもの」

2024/25年のシーズンを通して注力したいのはフランス音楽、と話す。たとえば、前述のベルリオーズやイベール(5月17日)、ラヴェル(7月20日)、デュリュフレ(11月9日)などの曲が組まれている。

「色彩を追求し、オーケストラの音のパレットを増やすことは私の仕事のひとつです。なぜなら色彩が豊かであればあるほど、ストーリーに陰影を加えることができるわけですから。それにはフランス音楽を演奏することが役立つと思います。フランス音楽のおもしろい点は、響きを保持するようでいて、実は保持してはいけないこと。すなわち、保持してしまうと音が硬すぎるんです。フランス音楽のサウンドとはつねに漂っているものなのです。それをさまざまな作品を通して追求したいと思っています」

曲の組み合わせにはいつも工夫を凝らしています

攻めたプログラミングで知られるノットだが、来季も例外ではない。

「曲の組み合わせにはいつも工夫を凝らしています。たとえば5月はマーラーの歌入りの交響曲である《大地の歌》を取り上げますが、その前に何を演奏すべきか熟慮した末、歌つながりでベルクの演奏会用アリア《ぶどう酒》、そして詩的な旋律をもつ武満徹の《鳥は星形の庭に降りる》を選んでみました。どんな結果になるか、私自身も楽しみです」

また、スイス人作曲家ミカエル・ジャレルのクラリネット協奏曲(日本初演)を含む11月の公演にも注目してほしいと語る。

「去る10月に、マルティン・フレストの独奏でスイス・ロマンド管と世界初演を行なったばかりですが、とてもエキサイティングな曲で、日本で演奏する時にはさらにパワーアップしていると思います!  他方、デュリュフレの《レクイエム》は大学時代に歌った思い出の曲で、曲が始まるとたちまち30年前にタイムスリップさせてくれます。そんな思いをみなさんと共有できたら嬉しいですね」

「東響とのコラボレーションにリミットはない」とますます意欲を見せるノット監督。来季も引き続き目が離せない。

東京交響楽団2024/2025シーズン 定期演奏会 ジョナサン・ノットが指揮する公演

2024年

第96回 5月11日(土)14時・ミューザ川崎シンフォニーホール第720回 5月12日(日)14時・サントリーホール

ジョナサン・ノット/指揮

高橋絵理/ソプラノ

ドロティア・ラング/メゾソプラノ

ベンヤミン・ブルンス/テノール

武満徹:鳥は星形の庭に降りる

ベルク:演奏会用アリア「ぶどう酒」

マーラー:大地の歌

第138回 5月17日(金)19時・東京オペラシティコンサートホール

ジョナサン・ノット/指揮

青木篤子(東響首席)*/ヴィオラ

サオ・スーレズ・ラリヴィエール**/ヴィオラ

ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」Op.16*

酒井健治:ヴィオラ協奏曲「ヒストリア」**

イベール:交響組曲「寄港地」

第722回 7月20日(土)18時・サントリーホール

ジョナサン・ノット/指揮

ラヴェル:クープランの墓(管弦楽版)

ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調 WAB107

第726回 11月9日(土)18時・サントリーホール

ジョナサン・ノット/指揮

マルティン・フレスト/クラリネット

中島郁子/メゾソプラノ

青山貴/バリトン

東響コーラス/合唱

ラヴェル:スペイン狂詩曲

ジャレル:クラリネット協奏曲(スイス・ロマンド管弦楽団/トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団/東京交響楽団/サンパウロ州立交響楽団による共同委嘱作品 日本初演)

デュリュフレ:レクイエム Op.9

第142回 11月15日(金)19時・東京オペラシティコンサートホール

ジョナサン・ノット/指揮

大木麻理/オルガン

伊藤文嗣(東響ソロ首席)/チェロ

務川慧悟/ピアノ

リゲティ:ヴォルーミナ

ハイドン:チェロ協奏曲第1番 ハ長調 Hob.Ⅶb:1

モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K.271《ジュノム》

第727回 12月7日(土)18時・サントリーホール

ジョナサン・ノット/指揮

アヴァ・バハリ/ヴァイオリン

シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲 Op.36

ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 Op.67《運命》

 

問合せ:TOKYO SYMPHONYチケットセンター 044-520-1511

 

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取材・文
後藤菜穂子
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後藤菜穂子 音楽ライター、翻訳家、通訳

桐朋学園大学卒業、東京芸術大学大学院修士課程修了。音楽学専攻。英国ロンドン大学留学を経て、音楽ライター、翻訳家。訳書に「オックスフォード・オペラ事典」(共訳、平凡社)...

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