新国立劇場オペラの2023/2024シーズン・ラインナップが発表
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...
新国立劇場の2023/2024シーズンのラインナップが発表された。
コロナ禍やウクライナ危機などの影響はいまだ後を引き、新制作は3本から2本に。2007年以来据え置かれていたチケット料金も値上げを余儀なくされたが、内容は極めて充実している。
新制作では冒険し、レパートリーはバランスがよく華やか。キャストも一流どころが適材適所で顔を揃えた。
数は減ったが大野カラー全開の新制作
新制作はシーズン・オープニングのプッチーニ《修道女アンジェリカ》、ラヴェル《子どもと魔法》のダブルビルと、シーズン2作目のヴェルディ《シモン・ボッカネグラ》(フィンランド国立歌劇場、レアル劇場との共同制作)。いずれもオペラ部門の監督である大野和士マエストロのカラーが全開だ。
ダブルビルは、「劇場のプロダクションを増やすため」に大野監督が提唱して進めてきたことだし、《シモン》の方は、これも大野監督が積極的に取り組んできた他国の劇場との共同制作。しかも今回は新国立劇場が初演である。
《アンジェリカ》と《シモン》は、プッチーニ、ヴェルディという超大家の作品ながら知名度がやや低く、一方で「プッチーニが書いた最も聖なる音楽」(大野監督。以下同)が聴けたり、「平民と貴族の対立や親子の情愛が描かれた」複雑で深いオペラとして高く評価される作品。《シモン》は大野監督が振り、オペラ界の大物演出家ピエール・オーディが演出する。キャストも、イタリアの名花イゾットン、世界的なヴェルディ・バリトンのフロンターリら選り抜きだ。
新制作の代わりと言っていい演目が、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》。オペラ史を変えた記念碑的大作で、新国立劇場では13年ぶりの上演。13年前にも指揮を執った大野監督がふたたびピットに入る。主役の2人に世界を代表するワーグナー歌いのトルステン・ケールとエヴァ=マリア・ヴェストブルック、ブランゲーネ役に日本が産んだ最強のワーグナー・メゾ、藤村実穂子が登場する。
多彩なレパートリー公演と垂涎ものの歌手陣
レパートリーも、大野監督ならではのバランスの良さが十二分に発揮されたラインナップ。
大野路線で積極的に導入されているロシアもの(《エフゲニー・オネーギン》)、ベルカント(《ドン・パスクワーレ》)から、オペレッタ(《こうもり》)、そしてヴェルディ(《椿姫》)、プッチーニ(《トスカ》)、モーツァルト(《コジ・ファン・トゥッテ》)の王道が並ぶ。
キャストも垂涎ものだが、特に《ドン・パスクワーレ》で主役を歌うイタリアの名手ペルトゥージや、《コジ・ファン・トゥッテ》に出演するベルカント・ソプラノのセレーナ・ガンベローニ、《オネーギン》のヒロインを歌う現代最高のソプラノの一人エカテリーナ・シウリーナらはぜひ聴いてみたい。
《椿姫》のヒロインを歌う中村恵理、《ドン・パスクワーレ》で準主役を歌う上江隼人など、日本勢の活躍も嬉しい限りだ。
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