ユーモア満載! 笑えるクラッシック音楽の秘曲たち〜モーツァルト、ブラームス、シューベルトなど7選
これは笑いを取りにきている……!? クラシック音楽のユニークな作品を、大井駿さんが厳選! おならが出てくるソナタに、モーツァルトの皮肉、シューベルトの歌曲「結婚式の焼肉 」……ツッコミどころ満載のプレイリストをお楽しみください。
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
何の理由もないけど、たまに思い切り笑いたいとき、ありますよね? 特に、新年ともなればなおさらです!
この記事では、もう難しいことは抜きにして、聴いて思わずニヤッとしてしまう曲、そして二度見ならぬ二度聴きしてしまうような曲をご紹介します!
おならは世界共通の笑い
早速ぶっ込んでしまいましたね……ごめんなさい! ですが「おなら」は、音楽の中では重要なユーモアの一つなのです! 日本の文化でも、おならを題材とした作品は数多く存在します。
例えばこちらの絵。これは、江戸時代に作られた巻物に描かれた絵の一つで、たくさんの放屁をする人々の絵が描かれています。そして、ここで紹介しているのは、男がおならで木を枯らしている様子です。隣で見ている半裸のおじさんも指をさして笑っています。世紀末でしょうか……えもいわれぬ光景ですね。
こうして、日本でもユーモアの題材として取り扱われたおならは、海を越えた遠いヨーロッパでも同じくユーモアの象徴となりました。
シュメルツァー:おならが出る一日のソナタ
真面目な大人がこんな曲を書くのかと二度見してしまうタイトルですが、音楽もなかなか破壊力があります!
楽しげな曲調で、急に大音量で鳴らされるファゴットの音……この音こそが、おならの音を模倣しています。曲の流れにそぐわない場所で何度も鳴らされたのち、音楽とファゴット(おならの音)がきれいに一体化します。
そんな曲を書いた作曲者のヨハン・ハインリヒ・シュメルツァー(1623〜1680)は、なんとハプスブルク家の宮廷楽長を務めた大作曲家でした。オーストリアの音楽界のトップに君臨していたのです。
シュメルツァー:おならが出る一日のソナタ
ハイドン:交響曲第93番より第2楽章
ベートーヴェンの先生で、モーツァルトの良き友人だった、フランツ・ヨゼフ・ハイドン(1732〜1809)。古典派を代表する作曲家です。
77年の生涯で、104曲もの交響曲を作曲しましたが、一つひとつにハイドンの巧みなユーモアが施されています。その中でも、ハイドンは93曲めの交響曲で、盛大にぶちかましたのです……そう、おならを!
これは、交響曲第93番、第2楽章の中でのことです。変奏曲として書かれたこの楽章は、なんとも品のある雰囲気の中で変奏が繰り広げられます。終盤には盛り上がるのですが、急に音楽がフェードアウトしていきます。
そして同じ音やフレーズを、何かを我慢して思考停止したかのように何度も繰り返したのち、ファゴットがフォルティッシモで低音をぶちかまし、まるで安心したように曲が終わります。
ハイドン:交響曲第93番より第2楽章
わざと演奏中のトラブルを演出して笑いをとる音楽
聴いているお客さんたちもびっくりしてしまうような音楽だって、中には存在します。下手に聴こえるように書かれた曲だってあります。こんな曲を実際に演奏会で演奏すれば、きっと客席がざわつくことでしょう……。
モーツァルト:音楽の冗談 KV522
面白い曲の中では、まさにエースのような存在の曲です。「あのモーツァルトが書く冗談ってどんなものだろう?」と思うかもしれませんが、なかなかの皮肉が効いた作品なのです。
当時は、村の路上で演奏してお金をもらう演奏家が多く存在していましたが、演奏はそんなに上手くありません。そこでモーツァルトは、そんな演奏家を揶揄した作品として、この曲を書きました。
音楽理論を無視し、違和感のある部分が多い第1楽章に始まり、軽やかさのないメヌエット(第2楽章)、一番いいところで音を外すヴァイオリン奏者(第3楽章)、同じことの繰り返し(第4楽章)など、手が込んでいます……。そして最後は、とんでもない不協和音でぐちゃぐちゃになって終わってしまうのも、なんとも辛辣な皮肉です!
第1楽章
第2楽章
第3楽章
第4楽章
ブラームス:偉大なヨアヒムの賛美のための賛歌!
まず先に、おことわりです。この違和感のあるタイトル、決して翻訳間違いではありません!! びっくりマークだって、実際のタイトルにもついています。
この曲は、ブラームスの友人でヴァイオリニストのヨゼフ・ヨアヒムが22歳を迎えた誕生日にプレゼントとして贈られた曲です。
編成は2つのヴァイオリン、そしてコントラバス。不思議な編成ですが、ヴァイオリンの1つをヨアヒムが、そしてコントラバスをブラームス自身が演奏することを想定して書かれました。
そして、このタイトル…何か、変ですよね?
原題のドイツ語では、“Hymne zur Verherrlichung des Großen Joachim!”となっています。分解すると、Hymneは「賛歌」、Verherrlichungは「賛美」、Großen Joachimは「偉大なヨアヒム」です。似たような意味を成す言葉、「賛歌」と「賛美」が一緒に使われているため、とても違和感があります。
これは、ヨアヒムがハンガリー人であるため、不慣れなドイツ語を話す際におかしな表現になることを茶化したタイトルだったのです。
この曲には、ブラームスの作品には珍しく、セリフが付いています! 冒頭には調弦するシーンがあり、ため息をついたのち、弾き始めるのですが、うまく合わないようで、ヴァイオリニストが「1、2、3、1、2!」とカウントしてから弾き始めます。
ブラームス:偉大なヨアヒムの賛美のための賛歌!
ヒンデミット:朝7時に湯治場で二流のオーケストラによって初見で演奏された《さまよえるオランダ人》序曲
ながーーーいタイトルですね! まさに、タイトルですべてが説明されていますが、早朝に難しい曲を大勢が集まって演奏したら、どんな演奏になるのか、を想像しながら書かれた、冗談としての音楽です。
音もぐちゃぐちゃ、リズムもばらばら……原曲を知っていれば100倍笑える作品です。ぜひ、ワーグナーの原曲とあわせてお聴きください!
原曲のワーグナー:《さまよえるオランダ人》序曲
ヒンデミット:朝7時に湯治場で二流のオーケストラによって初見で演奏された《さまよえるオランダ人》序曲
ぶっ飛んだ世界観で笑いを誘う音楽
続いては、笑ってしまうことは笑ってしまうのですが、一周回って戸惑いも生まれてしまうような、そんな作品をご紹介します。
最近も、直球勝負で笑いをとりにいく芸人さんもいれば、ぶっ飛んだシュールな世界観で笑いを取る芸人さんもいらっしゃいますが、次の2作品は、後者に入るのかもしれません……。
シューベルト:結婚式の焼肉 D930
ソプラノ、テノール、バリトンとピアノ伴奏による作品です。このタイトルからして、怪しい香りがしますね……しかし正真正銘、シューベルトの作品です! それも、最晩年に書かれた作品なのです。
歌詞は、結婚式を次の日に控えたカップルのお話です。男が結婚式で肉を振る舞いたいがばかりに、狩をするために、強引に彼女を森へ連れて行きます。すると、彼女のほうがノリノリになってしまい、ウサギを仕留めます。
しかし、森で狩りをするのに無許可で立ち入った2人は、番人に見つかって捕まります。ピンチです!
そこで2人は番人に許しを乞うのですが、その番人がよくよく女性をみると、自分のタイプだったことで、見逃します。さらに、ウサギを持って帰ることも認めます。
門番は、結婚式での焼肉の焼き具合も心配になってしまい、結婚式にも参列することを約束するのです!
しかし、最後に番人が我にかえって一言。「なんだよ、客として結婚式に行くなんて虚しいなぁ。あぁ、この女と結婚できる花婿が羨ましいわ!」と独り言を放ち、曲が終わります。
シューベルト:結婚式の焼肉 D930
ロッシーニ:楽しい汽車の小旅行
「ふう! グリンピース」「ロマンティックなひき肉」「喘息練習曲」などなど、ぶっ飛んだタイトルの作品を数多く作曲したロッシーニですが、その中でも特にぶっ飛んだ世界観の作品をご紹介いたします!
この「楽しい汽車の小旅行」。なんだか耳障りのいいタイトルが付けられていますが、実はとんでもない曲なのです。10分程度の曲の中に、予想もできないようなストーリーが描かれています。そんな世界を少し解説します!
曲の始まりは、汽車の発車を知らせる発車音(Cloche d’Appel)から始まります。その音に急かされ、乗客がそそくさと客車に乗り込んだのち(Montée en Wagon)、汽車が少しずつ動き出します。お聴きいただくとよくわかるかと思いますが、汽車が動き出すシーンも、脳裏に映像が浮かんでくるほど、うまい具合に書かれています!
駅に停車し、パリの金持ちが高級娼婦に手を差し伸べるシーンなどを経て、汽車はまた次の駅へ向けて動き出します。ここまで見てみると、平和な曲だと思いますよね? しかしこの曲はここでは終わりません。
なんと、汽車が大きな脱線事故(Terrible deraillement du convoi)を起こしてしまいます!
怪我人が叫び、助けを求めます。そんな中、最初の死人が出てしまいます。その犠牲者は天国へ行きます(Premier mort en Paradis)。続いて2人目の犠牲者が出るのですが、何とその人は地獄へ行ってしまいます(Second mort en Enfer)!
そして早速お葬式が始まり、葬送の歌が歌われます。さらにその後、「取り残された相続人たちの苦しみ」と説明書きが加えられた、コーダが始まります(Douleur aigue des heritiers)。なぜか楽し気な様子ですが、莫大な遺産をどのように分けようかをウキウキと考えているのでしょうか……?
ロッシーニ:楽しい汽車の小旅行
ロッシーニの、他の不思議なタイトルの作品もあわせてお楽しみください!
《老いの過ち》第5巻より「ふう! グリンピース」、「ロマンティックなひき肉」、「喘息練習曲」
今回は7人の作曲家による、7つの作品を紹介しましたが、これはほんの一握り。掘れば掘るほど、「なんじゃこりゃ!」と思ってしまうような作品がザックザクと出てきます。ただの凝ったタイトルが付けられただけの作品もあれば、ハイドンの交響曲のように、タイトルが付けられていないからこそ、不意の笑いを誘うような作品もあるのです。
知る人ぞ知る秘曲(?)ばかりでしたが、ぜひこれを機にツッコミを入れたくなってしまうような面白い作品にたくさん出会ってみてください!
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