プレイリスト
2024.12.25
生誕100年没後30年記念プレイリスト

ヘンリー・マンシーニの世界~映画音楽の巨匠が残した名旋律

2024年に生誕100年/没後30年を迎えたレジェンド作曲家ヘンリー・マンシーニ。『ティファニーで朝食を』、『ひまわり』、『ピンク・パンサー』、『刑事コロンボ』......数々の名作映画・ドラマの音楽を担当し、その印象的なメロディは死後も愛され続けています。東端哲也さんが映画音楽を中心に、マンシーニの不滅の仕事を振り返ります!

東端哲也
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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ヘンリー・マンシーニは、1924年4月16日オハイオ州クリーブランド生まれ(イタリア系アメリカ人)。8歳の時に熱心なフルート奏者である父親から音楽の手ほどきを受け、家族でペンシルベニア州に引っ越してからは12歳でピアノを始め、数年のうちに編曲に興味を持つようになる。

1942年に高校を卒業した後、ニューヨークの名門ジュリアード音楽院に入学し優秀な学生として将来を嘱望されるが、翌年に徴兵されて学業は中断。第二次世界大戦中は空軍に所属しマーチングバンドでも活躍したという。戦後はまずグレン・ミラー楽団でアレンジャー兼ピアニストを務めてオーケストレーションのスキルを広げ、1952年にユニバーサル・スタジオの音楽部門に入社。アシスタント修行をしながら劇伴を手がけ、アンソニー・マン監督『グレン・ミラー物語』(1953年)や、オーソン・ウェルズ監督によるフィルム・ノワール『黒い罠』の音楽などで頭角を現わす。1958 年からは独立して作曲家/編曲家としての活動を始め、これより晩年までハリウッドの第一線でヒット作を連発し、巨匠の名をほしいままにした。

生涯でグラミー賞に72回ノミネートされ20回受賞。アカ​​デミー賞には18回ノミネートされ4回オスカーを受賞。ゴールデングローブ賞にも輝き、テレビ業界の功績に与えられるエミー賞にも2回ノミネートされているヘンリー・マンシーニ。

1964年のグラミー賞。「酒と薔薇の日々」で最優秀レコード賞と楽曲賞を同時受賞したマンシーニ(左)
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誰もが耳にしたことのある映画音楽やテレビのテーマを数多く作曲し、ミュージシャン(編曲&バンド・リーダー/指揮者)としても凄腕の持ち主で、ビッグバンドからジャズ、クラシック、ポップスまで様々なスタイルのアルバムを90枚以上レコーディングして、そのうち8枚は全米レコード協会からゴールド認定を受けた。

今年はそんなマンシーニの生誕100年であり没後30年のアニヴァーサリー・イヤー。ロサンゼルスにある音楽の殿堂(野外音楽堂)ハリウッド・ボウルでは6月23日の夜、トーマス・ウィルキンスが指揮するハリウッド・ボウル・オーケストラによる記念コンサートが開催され、マイケル・ブーブレやシンシア・エリヴォといったスターをゲストに迎えて大盛況だった他、豪華演奏陣が参加したトリビュート・アルバム『The Henry Mancini 100th Sessions – Henry Has Company』のリリースや、その生涯を綴った公式グラフィック・ノベル『THE EXTRAORDINARY LIFE OF HENRY MANCINI』が発売されるなど、本国は祝祭ムードに沸いたのだった。

というわけで2024年が終わってしまう前に、ここONTOMOでも人気曲と共に、その偉業を振り返ってみよう!

ピーター・ガン~テレビ・シリーズ『ピーター・ガン』(1958~1961年)より

『The Henry Mancini 100th Sessions – Henry Has Company』(2024年)から

マンシーニの出世作となったこの曲は、彼のキャリアにとってもっとも重要な人物のひとりブレイク・エドワーズとの初コラボ作品。当時ユニバーサル・スタジオのテレビ部門で気鋭の新人演出家だったエドワーズが製作し、脚本と監督も担当したスタイリッシュな私立探偵ドラマのために作曲したもの。ブルースを基調にリズミカルに進行し、ジャズのスウィング感とロックなビートに溢れたこのオープニング・テーマは大反響を呼び、サントラ盤も大ヒット。グラミー最優秀アルバム賞にも輝き、ヘンリー・マンシーニの名をいちやく高めた。

ここでは前述のトリビュート・アルバム『The Henry Mancini 100th Sessions』から、かつてマンシーニを師と仰いでいたクインシー・ジョーンズ(今年亡くなった米国ショウビズ界のカリスマ)が指揮し、あのジョン・ウィリアムズとハービー・ハンコック、キューバを代表するジャズ・トランペット奏者のアルトゥーロ・サンドヴァルも参加した新録音ヴァージョンでお届け。

こちらはその夢のセッションの様子を収録したプロモーション映像

因みにジョン・ウィリアムズはオリジナルのサントラ盤でもピアノを弾いており、当時からマンシーニと親交を深めていたのだった。

ムーン・リバー 映画『ティファニーで朝食を』(1961年)より

オードリー・ヘプバーン

オスカー主題歌賞とグラミー最優秀歌曲賞に輝いたこちらも、エドワーズ監督との黄金コンビによるもの。男たちの援助で暮らしを立てている自由奔放な女性だが、実は少女のように純真な心の持ち主であるホーリーが窓辺に座って、ギターを弾きながらつぶやくように歌うシーンでお馴染みのナンバー。

原作者のトルーマン・カポーティはこのヒロインにマリリン・モンローを想定していたようだが、今となってはホーリー役にはオードリー・ヘプバーン以外は考えられないだろう。マンシーニも彼女の声のキーに合わせてこの曲を書き上げたとか。ヒット・メイカーのジョニー・マーサーが手がけた、古き良き南部をイメージさせる歌詞も味わい深い。

しかしオリジナルのサントラ盤にはヘプバーンの歌唱で収録がなく、人々がそのヴァージョンをCDで聴くためには、彼女の死後に発売されたアルバムまで待つことになったとか。その分、アンディ・ウィリアムスを始めとする数多のカヴァーで知られている。

子象の行進~映画『ハタリ!』(1961年)より

オリジナル・サウンドトラック盤から

極上の娯楽作品を次々と世に送り出しつつ、独自の作家主義を貫く姿勢で尊敬を集めたハワード・ホークス監督のアフリカを舞台にした冒険アクション映画より。ジョン・ウェイン演じる狩猟グループのリーダーの後をついて歩く赤ちゃん象3頭の登場シーンのために書かれたユーモラスな楽曲。スワヒリ語で「危ない!」という意味のタイトル「Hatari!」や、荘厳なメイン・テーマとのギャップが凄い!

酒とバラの日々~映画『酒とバラの日々~』(1962年)より

フランク・シナトラ『Days of Wine and Roses, Moon River, and Other Academy Award Winners』(1964年)から

ジョニー・マーサーが作詞を担当した、同名映画(エドワーズ監督)のテーマ曲でオスカー主題歌賞、グラミー最優秀歌曲賞&同レコード賞を受賞。ジャック・レモンとリ-・レミックが演じる夫婦がアルコールに溺れてゆく悲劇を描いたシリアスなドラマだが、この曲は今もジャズのスタンダード・ナンバーとして広く愛奏されている。

これはフランク・シナトラによる極めつけの歌唱で、1964年リリースのオスカー受賞作品ばかりを集めたアルバム(※もちろん〈ムーン・リバー〉も収録されている)から。ミディアム~スロー・テンポの小粋なアレンジではあるが「酒とバラの日々は、遊んでいる子どものように笑いながら走り去っていく……」という歌詞がどこか物悲しい。

シャレード(メイン・タイトル)~映画『シャレード』(1963年)より

オリジナル・サウンドトラック盤から

ブロードウェイ出身で、ジーン・ケリー主演のミュージカル映画の金字塔『雨に唄えば』(1952年)などで知られるスタンリー・ドーネンが監督。25万ドルの行方をめぐる謎にまき込まれる未亡人をオードリー・ヘプバーンが演じたロマンティック・サスペンスより。

このパーカッションを効かせたテーマ曲と共に展開するカラフルなオープニング・クレジットが実にクールで、観客を一気にドラマの世界に惹き込む。

ピンク・パンサーのテーマ~映画『ピンクの豹』(1963年)より

オリジナル・サウンドトラック盤から

1963年の『ピンクの豹』を第1作とするエドワーズ監督の人気コメディ・シリーズより。もともとは世界屈指のダイヤモンド“Pink Panther”を狙う怪盗を主人公にして製作されたが、準主役であった英国の鬼才ピーター・セラーズ演じるお茶目なクルーゾー警部が好評だったため、彼を主役に次々と続編が作られた。セラーズが1980年に没した後も3作品が製作され、2006年と2009年にはアメリカのコメディ俳優スティーヴ・マーティンを新クルーゾー警部に起用した別監督によるリメイク映画もヒット。

もちろん、このシリーズのもうひとりの主役は、第1作冒頭のタイトル・シークエンスに初登場したピンク色のアニメ・キャラクター「ピンク・パンサー」。後に実写からは独立したアニメ作品として映画やテレビ放送用に数多くのエピソードが作られた。当初は泥棒が抜き足差し足で歩くシーンの背景音楽として考えられたという、サックスをフィーチャーしたこのお洒落なテーマ曲を聴いたことがない人など皆無なはず!

いつも2人で~映画『いつも2人で』(1967年)より

オリジナル・サウンドトラック盤から

学生時代のフランス旅行中に出会い、現在は破綻しつつある夫婦の12年間の軌跡を、6つの時間軸を交錯させながら“旅”を通して描いた、ドーネン監督によるスタイリッシュなオードリー・ヘプバーン主演作より。当初は多忙のためにこの仕事を断ったマンシーニだったが、オードリーに請われて作曲を引き受けたという(※彼女に捧げる“Something for Audrey”という曲も書いている)。

夢見るような雰囲気に溢れ、美しいハーモニーでエモーショナルに鳴らせていくテーマ曲は公開時に日本でもヒット。サントラ盤の冒頭に収録されているこのヴォーカル・ヴァージョンは、映画の完成後に英国ミュージカル・シーンで活躍するレスリー・ブリッカスが歌詞を付けたものである。

パーティ~『パーティ』(1968年)より

オリジナル・サウンドトラック盤から

ピーター・セラーズ演じる(自称)インドの舞台俳優が、招かれざる客としてハリウッドのパーティで大騒動をまき起こすエドワーズ監督の風刺劇より。カルト的な人気を誇る作品であり、日本でもピチカート・ファイヴの小西康陽がエドワーズ&セラーズとマンシーニのトリオによる映画で「いちばんのお気に入り」と語っている。

西海岸の一流ジャズ・ミュージシャンが顔を揃えたサントラ盤もヒップなスコアが盛り沢山。特にシタールとファンキーなビートが絶妙に絡み合うこのテーマ曲がエキゾチックなキラー・チューンで、マンシーニの快作のひとつかもしれない。

ミラノの別れ/愛のテーマ~映画『ひまわり』(1970年)より

オリジナル・サウンドトラック盤から

マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが戦争に引き裂かれる夫婦を演じた、イタリアの名匠ヴィットリオ・デ・シーカによるこちらの悲劇も、マンシーニを語る上で欠かせない名作。切ないピアノに導かれるサントラ盤冒頭の“愛のテーマ”が一般的によく聴かれているが、ギター・ソロからピアノへ、さらにストリングスと絡んで盛り上げていく、このラストシーンの音楽も泣ける!

華麗なるヒコーキ野郎~映画『華麗なるヒコーキ野郎』(1975年)より

オリジナル・サウンドトラック盤から

『明日に向って撃て!』(1969年)や『スティング』(1973年)などで知られるジョージ・ロイ・ヒル監督とロバート・レッドフォードとの3度目のコンビ作で、第一次世界大戦後の1920年代アメリカを舞台に、空を飛ぶことに人生を掛けた“ヒコーキ野郎”たちの生きざまを描いたアドベンチャー映画より。

監督も第二次世界大戦に海兵隊の飛行機パイロットとして従軍していたそうだが、マンシーニのこの楽曲にも、彼の空軍マーチングバンド時代の経験が活かされているに違いない。

Lujon(ルージョン) ヘンリー・マンシーニ『Mr. Lucky Goes Latin』(1961年)から

マンシーニはストリングスを中心に構成されていた従来の映画音楽にジャズのイディオムを導入し、管楽器などの軽妙なサウンドを用いて観客を惹きつけ、劇場を離れてもリスナーを魅了し続ける楽曲の数々を生みだした。加えて彼がより画期的だったのは劇中で使用された音源をそのままレコード化するのではなく、アレンジを加えてより独立した楽曲として際立たせてレコーディングするというスタイルを採用した点にある。これまで便宜的に“オリジナル・サウンドトラック”という言い方を用いてきたが、実は厳密に言うとそれらのほとんどは“オリジナル・アルバム”(※ジャケットをよく見ると、Music from…や Music from the Motion Picture…と表記されている)なのである。

そんなマンシーニはサントラ仕事と並行して、ヘンリー・マンシーニ・オーケストラ名義のアルバムも多数リリースしている。テレビ・シリーズ『Mr. Lucky』(1959~1960年)のメロディにラテン・アレンジを施し、ハモンドオルガンを効かせた表題曲がオープナーの『Mr. Lucky Goes Latin』もその名盤のひとつ。なかでも、鉄琴に似た(木製の四角い箱の中に固定した金属板を共鳴させる)エキゾチックな打楽器“Lujon”の響きが強烈な印象を残す、このスムーズ&メロウな楽曲〈ルージョン〉の人気がとくに高い。

ニーノ・ロータ:「ロミオとジュリエット」愛のテーマ

ヘンリー・マンシーニ『A Warm Shade of Ivory』(1969年)から

スロー&ロマンティックなアレンジの楽曲で統一された1969年リリースのアルバム『A Warm Shade of Ivory』も名盤の呼び声高い一枚。

本盤からはイタリアの巨匠ニーノ・ロータの代表曲〈「ロミオとジュリエット」愛のテーマ〉(※フランコ・ゼフィレッリ監督による1968年の映画より)のカヴァーがシングル・カットされ、1969年6月28日付けで全米シングル・チャート(Billboard HOT 100)のNo.1に輝く大ヒットを記録(※2週その座を維持)。アルバムも同年8月2日にチャート(Billboard 200)の5位にまでのぼり詰めた。

NBCミステリー・ムービーのテーマ(刑事コロンボ)

ヘンリー・マンシーニ『The Cop Show Themes』(1976年)から

そして自作曲も含めた“刑事もの”楽曲を集めたこのアルバムからは、1968年に本国で放送されるや話題となり、日本でも新旧2つのシリーズが何度も繰り返し放送されている(※現在もNHK BSで放送中)こちらの、ミステリードラマの金字塔のテーマを紹介しないわけにはいかない。

しかし、我々が「刑事コロンボのテーマ」と呼んでいるこの曲、実は『コロンボ』などの“刑事もの”を週替わりでローテーション放送していたアメリカNBC局のドラマ枠のテーマとして作曲されたものなのである。

エルネスト・デ・クルティス:忘れな草

ルチアーノ・パヴァロッティ『Mamma』(1984年)から

こちらはマンシーニの、アレンジャー&指揮者としての手腕を堪能できるトラック。2007年にこの世を去った“史上最強のテノール”ルチアーノ・パヴァロッティとタッグを組み、1984年にリリースしたイタリアン・ソング・アルバムから。ナポリ音楽院に学んでピアニストとしても活躍し、兄で詩人のジャンバッティスタとの〈帰れソレントへ〉を始めとした、数々の傑作ナポリ民謡のコンポーザーとして知られるエルネスト・デ・クルティスの作品で「自分を忘れないでほしい」と恋人に訴える熱いラヴ・ソング。ポップだが哀愁に溢れたサウンドにのせてパヴァロッティの輝かしい美声が響きわたる。

ムーン・リバー

マイケル・ブーブレ 『The Henry Mancini 100th Sessions – Henry Has Company』(2024年)から

最後にアンコールとして、現代最高の男性ヴォーカリストの歌唱でこの名曲を。

Viva Mancini!

東端哲也
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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