音楽作品を含む現代アートを五感で楽しむ! 国際芸術祭「あいち2022」レポート
国内外の100のアーティストが参加する国際芸術祭「あいち2022」が開催中です。アートの展示に加え、音楽を含むさまざまなパフォーミングアーツの上演も行なわれる今回の芸術祭を、高橋彩子さんがレポートしてくれました。
早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...
3年前までの名称である「あいちトリエンナーレ」から改称してリスタートした国際芸術祭「あいち2022」。現代美術展部門とパフォーマンス部門があり、今回は愛知芸術文化センター、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)の4つが主な会場となっている。見どころの多いその内容を、終わったものも含めてご紹介していこう。
スティーヴ・ライヒとジョン・ケージ
「あいち2022」のパフォーマンス部門の特徴として、音楽面での充実が挙げられる。
まず、7月30・31日にはライヒの楽曲を日本の演奏家達が演奏する「スティーヴ・ライヒ~スペシャル・コンサート」が行なわれた。
演奏されたのは、ピアノの生演奏と録音とが共演する《ピアノ・フェイズ》、アルトフルート、フルート、ピッコロなどで演奏する《ヴァーモント・カウンターポイント》、弦楽四重奏による生演奏と録音テープからなる《ディファレント・トレインズ》、ギターの演奏と録音による《エレクトリック・カウンターポイント》、フルート、クラリネット、ヴィブラフォン、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの6重奏が録音の6重奏と重なる《ダブル・セクステット》の5曲。
いずれも知られた曲だが、中でも、ライヒの幼少期の列車の旅の記憶や、ユダヤ人である彼がもしヨーロッパにいたなら逃れようがなかったであろうホロコーストの証言を取り入れた《ディファレント・トレインズ》は、作曲者の個人史と世界史があるスケールをもって交錯するという点でも、録音と生演奏が呼応するような構造からしても、特別な聴覚体験となった。
8月13、14日にはジョン・ケージJohn Cage『ユーロペラ3&4』が、足立智美演出で上演された。日によって一部キャストが変わったが、筆者が観たのは13日のほう。
まず『ユーロペラ3』は、床面に数字が記され、時刻がデジタルで示され、周期的に轟音とライトがホールを巡る中、12台の蓄音機で様々なレコードがかけられ、ピアニスト、オペラ歌手、能楽師が演奏し/歌い/謡う。
その内容はある程度演者それぞれに委ねられているように思われたが、ピアニストは《ドン・ジョヴァンニ》や《リゴレット》や《トリスタンとイゾルデ》などオペラ曲を中心に演奏し、オペラ歌手たちは《セヴィリアの理髪師》《カルメン》《愛の妙薬》等のアリアを歌い、能楽師は女面や赤頭で『鶴亀』『田村』『清経』『橋弁慶』などを謡い/舞っていた。
一方、『ユーロペラ4』は、3の各要素が一人、つまり、一つの蓄音機、一人のピアニスト、オペラ歌手、能楽師……とシンプルになった作品。同様のコンセプトで続いて上演される2作の対比も見事だった。
すべてはコンピューターから出力された乱数に沿って奏でられる“チャンス・オペレーション”。偶然が生む混沌と思わぬ調和で、場内は満たされた。
今後、パフォーミングアーツとしては、レバノンのラビア・ムルエの演劇『表象なんか怖くない』、百瀬文の体験型パフォーマンス『クローラー』、アピチャッポン・ウィーラセタクンのAR/VR技術を使った体験型パフォーマンス作品『太陽との対話(VR)』などが控える。
まだまだ見られるアート作品その1 愛知芸術文化センター
さて、アート作品は10月10日の会期末までいつでも見ることができる。その中から幾つか、ONTOMO読者向けに紹介しよう。
まず、愛知芸術文化センターでは、前述の百瀬のヴィデオ作品『Jokanaan』。左のビデオにはセンサーをつけた男性の映像が、右のビデオにはその男性の動きから作られた女性サロメのCG映像が映される。リヒャルト・シュトラウスのオペラ『サロメ』が流れる中、これを両映像の人物が歌い演じるように動く。それを並置することで、人が性別や見た目をどう判断し、どのように物語世界と結びつけて見ているのかが浮き彫りに。
ローリー・アンダーソン&黄心健のVR作品『トゥー・ザ・ムーン』も見逃せない。もともとは人類の月面着陸50周年を記念して作られた作品で、観客は宇宙飛行士となって月を旅する。文学、美術などさまざまなジャンルに描かれてきた月が、「星座」「DNAの博物館」「テクノロジーの荒地」「石の薔薇」「雪の山」「ドンキー・ライド」の6つのシナリオと共に展開。高所恐怖症の人は要注意だが、美しく幻想的な鑑賞体験だ。事前予約が必要。
この他、リタ・ポンセ・デ・レオンの2作品は、実際に演奏することができるもの。一つは、アフリカ起源で中南米にて雨乞いの儀式に用いられる、音の鳴る“レインスティック”を模した『人生よ、ここに来たれ』、もう一つは、詩人のヤスキン・メルチーと新納新之助が選んだという言葉が木琴の鍵盤に刻まれ、鑑賞者はその順番を入れ替え、文字と音の配列を自由に作りながら演奏できる『魂は夢を見ている』だ。
まだまだ見られるアート作品その2 有松地区
有松地区は有松・鳴海絞りの伝統が継承され、江戸時代の趣きを残す「町並み保存地区」。「あいち2022」会期中は、ミット・ジャイインのカラフルなのれんが家々の軒先を彩っている。
また、イワニ・スケースの無数の水滴のようなガラスからなる『オーフォード・ネス』はアボリジニの主食ヤム芋を象り、彼らが被爆した放射能を意味する青色で表現したもの。そのガラス細工を通り抜ける体験は何とも言えない感情を喚起する。
まだまだ見られるアート作品その3 常滑市
「常滑焼」で知られる常滑市。焼物土管を積み重ねた「土管坂」や、レンガの煙突などが見られ、独特の風情を作り出している。このエリアでは工場跡地や製陶所跡地、廻船問屋などが展示スペースに。
中でもユニークなのが、盆栽鉢製陶所の倉庫を改装したスペース「常々」での田村友一郎作品『見えざる手』。本作は、プラザ合意を題材とする人形浄瑠璃が上演されている舞台の奈落、という設定の展示空間で、黒衣のアダム・スミス、カール・マルクス、ジョン・メイナード・ケインズが会話を交わす情景を映像で表現し、プラザ合意に参加した政治家達の人形のかしらも展示する。田村は、円安相場によって日本の製陶産業が発展し、瀬戸と常滑の陶製人形がノベルティ人形として輸出されるが、プラザ合意による円高でこのノベルティ産業が衰退したことから、本作を着想した。イマジネーション豊かで示唆に富む展示だ。
この他、チェルノブイリを扱った鯉江良二作品や、楽器にもなるチャーミングなオブジェのグレンダ・レオン作品も見逃せない。グレンダ・レオン作品では野村誠の即興パフォーマンスが行なわれ、飛び入り参加した足立智美とのセッションも実現した。
まだまだ見られるアート作品その4 一宮市
最後にご紹介するのが一宮市。歴史民俗資料館や一宮市博物館、旧一宮市スケート場や、丹下健三設計の尾西生涯学習センター墨会館などで作品が展示されている。筆者が唯一、これから足を運ぶエリアだが、塩田千春作品『糸をたどって』など魅力的な作品を見ることができそうだ。
10月10日の会期末まであと2週間弱。ここでしか見られないアートやパフォーミングアーツを味わいに足を運んでみてはいかがだろうか。
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