レポート
2022.01.31
2023年ウィーン芸術週間初演!チェルフィッチュ×藤倉大with Klangforum Wien新作音楽劇

岡田利規と藤倉大が切り拓く「新たな音楽劇」の地平

2023年春、言葉と身体の関係性を軸に新たな表現に挑み続けている、岡田利規率いる演劇カンパニー・チェルフィッチュは、ロンドンを拠点に活動する現代音楽の作曲家・藤倉大、ウィーンの現代音楽アンサンブルKlangforum Wienとともに、ウィーンで行われる芸術祭「ウィーン芸術週間」委嘱作品として、新たな“音楽劇”を発表する。2021年11月5日に行われたワークインプログレス公演を通して、現代演劇と現代音楽のトップランナーのアイデアが幾重にも織りなされ、新たな創造が生み出されてゆく現場をレポート!

取材・文
小室敬幸
取材・文
小室敬幸 作曲/音楽学

東京音楽大学の作曲専攻を卒業後、同大学院の音楽学研究領域を修了(研究テーマは、マイルス・デイヴィス)。これまでに作曲を池辺晋一郎氏などに師事している。現在は、和洋女子...

撮影:加藤和也

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新たな“音楽劇”誕生のプロセスに立ち会う、ワークインプログレス公演

日本を代表する現代演劇のカンパニーであるチェルフィッチュと主宰の劇作家・岡田利規。これまでもヨーロッパで高い評価を得てきた彼らが現在進めているプロジェクトのひとつが、ウィーン芸術週間から依頼を受けた新しい音楽劇の制作だ。

ウィーン側からの提案で、コラボレーターに選ばれたのは作曲家・藤倉大。長らくイギリスを拠点にしており、ヨーロッパでの評価が高いだけでなく、2020年には新国立劇場で初演されたオペラ《アルマゲドンの夢》が日本国内でも絶賛された。

舞台芸術の分野で国際的に活躍する日本出身のアーティスト、しかも40代という共通項の多いふたりでありながら、共演するのは今回の作品が初。2023年の世界初演に先立ち、ワークインプログレス公演がおこなわれた。

この公演では10分ほどの一場面を、実際に俳優と音楽家が演技・演奏しながら、試行錯誤を繰り返す創作プロセスを公開した。リハーサルのように演技・演奏が終わるたび、岡田と俳優が、藤倉と音楽家がやりとりをして、新たな音楽劇の可能性を探ってゆく。例えば藤倉は、音楽がライトモティーフを使った劇伴にならぬよう、指示を飛ばしていた。

2021年11月5日、東京の舞台とロンドンをオンラインでつないで行われたワークインプログレス公演。俳優たちの言葉と音楽家たちの音楽の響き合いに、岡田と藤倉のアイデアが重ねられてゆく。「新しい」とは何かを見つける大切なプロセス。

岡田利規×藤倉大 スペシャル・インタビュー 言葉と音楽の想像・創造を聞く

このワークインプログレス公演を通して、何がみえてきたのか? 岡田と藤倉に後日改めて、話をうかがった。

(写真左から)
岡田利規:演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。多くの演劇賞、戯曲賞、小説賞を受賞し、ミュンヘン、ウィーン、パリなど海外公演も高く評価される。従来の演劇の概念を覆す国内外での活動が大きな注目を集めている。

藤倉大:作曲家。15歳で単身渡英しベンジャミンらに師事。数々の作曲賞を受賞、国際的な委嘱を手掛ける。意欲的な新作オペラ創作活動に世界から熱い視線が注がれている。

——今回、ご一緒するまで、お互いの仕事ってどのくらい見聞きされていましたか? 藤倉さんは、チェルフィッチュが1997年に結成されるより前、1993年に留学されてからずっと拠点はイギリスですよね。

藤倉 言われてみれば、岡田さんの名前を見たことあったなあというぐらいでした。

岡田 僕はいわゆる西洋のクラシック音楽に関して、本当に疎いんですけれど、それでも藤倉さんのお名前は存じていました。だけど、どんなお仕事をされてきたのかちゃんと知っていたわけではなく、ウィーン芸術週間の方からコラボレーターの相手として藤倉さんはどうかというお名前が出てきて、それから配信されている曲をいくつか聴かせていただいた感じですね。

藤倉 でも、フタを開けてみたら共通の知り合いばかり。岡田さんがオペラ《夕鶴》を演出するっていう情報を初めてみかけたとき、スタッフの欄をみたら僕が(アーティスティック・)ディレクターをやっているボンクリ(・フェス)のスタッフとほとんど一緒だったんですよ(笑)。彼らに「なんで、みんなさ、僕に教えてくれないの?」と聞いたら、「え?藤倉さん、岡田さんとなんか関係があるんですか?」と言われちゃいました。

——藤倉さんにとっても、スタッフの方々にとっても「寝耳に水」状態だったわけですね(笑)。

藤倉 音楽ではない世界とのコラボレーションって、すごく刺激的なので僕は大好きなんですけど、やっぱりルールとかやり方、進め方も違うことが多くて、スタッフも含めて「はじめまして」という方ばかりだとキツいこともあるんですよ。

でも今回はもともと皆さん知り合いばかりだったお陰で、プロジェクトが始まる前から土台は出来上がっているように感じました。この音楽劇に関しては本人同士が初対面というだけなんです(笑)。岡田さんのクリエーションと自分のことだけ考えればよいので、他の雑音を心配せずに集中できています。

——岡田さんは先ほど「西洋のクラシック音楽に関して、本当に疎い」とおっしゃられていますけれど、これまでもクラシック音楽や現代音楽を作品で使われたことはありましたよね?

岡田 例えば、バッハの平均律クラヴィーア曲集 第1巻を全曲使って、それにはめたフォーマットをつくる……みたいなことをやったりしたことはあります。でも、だからといってね、音楽の世界のつくり方の作法がわかっているとか、別にその音楽の専門的なことを知っているのかというと、何も知らない。ただ音楽を聴いているだけなんです。

——となると、先ほど藤倉さんも触れたオペラ《夕鶴》の演出では、制作の過程でドラマトゥルク(横堀応彦)や指揮者(辻博之・鈴木優人)といった音楽の専門家たちとやり取りがあったでしょうし、それまでと異なる大きな挑戦になったわけですね。

岡田 自分なりに演出をやる以上、「オペラの音楽」と「演劇」の関係——言い換えればオペラを演出するというのは何を演出することなのかを見つけたいと思っていたんですよ。実際に制作を進めていくと、途中で自分なりに「オペラは音楽のための演劇」だと思えるようになりました。

つまり、演劇を見ることで音楽が聴こえなくなるんじゃなくて、むしろオペラをCDや(演出のない)演奏会形式で聴くときよりも、演劇と一緒のときにその音楽が聴こえてくる……ということが起こせたら、それはオペラの演出として良いのではないかという意味ですね。

それが上手くいくと不思議なことに、オペラの音楽は演劇のための音楽のように聴こえてくるんですよ。どっちのためのどっち……ではなく、どっちにもなるんだ!ということに気付けたのは、僕にとって良いことでした。そのコンセプトは、これから藤倉さんと一緒につくるものに関しても、そのまま適用できると思っています。

——これまでチェルフィッチュでは、日本を代表するポストロックのバンドであるサンガツ(デビューCDはジム・オルークのプロデュース)とたびたび密接なコラボレーションをおこなってきましたけれど、それらと今回の藤倉さんとの音楽劇は、何が同じで何が違うのでしょうか?

岡田 演劇と音楽の関係が対等であり、音楽がバックグラウンド音楽ではないんだというところに関しては同じです。だけど、どういう関係なのかみたいなところをもうちょっと細かく考えてみると、(サンガツとのコラボレーションでも)作品ごとにいろいろ違うはずで、いずれにせよ、今までやったことがないものになると思います。

またオペラ——といっても、僕の作った《夕鶴》でしかないんですけど——だと、やっぱり音楽は情景描写として、今どういう時間帯なのかとか、季節とか、そこの地域の情景みたいなものや、登場人物の心情だったりというものを物語っていて。そこに出演者の歌と演技が入ってくるという音楽と演劇の関係は、今回やろうとしている音楽劇での関係ともちろん違う。

例えば、歌と音楽だと「感情」という部分で接点を持つことが一般的な気がするんですけど、僕が今回やりたいのは感情というより、俳優が持っている「イマジネーション」、舞台上の演技で提示しているイマジネーションと音楽が絡み合うことで、イマジネーションが見えるような、あるいはイマジネーションと一緒に聴くことでその音楽がより聴こえてくるような……、なんかそういうようなことが起こせたらと思っています。2021年11月に(ワークインプログレス公演で)やってみて、手応えがありましたしね。

——「感情」と「イマジネーション」、確かに言葉として違うものであることはわかるのですが、もうちょっと噛み砕くと2つの違いはどういったものなのでしょう?

岡田 そうですね、なんだろうな……。感情というのは、それ以上の説明は難しいですけれど、その人が今もっている悲しみがあったとすれば、それに音楽が重なり合わさることで、増幅されていくということですかね。

それとイマジネーション、想像は何が違うかというと、例えば『アナと雪の女王』で(エルサが)氷の城を作る場面で、その城がググググっと築き上げられていくときに、それに重なっている音楽があるんですけど、想像と音楽との重なりというのはどっちかというとそんな感じのことです。

ただ音楽と重なったイマジネーション自体は、あの『アナと雪の女王』の氷の城みたいにビジュアライズはされないわけですけれども、でもビジュアライズする必要はないんです。だって、そこにもうリアライズ(実現)はされているわけですから。

——確かにワークインプログレス公演で10分ほどの場面をみせていただいて、俳優たちの台詞だけを追っていくと、「この人は怒っているのかな? 不安なのかな?」……と思ったりもするんですけど、藤倉さんの音楽と合わさると、単純なひとつの感情に回収されないというか。観客側の想像力がもっと膨らまされるような、そんな感覚が呼び起こされました。

ワークインプログレス公演がひろげる新たな可能性

2021年11月5日のワークインプログレス公演前半では、2023年にウィーン芸術週間で共演する現代音楽アンサンブル Klangforum Wienが、映像演劇の手法で参加。ウィーンでの化学反応に期待が高まる。
後半では、クラリネットの吉田誠と幅広いレパートリーで独自の世界を表現するアンサンブル・ノマドによる生演奏が、俳優たちの定義する空間にさまざまな変容をもたらした。

——今回のワークインプログレスでもうひとつ非常に興味深かったのは、俳優陣はすべて同じメンバーによる実演でしたけれど、音楽は前半がKlangforum Wienによって事前収録された映像(一部は藤倉さんによる演奏)で、後半がアンサンブル・ノマドと吉田誠さんによる実演だった点です。特に後者は、毎回の演技のテンポというかスピード感が異なっていたために、音楽との絡み方も大きく違ったものになり、音楽家側が戸惑っているのが面白かったです。

藤倉 あのときは俳優さんたちの演技が、そのときによって20秒とか違ったりしていたんですよ。音楽家はちょっとした違いでも、「今、速かったよね」というのがすぐわかりますからね。

岡田 テンポというか、スピード感の違いを敏感に感じ取るという訓練を音楽の人たちは受けているんだろうなということは、そのときだけじゃなく、それこそ《夕鶴》でも経験しましたね。例えば《夕鶴》のプロダクションは――珍しいことだと言われましたけど――指揮者が2人(辻博之・鈴木優人)いて、公演ごとに違うので時々、交代してリハーサルをするんですけど、その2人によって(テンポ運びが)全然違うとみんな言うんですよね。

藤倉 うん、でしょうね。

岡田 でも正直、僕はあまりわからなかったんです。

藤倉 いや、でも僕ら音楽家からすると演技に対して同じことを思っていますよ。11月5日(のワークインプログレス公演で)、岡田さんは1回終わるごとに「今のはあんな感じだったけど、でもこんな感じでやってほしい」って説明をしますよね。言われた俳優さんも「ああ、じゃあ、やってみます」って答えているので伝わっているんだと思います。

でも、その隣で演奏していた音楽家たちからは、僕宛てにリアルタイムのチャットで「今のは禅問答?」「今のあれってどういうこと?」「今の演技とさっきの演技って本当にどう違うの?」「それに合わせて私たちなんかしないといけないのかな」っていう感じのメッセージが来てたんですよ(笑)。

ロンドンからオンラインで参加している藤倉は「この2年でオンラインの技術もクオリティも上がり、リモートだからこそリアルタイムで自宅の道具を使って作曲しながら参加でき、1回1回充実したコラボレーションができていることは大きな発見」と語る。

岡田 そうなんですよ! そのタイムラインが面白い。僕だけじゃなくてたぶん、俳優もミュージシャンのような教育を受けていないので、よっぽど天性のものがない限りはテンポに関して正確に把握するみたいなことはそんなにできないはずで。でもそのときに、テンポ感がないとできない……とは考えずに済むようなかたちで藤倉さんが進めてくれているのは、すごく有り難い。そういう方向でクリエーションをするのは健康的でいいなと思います。

藤倉 俳優さんたちが音楽的な教育を受けていなさそうな感じなのは、僕にとっても嬉しいんですよ。ほら、俳優さんでもよくミュージカルにも出ているんですよ、みたいな人だったりすると、新しいコラボレーションといっても、なんかいつもと似てるじゃん! となっちゃうわけですよ。だって、僕はオペラを何回もやっているから。

そうじゃない、これまでやったことのない体験をしたいんですよ。この岡田さんとのプロジェクトは僕にとっても学びが多いし、本当に新鮮だったし。なんていうかな……とにかく早く先が作りたいですね。

——非常に専門的な、突っ込んだところが互いに分からないからこそ、本当に新しいものが生まれるんだということ。今回の作品のクリエイティブな部分がみえてきた気がします。最後、岡田さんにもうひとつだけお話しいただきたいのが、記者懇談会で「今回の音楽劇は(金氏徹平さんとコラボレーションした)前作『消しゴム山』(2019)でのビジュアルアーツを、音楽に置き換えたものになるだろう」とおっしゃられていた件です。

岡田 『消しゴム山』を最近、久しぶりにやって、僕もお客さんと一緒に観たときに改めて感じたんですけど、演劇って俳優がある役を演じて、ある状況をその場で提示して、そのなかで物語が進んでいくということだけだったら、本当に舞台に役者がいるだけで全然いいわけですよ。舞台に美術的なものや音楽的なものがなくてもできる——というのが、演劇をやるときに僕の前提としてあるんです。

でも、だからといって何もいらないというのもつまんなくて……というか、それもやったことがありますしね。じゃあ、そうじゃないもの——例えば、とても美術的な要素が入ってきたときに、なんて言えばいいんだろう……そういうものを受け入れられる懐もまた演劇にはあるんですよ。

舞台に役者だけがいればできる演劇というものに別の何かがドカっと入ることで——よりわかりやすくするとかいうのとは、ちょっと違う理由で!——そのぶん「豊か」になるというか。その感じというのが、やっぱりとても面白いなと思っているんです。そのことを美術から音楽に置き換える。簡単に言うと、それができればすごく面白い音楽劇になると思っているんです。

——ありがとうございました。作品の完成も待ち遠しいですが、加えて世界初演はウィーンの予定ですけれど、日本でも上演がおこなわれるようになることを期待しております。

公演情報
チェルフィッチュ×藤倉大with Klangforum Wien 新作音楽劇 ワークインプログレス公演

日時:2021年11月5日(金)17時

会場:タワーホール船堀 小ホール

作・演出:岡田利規

作曲:藤倉大

出演:青柳いづみ、大村わたる、川﨑麻里子、椎橋綾那、矢澤誠

演奏:Klangforum Wien、吉田誠、アンサンブル・ノマド

※ワークインプログレス公演はバリアフリーと多言語で鑑賞できるオンライン型劇場THEATRE for ALLにてアーカイブ配信予定(音声ガイド/英語字幕あり)

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小室敬幸 作曲/音楽学

東京音楽大学の作曲専攻を卒業後、同大学院の音楽学研究領域を修了(研究テーマは、マイルス・デイヴィス)。これまでに作曲を池辺晋一郎氏などに師事している。現在は、和洋女子...

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