エル・システマ・フェスティバル2018 ガラコンサート レポート

多様性を感動へつなぐ、ここにしかない音楽~エル・システマ・フェスティバル2018 ガラコンサートのステージより

レポート
2018.12.26

2018年12月1日、東京芸術劇場で、「エル・システマ・フェスティバル2018 ガラコンサート」が開催された。主役となるのは、相馬、大槌、駒ケ根オーケストラの子どもたちと、視覚障がいや聴覚障がい等をもつ子どもたちによる合唱隊「東京ホワイトハンドコーラス」。エル・システマ発祥の地であるベネズエラと日本、そしてさまざまな個性をもつ子どもたちを音楽がつないだ。
感動的なコンサートの様子をレポート。

取材・文
芹澤一美 音楽編集者
芹澤一美
取材・文
芹澤一美 音楽編集者
音楽療法専門誌「チャレンジ!音楽療法2003」(2002年)「the ミュージックセラピー」(2003年vol.1~2011年vol.20/音楽之友社)の編集・取材・...

人と人とが言葉ではなく、音楽でつながる感動をもたらした。
国境も障がいのあるなしも越えて。

純粋で飾らず、音楽の喜びに満ちた音、メロディの高揚する部分で響きが寄っていくところに「エル・システマの音」が感じ取れ、それはかつて衝撃を受けたシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ(指揮:グスターボ・ドゥダメル)の音にも通じるものだった。

教育システム「エル・システマ」の音楽を発表する日

12月1日(土)東京芸術劇場での「エル・システマ ガラコンサート」は、3つの子どもオーケストラと東京ホワイトハンドコーラス、ベネズエラのヴォーカル・アンサンブル「ララ・ソモス」が共演した。

世界各地で実践されている教育システム「エル・システマ」の日本版コンサートの第1部には、相馬子どもオーケストラ(福島)、大槌子どもオーケストラ(岩手)、駒ヶ根子どもオーケストラ(長野)の総勢79人が登場。小学生から高校生までのメンバーが気持ちをひとつに、モーツァルト《アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク》、ヴィヴァルディ《四季》を熱演した。

相馬子どもオーケストラ(福島)、大槌子どもオーケストラ(岩手)、駒ヶ根子どもオーケストラ(長野)の総勢79人。相馬、大槌でも指導したエンルイスさん。「マエストロはなんで教えるのがこんなに上手なの?」と子どもたちはすぐに夢中になったそう。© Hikaru.☆

指揮は、このシステム設立の地であるベネズエラのエル・システマで8歳から学び、本公演が国外デビューとなる、エンルイス・モンテス・オリバー。「日本の子どもたちと演奏することをとても楽しみにしていた」というエンルイスは、子どもたちを一人の音楽家として捉えて向き合う真摯な姿勢とぬくもりある目線で、見事に内なる音楽を引き出した。

国外初デビューとなる弱冠21歳の俊英、エンルイス・モンテル・オリバー。ドゥダメル氏に直接指導を受けた。記者会見で、「音楽は子どもたちのどのような個性も受け入れ可能だ」と語った。© Hikaru.☆

手歌と声のパフォーマンス

第2部より皇后美智子様をお迎えし、その幕開けを東京ホワイトハンドコーラスが飾った。

声と手歌でまっすぐに想いを届けた《ふるさとの空》《エーデルワイス》には、表現することは命そのものであるというメッセージが詰まっていて、それは音楽という枠をも超えた、まさしくアートだった。この美しい世界に初めて触れ、自然と涙が溢れた。

東京ホワイトハンドコーラスは、聴覚に障がいをもつ子どもが中心のサイン隊と、視覚に障がいをもつ子どもが中心の声隊とで構成される合唱団。白い手袋と身体全体を楽器にして表現するサイン隊の手歌(しゅか)と声隊の歌とが一体となり、彼らにしかできない歌の世界を表現した。

東京ホワイトハンドコーラスの声隊(左)とサイン隊。子どもたちの純粋な姿だけでも美しく、それが共奏されて一層の感動を呼んだ。© Hikaru.☆

エル・システマの本場ベネズエラとの交流

続いて、ヴォーカルを中心としたバンド、ララ・ソモスが《イパネマの娘》《4羽の鷹》ほかを演奏。視覚障がい者のヴォーカルやトランペットのほか、マラカスやクワトロなどの民族楽器を加えた編成だ。そこに東京ホワイトハンドコーラスが加わり、《上を向いて歩こう》《ララ州の良いところ》を初共演。スキャットを入れたおしゃれなアレンジや子どもたちのエア楽器が可愛らしくて楽しい。

ラストは東京ホワイトハンドコーラスとララ・ソモスで、ベネズエラ第二の国家とも言われている《ベネズエラ》を演奏し、エネルギッシュで華やかなフィナーレへと一気に盛り上がった。アンコールでは、子どもオーケストラも含めた出演者全員で、《夕焼け小焼け》《アルマジャネーラ》を演奏。いつまでも鳴り止まない万雷の拍手が、客席の感動の大きさを表していた。

ララ・ソモスとともにエア楽器や手歌のパフォーマンス。ララはベネズエラのララ州のこと。ララ・ソモスとは英語でWe are Laraの意。© Hikaru.☆

異年齢での合奏で育ち合う子どもたち

エル・システマの活動の基本は合奏。「読譜や奏法を身につけてから合奏に入る」のではなく、合奏する中で年上の子が小さな子を教え、上手く弾ける子を目標に子どもたち同士が自然に育ち合う。だから、ほとんどが楽器未経験者でありながら大曲にも挑戦できるし、演奏にはプロとは異なる躍動感やパワーが生まれる。

第1部でソリストを務めた半谷隆行さん、土屋巳早希さんは、演奏後、「たくさん練習したので達成感がある。緊張している私の気持ちにエンルイスさんが寄り添ってくれたおかげで力が出せた」「大きなホールでたくさんの人に演奏を聴いてもらって嬉しかった」と手応えを語った。

小学生メンバーの黒川天使さん、小松香帆さんも、「(オーケストラを)やめたいと思ったことは一度もない。みんなと演奏できるのが楽しくて家でも練習している」「テレビで演奏を見てヴァイオリンをやってみたいと思って、このオーケストラに入った。みんなで演奏するのが楽しいから家での練習も続けられる」と話してくれた。

終演後の取材にて。後列 左から、半谷隆行さん、土屋巳早希さん/前列 左から、黒川天使さん、小松香帆さん(写真:編集部)

東京ホワイトハンドコーラスの2人も確かな手応えを感じていた。

「僕たちの歌を受け止めてほしいという気持ちを込めて歌った。拍手の大きさでお客さんの反応もわかった。歌や音楽が大好きなのでこれからも続けたい」(渡辺和明さん、声隊)

「4月から今日まで一生懸命に練習してきたので感動で胸がいっぱい。練習で友だちと助け合えたことがとても楽しかったので、コンサートが終わって少し寂しい気持ちもある。みんなの楽しさが合わさって、それが表現に繋がったと思う」(成塚元香さん、サイン隊)

終演後の取材にて。左から、渡辺和明さん(声隊)、成塚元香さん(サイン隊)(写真:編集部)

あらゆる人に音楽を楽しむ機会を創出するエル・システマの理念がストレートに表現された「エル・システマ・フェスティバル2018 ガラコンサート」は、人が生きることの多様性を受け止め合い、音楽でつながるとはどういうことかを鮮明に描き出してくれた。日本でのエル・システマの実践は、今後どのように深まっていくだろうか。来年の公演が今から楽しみだ。こうしたコンサートがさらに広く認知され、より多くの人々と感動を分かち合える機会が増えることを心から願う。

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