レポート
2021.03.08

新国立劇場オペラ2021/2022シーズンは困難を乗り越えた「改革者」を巡る4つの新制作

撮影:鹿摩隆司

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例年、オペラ・バレエ・演劇を合同で行なっていた新国立劇場のラインアップ説明会。2021年10月からのシーズンに向けた説明は、それぞれ別個に行なわれた。

オペラ部門では、芸術監督の大野和士が来シーズンのプログラムを発表、コンセプトや歌手を紹介した。4つの新制作を含む10演目は以下の通り。

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2021年10月 ロッシーニ《チェネレントラ》(新制作)
2021年11月〜12月 ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(新制作、オペラ夏の祭典2019-20Japan↔Tokyo↔World)
2021年12月 プッチーニ《蝶々夫人》
2022年1月〜2月 ワーグナー《さまよえるオランダ人》
2022年2月 ドニゼッティ《愛の妙薬》
2022年3月 ヴェルディ《椿姫》
2022年4月 R.シュトラウス《ばらの騎士》
2022年4月 モーツァルト《魔笛》
2022年5月 グルック《オルフェオとエウリディーチェ》(新制作)
2022年7月 ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》(新制作)

大野は「オペラの歴史を紐解くと、そこにはさまざまな困難を乗り越えながら新しい歴史を刻んできた軌跡を見ることができます。新国立劇場の2021/2022シーズンに並べました4つの新制作の作品には、その意味で、ある関連性を見いだすことができ興味を惹かれます」と語る。時代順に並べてみよう。

撮影:鹿摩隆司

18世期のイタリア人作曲家たちによる「歌偏重」だったオペラの世界に一石を投じたグルック。音楽と言葉を密接に結びつけ、ドラマ性を重んじた作品を生み出す「オペラ改革」。これらは評論家の意見を二分し、グルック=ピッチンニ論争という大騒動に発展する。そんな「オペラの革命家」グルックの代表作が《オルフェオとエウリディーチェ》だ。指揮は鈴木優人、演出・振付・美術・衣裳・照明には勅使川原三郎が新国立劇場に初登場。勅使川原が振り付ける、名曲「精霊の踊り」も楽しみだ。

アドリア海に面するイタリアのペーザロで、庶民の子して生まれたロッシーニ。18世期の王政が崩壊し、政情不安定な19世期初頭。みずからの価値観・力量でヨーロッパを席巻するまでに至った新世代作曲家の名作喜劇《チェネレントラ》は、童話シンデレラを元にした物語。ロッシーニ自身のサクセス・ストーリーとも重なる。主役アンジェリーナを歌うのは、《セヴィリヤの理髪師》ロジーナや《フィガロの結婚》ケルビーノで好評を博した脇園彩。指揮はマウリツィオ・ベニーニ、演出はローマ育ちの粟國淳と、イタリア・コンビが舞台を固める。

19世期に絶大な人気を誇り、音楽界に多大な影響を及ぼしたワーグナーは、若いころに苦難の時代を味わっている。グルックの「音楽と詩を結びつける」様式を推し進め、巨大なドラマを構築する作品はなかなか理解されず、亡命で自作の初演に立ち会えないこともあった。長きに渡った亡命生活から解き放たれ、生み出したのが《ニュールンベルクのマイスタージンガー》「マイスターたちが“詩と歌の粋を競う”この楽劇が、昨年の公演中止を乗り越え、無事に新シーズンへの移行が決まったことを嬉しく思っています。(中略)ハンス・ザックスの名セリフ『芸術と民は共に育ち、咲きほこらん』が満を持して響き渡ることでしょう(大野コメントより)オリンピック・イヤーに上演されるはずだったこの舞台。1年半の延期を経て、奇跡的に昨年のキャストが集結しての上演になるという。

そして《ペレアスとメリザンド》は、熱烈なワグネリアンだったドビュッシーが、バイロイトでの実演に触れて考えを改め、10年という歳月をかけて生み出した。それはグルックから始まり、ワーグナーに結実した「ドイツ的なもの」との戦い、決別するための期間であったのかもしれない。「フランス語の特性を最大限に生かした歌と、人間の意識下の世界をオーケストラが表現する20世紀の大傑作(大野)は、大野自らが指揮をとり、演出は2016年のエクサンプロヴァンス音楽祭で好評を博したケイティ・ミッチェルによるもの。ゴロー役には「おそらく世界で誰よりもゴローを歌っている」バリトンのロラン・ナウリ、ジュヌヴィエーヴ役にはメリザンド役も得意とする浜田理恵が登場する。

オペラ上演にとって非常に難しい状況が続く中、それぞれ作曲家たちが困難に立ち向かって創られ、「この時代に勇気を与える作品」と大野が語る4つの新制作は見逃せない。

撮影:鹿摩隆司

もちろんレパートリー公演も充実。《蝶々夫人》《椿姫》《ばらの騎士》など、名作中の名作が並んでいる。大野の監督就任後、初上演作品だったウィリアム・ケントリッジ演出による《魔笛》は、オール日本人キャストを予定。「コロナ禍で予定されていたキャストが来日不可となったいくつかの上演で、日本人歌手の層が厚くなっていることを実感した。今後も適材適所で採用していく」という。

2021年8月には来シーズンに先駆けて、人工生命搭載アンドロイド「オルタ3」が出演し、子どもたちの合唱と関わり合いながら歌い演じる、新しいオペラ《Super Angels スーパーエンジェル》の世界初演が控えている。さまざまな困難を乗り越えながら、どんな舞台を見せてくれるのだろうか。

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