夜遊びクラシック vol.5

オーナー夫妻の夢が詰まった料理、音楽、空間のコラボレーション...... 赤坂「一ツ木町倶楽部」

レポート
2019.01.04

東京・赤坂のフレンチ・グリルと聞いて少し緊張気味で伺ってみると、そこは本格的ながらもアットホームな温かさがあるお店でした。
自らもジャズギタリストとして活動してきた三宅伊智朗さんと、料理教室やキッシュ専門店を営んでいた郁美さんご夫婦の、音楽と料理の夢がいっぱいに詰まった「一ツ木町倶楽部 フレンチグリル&ベーカリー」。
素敵なクラリネットの音色と、夢のようなディナーをクラリネット奏者の横田揺子さんがレポートしてくれました。

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photos:Toru HASUMI
プライベート夜遊びをレポートしてくれた人
横田揺子 クラリネット奏者
横田揺子
プライベート夜遊びをレポートしてくれた人
横田揺子 クラリネット奏者
東京藝術大学音楽学部、ミュンヘン音楽大学、バーゼル市立音楽院卒業。クラリネットを小林利彰、村井祐児、山本正治、G.シュタルケ、F.ベンダの各氏に、室内楽をG.ヴィス(...

赤坂駅にほど近い瀟洒な街並みの赤坂4丁目にある「一ツ木町倶楽部 フレンチグリル&ベーカリー」。店内に入るとパンの焼ける良い香りに出迎えられます。手前にはベーカリーとカフェスペース、そしてピアノが目に入り、その奥にはダイニングスペースが広がります。

焼き立てのパンも評判ですが、ディナーコンサートが楽しめるスポットとして文化人の注目を集めています。そんな「一ツ木町倶楽部 フレンチグリル&ベーカリー」のオーナー、三宅伊智朗さん、郁美さんご夫妻にお話を伺いました。

ジャズギタリストのオーナーが夢見た「音楽」と「料理」のお店

-- このお店を始められたのはどのような経緯だったのでしょうか?

伊智朗さん: 定年退職後、さて2人で何をしようかとなったとき、家内も7年ほど目白でキッシュの専門店をやっていましたし、若い頃にもフランスに5年、ニューヨークに5年暮らしているあいだ、料理教室を開いたりとかしていました。そこでお互い分野をあわせて、好きなお店を始めようと、2017年5月に開店しました。以来、毎日、無我夢中です。

――伊智朗氏はご自身もミュージシャンだと伺いました。

伊智朗さん: ええ、私自身もジャズギタリストなんです。現役で金融のビジネスマンとして仕事をしてるときも、ジャズギター奏者としてのプロ活動も行っていました。

まあ、気持ちでは、ジャズギターが本業だと思ってやっていたんですけどね。でもここは、基本的にクラシックもジャズも若手の音楽家に演奏の機会と、ファンを作る機会をつくる目的ですので、自分がしゃしゃり出るのではなく、若手を呼んできて、ワンステージに1曲くらい参加しちゃう、という感じです(笑)

―― 「一ツ木町倶楽部」のコンサートは月に8回ということですが、結構な回数ですよね。演奏者を決めるのもなかなか大変なのではありませんか?

伊智朗さん: 大変ですよ。ジャズですとね、いままで一緒にやっていたプロミュージシャンを次々とブッキングしていけばいいのですが、クラシックはまったく人脈がないもんですから……。

ホームページを見ていただくと、誰々プレゼンツ、ってなっていますが、目利きの方にお願いしているんです。例えば今日の野田祐介さん(群馬交響楽団首席クラリネット奏者)はね、大学時代の友人から紹介された日本クラリネット協会の理事さんからの紹介なんです。4週あるうち3つは室内楽なんですが、これはサントリーホールの室内楽アカデミーのマネージャーの方に紹介していただいています。あと、ピアニストはピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)から紹介してもらうとかして、なんとか演奏者を決めています。

自薦他薦でいろんな人が演奏希望で来るのですが、残念ながら経歴を見てもね、皆さんどなたも、藝大や桐朋を卒業して、留学して、コンクール入選して……というと、私自身はあまりよく解らないのですよ。いろんな人に紹介を頼むと、なんとなくレベルが揃いますし、今日みたいなベテランの方が出るのに、次はすごい新人でこれから伸びるぞっていう高校3年生のピアニストが……そんな風にして、木曜日にあそこにいくと何かわからないけど、面白ことをやっているよ、ってなるようしています。

ミュージシャン、料理、空間にも試行錯誤とこだわりが

ここで、中でのお仕事を済ませたマダムの郁美さんの登場です。

郁美さん: 私はクラシック音楽の素養がないんですけれども、これを始めてオーナーが一番楽しんでいます。毎週いい演奏を聴かせてもらって耳が肥えちゃう。いつも大きなコンサートホールでしか聴けない演奏家が、目の前で演奏してくれて、そのあと美味しい食事もできるというのが特色ですから、むしろこちらに来たいという方もいらっしゃいます。

―― ディナーコンサートのスタイルは、まずお食事で音楽という感じですか?

伊智朗さん: 平日ですから、仕事を終えて19:00に来るは難しいという方が多いんです。それで、食事が先で三々五々来ていただいて、8時半から演奏会というスタイルにしています。土曜などにやる場合は、比較的早い時間に始めたりと臨機応変にはしていますが、ケース・バイ・ケースです。

――曲目は演奏家にリクエストしたりしていますか?

伊智朗さん: プログラムは完全に演奏者にお任せですが、あまり超絶技巧に走った曲ばかりではなくて、時々ほっとするような「あ、この曲知ってる~」というのを入れてくださいね、とお願いしています。特に若い方だと、最初から最後まで弾きまくっちゃって、お客さんがポカンとしている、なんてことになりがちですからね。

あとは、お客様はコアなクラシック・ファンばかりじゃないので、曲ごとになぜこの曲を選んだのか、この曲を作曲しているときの作曲家の精神状態は、とか、MCをお願いしています。それで若いミュージシャンがお客様とのコミュニケーション能力を培ってもらえますしね。

郁美さん: 音楽のリハーサルをしないで一生懸命曲解説の練習をしたり、原稿書くっていう若い方もいらして、それはそれで違う勉強になっているみたいです。もちろん、聴く側としても、私は素人ですし、そういう説明があった方がよくわかるんですね。

あとは楽曲とコラボレーションしてしてシェフがメニューを作る、ってこともしていて、それはすごく人気です。スカンジナビア音楽とスカンジナビア料理を組み合わせたときには、鮭やジャガイモを多く使った料理やベリーのタルトを出しました。私はメニューにアドバイスすることはありますが、基本的にシェフがイメージを膨らませて作ってくれています。

普段、クラシック音楽とはまったく無縁に近い生活をしてきた料理人やソムリエが、作曲家や、文化風土の勉強まですることになり、スタッフ一同、良い刺激になっています。

―― リハーサルを聴かせていただいて、室内を満たすような素晴らしいアコースティックな響きに驚きました。

伊智朗さん: ここの内装はクロノバさんという業者にお願いしたんですが、そこの音響担当の方と、どんな音楽をするのかとピアノや演奏者の位置を伝えて、それで一番いい響きにしてください、ってリクエストしました。ですので、いまのピアノの位置ベストなんです。これがね、1メートル向こうだと全然響きが違います。基本的なデザインは私の希望でアール・デコ調にしてもらい、素材や空間の作りかたは音響担当が決めて施工してもらいました。

飾ってある絵画作品は、私が海外にいた時に買ったものがいっぱいあるので、それをとっかえひっかえ出しています。最近は日本画の学生の6人のグループ展もやったりしたんですよ。ここはギャラリーよりよっぽどいろんな人が出入りするでしょう。絵が大好きという人ばかりではありませんから、売れるかは別として、いろんな人に見てもらう、って意味ではここをもっとアーティストに活用してもらいたいと思いますよね。そういう企画もやっていこうと思っています。音楽と料理とアートと、そういったコラボレーションを展開していけたらいいな、と思っています。

お店の前にてご夫婦で。シャイな奥様も写真に応じてくれました。
ベーカリーから漂う美味しい香りにうっとりしていると、奥様が自慢のキッシュ(手前)とともにふるまってくれました。

目の前で繰り広げられる極上の音楽と料理のマリアージュ

まだまだお話を伺いたいところでしたが、ディナーのお客様が集まり始めたのでインタビューはここまで。いよいよ楽しみにしていたディナーコンサートです。

本日のメニューのカードが置かれきちんとセットされたテーブル。お料理の色が映える皿に美しく盛り付けられた前菜の『小江戸黒豚のパテ&青森県産カブのムース』を口にすると、その食材を活かした風味に思わず笑みがこぼれます。

小江戸黒豚のパテ&青森県産カブのムース
サーモンのポワレ ギリシャ風野菜のマリネ添え

どんなワインを合わせていただこうかワインリストを手にしていると運ばれてきた『サーモンのポワレ ギリシャ風野菜のマリネ添え』は絶妙な火の通しかたでフワフワの食感です。いつかフィンランドで食べた特上のサーモン料理を思い出させる逸品で、続く『神奈川県産やまゆり豚のロースト コケモモのコンフィチュール』への期待が膨らみます。お皿を縁取るような一筆書きのコンフィチュールの深紫色と、美しくローストされたやまゆり豚のロゼ色が、ルッコラの緑に支えられて溶け合う様は、まさに絵画的な楽しみで、視覚に味覚に楽しい一皿。『ブルーベリーのスフレグラッセ』は、果物の酸味と甘味が存分に楽しめ、甘党にも辛党にも嬉しい上品なデザートでした。

神奈川県産やまゆり豚のロースト コケモモのコンフィチュール
ブルーベリーのスフレグラッセ
美味しいワインに、料理......これ以上ない幸せに顔もほころんで乾杯!!

ワインと共に彩り豊かで繊細な味わいのコース料理を楽しんだ後は、群馬交響楽団首席奏者、野田祐介さんのクラリネット。この日はフランス音楽を中心としたプログラムで、まずは19世紀の作曲家フランソワ=アドリアン・ボイエルデューのソナタから。

皆さん、とろけるようなクラリネットとピアノの音色にうっとり......。

お食事に呼応するかのような華やかさと心地よさを併せ持った作品です。続いてはクラリネットの名曲、カミーユ・サン=サーンスとフランシス・プーランクのソナタです。どちらも作曲者の晩年の作品という円熟された魅力を、野田祐介さんの柔軟な音色で存分に引き出していました。氏の人柄がうかがえる丁寧な音楽づくりと深く切り込んだ音楽表現を、こんなに間近で堪能できるとは。なんとも贅沢な夕べとなったのでした。

三宅ご夫妻の夢がつまった「一ツ木町倶楽部」。皆さんもぜひ、音楽と美食のコラボを体感しに、お出かけしてはいかがでしょうか?

左からピアノの浅川真己子さん、クラリネットの野田祐介さんと筆者。
店舗情報
一ツ木町倶楽部 フレンチグリル&ベーカリー

住所: 東京都港区赤坂4-3-15 FSK赤坂ビル 1F

営業時間: 
ベーカリー 8:00~19:00

フレンチグリル 11:30~15:00(L.O.14:00) 18:00~22:30(L.O.21:30)

定休日: 毎週日曜日・第2月曜日(通常予約は4週間先まで、貸切予約は通年受付)

ミュージック・スケジュールはこちらから

問い合わせ: 03-6441-0908

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