レポート
2020.04.02
セロリッシュ・パリ紀行〈前編〉

パリの子どもと、音楽とアートで地球の環境問題に触れる『ゼツメツキグシュノオト』

絶滅が心配される18の動物たちを描いたピアノ曲集『ゼツメツキグシュノオト』。生き物や地球のことを考えるきっかけを増やしたいと、絵本やCDも同時期につくられ、2年間(2021年3月31日まで延長)演奏使用の許諾不要、演奏使用料を無料にし、各地でコンサートが開催されてきました。
今年2月にはフランス・パリで、子どもたちが参加するコンサートが開催されると聞き、作曲家である春畑セロリさんが現地へ。フランスでの反応はどうだったのでしょうか。

旅人
春畑セロリ
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春畑セロリ 作曲家

作曲家。東京藝術大学卒。鎌倉生まれ、横浜育ち。舞台、映像、イベント、出版のための音楽制作、作編曲、演奏、執筆、音楽プロデュースなどで活動中。さすらいのお気楽...

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“ゼツキグ”たちが海を渡っちゃった

ピアノ曲集『ゼツメツキグシュノオト』(作曲:春畑セロリ/絵と文:音の台所(茂木淳子)/音楽之友社)が出版されてから2年。演奏使用料を期限つき無料としたこともあって、日本のあちこちでコンサートをしてくださるニュースが耳に飛び込んできます。

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同時発売の絵本(らんか社)とピアノ曲集の『ゼツメツキグシュノオト』。
絵本には、ポエムの入ったイラスト。

大人が弾く、子どもが弾く。イラスト(音の台所=茂木淳子さん作)をスクリーンに映す、ポエムを朗読する、科学者ゲストが環境トークをする、子どもたちの描いた動物の絵を展示する。どのイベントもさまざまな工夫がいっぱいで、ただのコンサートではないところが素敵です。

そして、この2月。

パリ在住の中本陽子さんと奈良在住のあべありかさんが組むピアノデュオ「Duo NaKaNaKa」が、この作品をパリで演奏するというニュースを聞いたときには、「フランスで地球の未来を語り合えるかもしれない。パリへ行こう!」と、私のお気楽な放浪魂がうずいてしまったのでした。

短いながらも刺激に富んだパリの旅。レポート前編は、このゼツキグ・パリ公演の様子をお伝えしましょう。

ピアノ曲集『ゼツメツキグシュノオト』、仏題は、“Zetsu Kigu Note : Mélodies pour les espèces en danger”(中本陽子訳)です!

2月旅行中のパリの様子。
左から中本陽子さん、筆者(春畑セロリ)、あべありかさん。

子どもたちのフランス語朗読が超カワイイ!

陽子さんたちの2月の公演スケジュールは、病院コンサートや老人ホームなどを含めて4ヵ所。そのうち2ヵ所のステージを拝聴しました。

まず、パリ郊外にあるエピネー・シュル・セーヌ音楽院の50周年記念コンサート

この学校は、20年近くパリで暮らしている陽子さんの勤務先のひとつであり、子どもたちが放課後に音楽を習いにやってくる、地域に根ざした音楽院です。生活水準もルーツも異なるさまざまな子どもたち。世界の縮図のようなこの学校でレッスンを続けるうち、陽子さんは“ゼツキグ”のステージに小学生を巻き込むことを思いつきました。ポエムをフランス語に訳して、子どもたちに朗読してもらおうというアイデアです。

生徒さんたちの反応も上々。地球環境にフォーカスしたこの作品に、大きな関心を寄せてくれました。ひとつのポエムを3人ほどで朗読し、曲ごとにチームを交代していくのですが、その割り振りや表現の工夫なども自分たちで考えたのだそうですよ!

エピネー・シュル・セーヌ音楽院の子どもたち、ポエムの朗読を練習中!

本番は、学校からほど近い地域の施設、メディアテーク・コレットのホールで行なわれました。陽子さんとありかさんが交代で弾くピアノソロ、スクリーンには絵本のイラスト、そして、曲ごとに語られる動物たちのポエム。

Où es-tu?    Je suis là…」(どこなの? ここだよ)

ステージの右手でマイクに向かう子どもたちの可愛らしい声が、歌うような韻律をもって耳に響きます。ほの暗いホールは、まるで森の中のよう。

動画:アマミノクロウサギ

共通の想いを分かち合うということ

今回の公演には、音楽院の先生方、ホール、市の関係者の方々、そして父兄のみなさんも、大きな関心と協力を寄せてくださいました。

とくに会場のメディアテーク・コレットでは、プログラムや掲示物、おみやげの動物クイズなどを手作りして盛り上げてくださり、しかも、それを楽しんでくださったのでした。

手作りプログラムやポスター。タウン誌にも掲載していただきました。

終演したあと、客席のご父兄のみなさんが駆け寄ってきて、口々に「とてもよい企画」「美しい曲に感動!」「CDはフランスで買えるの?」などと、ブロークンな英語で話しかけてくださったのは忘れがたい思い出。

そして、子どもたちの感想も伝えてもらいました。「イラストが素敵、かわいかった」「見に来た両親も喜んでいた」「緊張してお腹が痛くなった(笑)」「音楽がきれいだった」「みんなで一緒にできたのがよかった」

小学校低学年ながら、「音楽、イラスト、ポエムが融合した作品の上演の一部を自分たちが担った、という意識は彼らを成長させたと思います」と、陽子先生。

そして今回、彼女の同僚のクロード・フラシェさん、土屋裕子さんが、企画段階から力を貸してくださったのも、公演実現の大きな力になりました。「音楽」と「教育」、両方の面で思いを共有できる教師仲間がいることは、新しい試みには欠かせません。

さらに、この旅がスペシャルだったのは、東京で、『ゼツメツキグシュノオト』を使って音楽と理科のコラボ授業を展開してくださった元小学校教諭の吉村美保さんと、ピアノ教師対象のゼツキグ・セミナーを企画して大きな成果をあげた北井かえさんが、「パリのゼツキグ公演? 行く行く!」と、二つ返事で同行してくださったことです。気ままな放浪のつもりだったパリ旅行なのに、初対面同士がいつしか「ゼツキグ」でつながり合う強い絆に発展したのも、やはり作品に強いテーマがあったからかもしれません。

東京から駆けつけたメンバーも、この日は旧知のスタッフのように活躍。ゼツキグ仲間らしく、ニホンモモンガ風にポーズ。

小児病院でもコノハズクが鳴いた

旅の終盤は、ヨーロッパ最大の小児病院、ネッカー病院のオーディトリウム・コンサート。入院中の子どもたちが、点滴をつけたまま、あるいは車椅子、移動ベッドのまま、集まってくれました。

ネッカー小児病院。院内にステージと客席をあつらえたオーディトリウムを備え、子どもたちに向けての文化的な試みにも積極的。

演奏は、やはり「リュウキュウコノハズク」から「カカポ」までの全18曲。

朗読は、合唱指導者のマリ=エレーヌ・ピッソンさん。作品に登場するすべての生き物をていねいに調べあげ、彼女なりの迫真の朗読を披露してくださいました。生き生きと、動物たちの息づかいが聞こえてくるよう。またひとつ、“ゼツキグ”の絆が強くつながった想いです。

動画:イリオモテヤマネコ

さあ、絶滅危惧種たち、次はどこへ飛び立っていくのかな?

Duo NaKaNaKaとマリ=エレーヌさん。次はカナダ公演の声もあるようで……。
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春畑セロリ
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春畑セロリ 作曲家

作曲家。東京藝術大学卒。鎌倉生まれ、横浜育ち。舞台、映像、イベント、出版のための音楽制作、作編曲、演奏、執筆、音楽プロデュースなどで活動中。さすらいのお気楽...

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