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2023.03.08

追悼 ウェイン・ショーター~ジャズの歴史とともにあった作品・演奏5曲

仲野麻紀
仲野麻紀 サックス奏者

2002年渡仏。自然発生的な即興、エリック・サティの楽曲を取り入れた演奏からなるユニットKy[キィ]での活動の傍ら、2009年から音楽レーベル、コンサートの企画・招聘...

©Robert Ascroft

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Wayne Shorter ウェイン・ショーター

サックス奏者、作曲家、そして、ジャズミュージシャン。

彼が旅立ち数日経つ。哀しみと共に改めて聴く、彼が残した音楽。

サックスとは不思議な楽器で、その歴史は他の管楽器、撥弦楽器あるいはパーカッションに比べると歴史は浅いものの、その魅力は声に近いものであると私は思います。ベルギー人であるアドルフ・サックスが19世紀に生み出してその後、パリでは当初“ひんまがったトランペット”と揶揄されながらも遂にはジャズという音楽分野でその存在は象徴的なものとなりました。

ショーターが奏でるサックスの音は、彼の声そのもの。まったく想像ができない独創的な楽曲、そして演奏の数々を生み出しました。ジャズを聴くということは、その歴史と時系列の上でショーターの音楽を聴くことと言っても過言ではないでしょう。

そんな彼のリーダー作に軸を置き、オリジナル楽曲を中心にに年代順の5曲選んでみました。

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1. イエス・オア・ノー/Yes or No~『JuJu』1965年 Blue Note

元祖ジャズ・ミュージシャンであるトランペット奏者、マイルス・デイヴィスのバンドと並行して自己のアルバムを発表し、特に60年代のブルーノートレーベルに収録されているものは、今日スタンダードともいえる曲々です。

アルバム『JuJu』は、日本人歌手であるJuJuがショーターへのリスペクトとしてアーティスト名にしたことも知られています。

2. ワイルド・フラワー/Wild Flower~『Speak No Evil』1966年 Blue Note

彼が生み出す旋律とハーモニーにどれだけのジャズリスナーの細胞が覚醒したことでしょうか。ハーモニーの上で展開されるインプロヴィゼーションの極みと、彼独特のやや低いピッチ。

1と2のアルバムを制作した「ブルーノート」は、ジャズと一心同体として語られるレーベルです。

ポンタ・ヂ・アレイア/Ponta de Areia~『Native Dancer』 1975年 Columbia

このアルバムは、1950年代後半に世を席巻したボサノヴァがヨーロッパ白人中心主義の象徴とされ、そのアンチテーゼとして誕生したMPB(ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック)における重要人物で、ブラジル音楽を語る上では欠かせない音楽家・歌手のミルトン・ナシメントを迎え制作したものです。

『Native Dancer』では、ナシメントの声を全面に出しながら、それに呼応するようなサックスのソロは、彼にとっての音楽の在り方を表しているでしょう。

4. アウンサンスーチー/Aung San Suu Kyi~『1+1』1997年 Verve

盟友であるピアニスト、ハービー・ハンコックとのDuo『1+1』は、アルバム全体がハンコックとのインティメイトな世界であると同時に、曲名にもなっているアウサンスーチーへ捧げられた演奏。

彼らが奏でる音は、世界へ、遠い地域に生きる人々への連帯ともいえます。

5. ザ・スリー・マリアズ/The Three Marias~『Emanon』2018年 Blue Note

最後に、2013年にオルフェウス室内管弦楽団と共演した 『エマノン』からは「The Three Maria」。

スコアを用いた演奏家たちとの共演にあって、中途オーケストラというバックを携えたショーターが、黙々とサックスのインプロヴィゼーションを昇華させていきます。

※※※

精神性のすべて、もしかすると異次元へワープする術をも駆使し、彼は音楽という贈物を我々に届ける、そういう音楽の使者であったのだと思います。

最後に、ショーターが音楽へ道を進む時期、彼の恩師が発したこんな逸話を紹介します。

“「音楽は3つの方向に進む」と宣言し、それを説明するためにペルーの歌手イマ・スマック、ストラヴィンスキーの《春の祭典》、そしてチャーリー・パーカーを聞かせた”

彼はこの3つの音楽をすべて内包した音楽家ではないでしょうか。唯一無二、宇宙的、そんな言葉でしか彼を捉えることはできないものの、我々がまだ耳にしない音楽の、創生者であったのだと思います。

仲野麻紀
仲野麻紀 サックス奏者

2002年渡仏。自然発生的な即興、エリック・サティの楽曲を取り入れた演奏からなるユニットKy[キィ]での活動の傍ら、2009年から音楽レーベル、コンサートの企画・招聘...

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