2021年のショパン・コンクールで本大会出場のキャリアがあるポーランドのピオトル・パヴラクPiotr Pawlakも同じ楽器選定。
ワルツ作品18はエラール。軽めのプレリューディンクで始め、控えめなテンポで優しく弾く。連打音は独特な指づかいでクリアに。
マズルカ作品17はプレイエル。第1番は楽しげに、第2番は寂しげに。ハ長調部分はニュアンスを変えてノスタルジックに。第4番の慟哭シーンも素晴らしかった。
再びエラールの前に戻り、マズルカの最後を引用したパッセージを導入に「ソナタ第2番」。第1、2楽章はテンポが速く、混乱が見られたが、第3楽章の葬送行進曲は、極上のピアニシッシモが印象に残った。
カナダのエリック・グオ Eric Guo はファイナル進出者ではただ一人プレイエル・オンリー。この人のマズルカ作品59は素晴らしかった。ほのかな光が差す第1番。手をポーンと跳ね上げてリズムをはずませる。ナラティヴな表現がたまらない。第2番ではぱっと光が灯り、幸福感に満たされる。そして慟哭の第3番。テンションをあげてフェードアウトさせ、左手が慰めるように歌う。最後の踊りおさめの部分も美しかった。ワルツ作品42も楽しい演奏。しなやかで活き活きしていて、第1次予選でも感じた左右の独立が際立っている。
しかし、「ソナタ第2番」では人が変わったように余裕がなくなり、テンポも速く、楽器に無理強いするところもあり、やや期待外れだった。
ファイナルに進めなかった中で光ったのは、韓国のヒュンイ・キム Hyunji Kim。体調不良で演奏順を変え、最後に登場した。
楽器はブロードウッドとプレイエル。マズルカ作品41の第1番は仄暗いブロードウッドにぴったりだった。第2番は腕をポーンと跳ね上げてリズムをはずませ、楽しそうに弾く。第3番は昔懐かしい雰囲気で、陰影に富んだ演奏。ワルツ作品42はプレイエル。左手はよくはずみ、右手は繊細な表現。フェードアウトする終わり方がお洒落だった。
「ソナタ第3番」もプレイエル。このラウンドで一番稼働率が高く、力をかけすぎてボコボコ音がすることも多々あったが、そんな状態の楽器からこんな典雅な音色を生み出せるとは! プレイエルの特性を活かし、繊細で活き活きした表現、静謐な世界、どんなに音が増えても決して歌を忘れない、まさにコンクールの趣旨にもっとも相応しい演奏がどうして評価されなかったのだろう。
日本人でただ一人残っていた鎌田紗綾は、極度の緊張からか、実力を発揮できなかったようだ。マズルカ作品59-1は、綺麗な音で隅々までよく歌っていたが、3番あたりからメモリーがおかしくなり、ワルツ、ソナタと破綻の多い演奏になってしまった。まだ18歳と若く、この経験を次に活かしてほしい。