牛田智大「ショパン自身の記憶をたどっていく感覚が連想できるように」

演奏曲:「マズルカ」作品56

ルバートについてですが、(メロディの)音程に純粋に沿ってやっていけばよいものではないと思います。作品にはさまざまな舞曲的なパターンが出てきます。そのパターンごとに、それがどの舞曲に基づいているのかを見極め、基本的にはそのスタイルから外れないようにルバートをつけていきます。

同時に、ショパン自身がおおまかな感覚でマズルカを捉えていたのではないかなと、私は考えています。むしろ、彼の内側にあるマズルカと、田舎で過ごした若き時代や、その頃の友人や家族と体験したマズルカの記憶があると思うのです。ですから、記憶をたどっていく感覚が連想できるような形にできたらいいのかなと思っています。

フィルハーモニーホールは、うしろで聴くとかなり残響もあり、豊かな響きが聞こえると思います。でも、舞台の上では、音が細く、痩せた音に聞こえます。音が痩せているからと頑張ってしまうと、ホールのうしろでも音がうるさく聞こえてしまいますし、何もしなければ、内にこもるような音になってしまいます。ですから、その音のバランスをとるのがなかなか大変なのです。(バランスをとる)中間地点を、できるだけ自然なところを探すように心がけました。

10月16日、第3ステージにおける牛田智大 ©Krzysztof Szlezak
道下京子
道下京子 音楽評論家

2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...