2023.06.05
シューベルト「ピアノ・ソナタ第21番」~強い表出力に心のリミッターを外される恐怖
ショスタコーヴィチの作品はこのように「含み」が多い。もちろん、それが具体的に何であるかをすぐにはわからないように彼は書いているはずなのだが、なんらかの含みがあることはなんとなくわかる。
笑っているのに、表情のどこかが曇っている。それは怒っているのか、悲しんでいるのか、詳細は判然とせぬ。ただ、そうした含みは歪みとなり、じんわりと効いてくる毒のように受け手の心に波紋を起こす。
鬱屈の盛りを迎えていた当時のわたしは、おそらくそうしたことを身体で感じ取っていたのかもしれない。ショスタコーヴィチはアイドルであり、暗い高揚感をときめかせ、気分を爽快にさせてくれる薬物みたいなものだった。
そうした熱狂は、20台の半ばに差し掛かると急に治まってしまった。今でも好きな作曲家の一人ではあるけれど、あの頃のような狂おしさはない。なにしから心のなかでの折り合いがついたのか、それとも毒にも薬にもならない人間になってしまったのか。