親子ともにヴァイオリニストという環境だからこそ、HIMARIさんをバックアップできることがあると恭子さんは語ります。特に「環境を整えること」はもっとも大切なことだそう。
恭子 とても吸収力があるので、良い指揮者、良いオーケストラとの出会いが彼女を大きく成長させると思います。ですから、仕事は商業的にならないように、今はアイダ先生や周りの方、本人と相談して決めるようにしています。彼女がやりたくないということは決してやらせません。
ヴァイオリンのレッスンには楽譜を持って付き添い、先生が指摘したことをその場で譜面に書き込みます。でも、恭子さんが直接HIMARIさんに教えることはしません。HIMARIさんのカーティスでの練習相手に「ここのところをよく見ておいて」というメッセージを添えて楽譜を渡します。
恭子 プロとアマチュアとの違いは、アマチュアは練習してきたことをそのまま舞台に上げるのに対して、プロはその上にたくさんの引き出しがあって、自分の音楽へと仕上げていくところ。私が持っているものをそのまま伝えても彼女の音楽にはなりませんし、引き出しを増やすためにもできるだけ多くのヴァイオリニストと練習したほうがいいと考えています。
恭子さんがヴァイオリニストとして経験してきたことが、HIMARIさんにとって役に立っていることは間違いありませんが、二人はあくまで別のヴァイオリニスト。「何にでも興味がある」というHIMARIさんなので、恭子さんは「ある日パタっと音楽をやめてしまうかも」と思うこともあるそう。それでも「音楽にはゴールはないので、どんなかたちでも音楽がそばにある人生を送ってくれることが幸せだと思う」と恭子さん。
子どもの興味のおもむくままにさまざまな経験をすることを否定せず、見守り支える母。恭子さんとHIMARIさんとのそんな自然体の親子関係は、音楽家ではない私たちにも大きな示唆を与えてくれているのではないでしょうか。