「私が街を行くと、みんなが立ち止まって私を見つめるの」という歌詞は、『レント』では別の場面でモーリーンの台詞の中にも出てくるし、このワルツの印象的なメロディは3回出てくる。
開幕直後、死ぬ前に一曲だけでも名曲を書きたいと悩むロジャーが、途中までエレキギターを弾くと停電で中断。
次はモーリーンのパフォーマンスの後で皆が集まったカフェで、ロジャーがギターでワン・フレーズ弾くと、マークがすかさずそこで「それムゼッタのワルツじゃないよね!(=That doesn’t remind us of “Musetta’s Waltz” )」と皮肉なツッコミを入れて中断。
そして物語の最後、瀕死のミミが屋根裏部屋にたどり着き、ロジャーが彼女に捧げる歌を歌い、ミミがついにこと切れたかと思われる瞬間に、再びムゼッタのワルツのメロディが、今度は最後まで流れるのだ。
『レント』第2幕〜「ユア・アイズ」
ラーソンの『レント』の素晴らしいところは、プッチーニ《ラ・ボエーム》とは結末が違うところである。そしてムゼッタのワルツの引用の仕方にもラーソンの音楽へのセンスの良さが示されているが、すでに初演から26年もたった今日、《レント》の音楽がちっとも古びて聴こえないのはラーソンが書いた詩と音楽が持つ普遍性のおかげだ。
『レント』を愛する人は《ラ・ボエーム》を見なければ人生の損だし、《ラ・ボエーム》を愛する人は『レント』を見なければやはり同じくらい損! である。
プッチーニもラーソンも、自分の青春の喜びと苦しみを作品に反映させた。社会派と呼ばれるミュージカルのジャンルは、ラーソンをいち早く認めて彼のキャリアを助けたソンドハイムが作詞者として関わった《ウエスト・サイド・ストーリー》から『レント』に引き継がれ、今はまた、ラーソンを敬愛するリン=マニュエル・ミランダの《イン・ザ・ハイツ》に受け継がれていると言えるかもしれない。
垣根を取り払って、オペラもミュージカルも体験してみることが、きっと明日への糧になる。