フランス アマチュア音楽家事情~音楽愛と情熱でコンクール、演奏会、仲間作りに邁進
国境、世代、職種などあらゆる垣根を越え、人々をつなぐ音楽の力。その輪の中で重要な役割を果たしているのが熱心なアマチュア音楽家の存在です。音楽への愛は世界共通。フランス在住歴が長く、パリ郊外の公立音楽院で指導にも力を注ぐピアニストの船越清佳さんが、フランスのアマチュア音楽家事情をレポートしました。国を挙げてアマチュア音楽家が応援される環境の中で、彼ら、彼女たちはどのような活動を繰り広げているのでしょうか。
岡山市出身。京都市立堀川音楽高校卒業後渡仏。リヨン国立高等音楽院卒。長年日本とヨーロッパで演奏活動を行ない、現在は「音楽の友」「ムジカノーヴァ」等に定期的に寄稿。多く...
「音楽への愛のために別の仕事に就いている」
フランスの音楽教育の特徴として、全国に網羅される音楽院(コンセルヴァトワール)の存在がある。音楽大学(高等教育機関)に相当するパリとリヨン2つの国立高等音楽院、プロ志望の若者も含めて対象とする41の地方音楽院の他にも、各市に公立の音楽院があり、ここでは地域の子どもたちから大人までが、比較的リーズナブルな登録料で楽器やフォルマシオン・ミュジカルのレッスンを受けている。
これは1970年代に進んだ音楽行政面での地方分権化(「地方ごとに優れたオーケストラ、オペラ劇場、音楽院を設置し、完全な音楽環境の実体を創造する」目的)の一環として実現された。アマチュア音楽家を増やすことで、聴衆の裾野を広げ、全国的に音楽界の活性化を図ろうという考えである。
フランス全土の音楽院(高等音楽院を除く)のほとんどの生徒は、アマチュアの習い事としてコンセルヴァトワールに通っている。入門から10年以上継続している筆者の生徒たちから、「ピアノを習っていることで、聴く喜びも大きくなり、人生には音楽が必要だと感じるようになった」という言葉を聞くと、胸が熱くなる。
フランスにも、高度なレヴェルで仕事と音楽を両立させているアマチュア音楽家がおり、その中には、プロに勝るとも劣らない知的好奇心で音楽と向きあい、「音楽への愛のために別の仕事に就いている」とまで言い切る方々もいる。
朝練を欠かさず出張先にも楽器を持参
アマチュア・ヴァイオリニストであるジャン=マルク・ケリジットさんの本業は、AIスタートアップ企業のマネージャーだが、ピアノもヴィオラも弾くという強者だ。20歳から始めたピアノは、現在も朝6時に起床して1時間練習。仕事で出張するときは必ずヴァイオリンを持参し、ホテルで練習すれば、疲れを忘れるという。
「私はどちらかというと内気な性格なのですが、楽器を手にして舞台に立つと生き返ったように感じます。アマチュアの私は、音楽の高等教育を受けていませんし、プロの音楽家の方々のような知識や力量があると錯覚するような、ナンセンスな自惚れもありません。しかし、音楽への愛やパッションは、決して劣らないと思うのです」
アマチュア音楽家には聴衆がいない。学生の頃から学内コンサートなどの企画を手がけていたケリジットさんは、ならば自分でプロデュースしてしまおうと、“MUSICAMI”というアソシエーション(市民団体)を立ち上げた。コンサートシリーズを開始して10年となる。
「一昔前、通常の音楽ホールのクラシックコンサートでは、聴衆の大半が高齢者、若者は音楽学生だけという状況でした。アマチュアとプロ、奏者と聴衆が、年齢層に関係なく交流できる場を作りたかったのです」
この言葉の通り、“MUSICAMI”ではほぼ毎月、ケリジットさんを中心にプロ、アマチュアを問わない室内楽の共演が繰り広げられている。アマチュアにとって、プロ奏者との演奏はよい目標になり、練習にも拍車がかかるそうだ。
開催場所は、パリ国際大学都市(留学生のための41の宿舎が立ち並び、各宿舎がその国を象徴する建築スタイルを持つ)にある東南アジア館とキューバ館。日本館も多くの文化イベントの開催で知られ、在留邦人にはお馴染みの場所だ。
発足当初は15人ほどだった聴衆も、「自分だけのために弾いてくれているような気がする」と徐々に評判を呼び、現在は毎回が100人ほどの聴衆で満席となる。もちろん小さな子どもたちも入場可能だ。
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