読みもの
2020.03.24
3月特集「音楽にまつわるバケットリスト」編集部編

もう一度パイプオルガンを弾きたい! オルガン練習室で近藤岳さんに習ってみた。

3月の特集「音楽にまつわるバケットリスト」で、編集部でもやりたいことリストを作成。その中から実行することになったのは、「もう一度パイプオルガンを弾く」という編集部Mのもの。
10年のブランクを経て、江戸川橋にあるBEATA(ベアータ)オルガン練習室で、オルガニスト近藤岳さんの手ほどきを受けた結果はいかに?

やりたいことを叶えてもらった編集部員
三木鞠花
やりたいことを叶えてもらった編集部員
三木鞠花 ONTOMO編集者

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

写真:編集部K

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

青春のパイプオルガン

私が通っていた中高一貫のミッション系スクールでは、課外活動としてパイプオルガンを習うことができ、毎日のように朝と放課後、練習していました。もともとピアノは習っていましたが、オルガンの重厚な響きを感じながら、足鍵盤に悪戦苦闘して、それはもう夢中に。母校のパイプオルガンは、ドイツ出身のマルチン・プフリューガー氏によって、創立100周年記念に学内のチャペルに製作されました。

続きを読む
山梨英和中学校・高等学校グリンバンクチャペルのパイプオルガン。
1570本のパイプから成り、25種類の音色を楽しむことができる。南ドイツ・バロック期の特徴をもち、明るく華やかな音色が魅力のひとつ。
パイプは、錫と鉛の合金を用いた金属製のものと、オーストリアのチロル地方から切り出したオーストリアとうひ(欧州に多い針葉樹)や樫の木を用いた木製のものがあり、約5週間かけて組み立てられた。
こんなに壮大なオルガンに毎日のように触ることができて、幸せ者でした!

しかし、大学入学以降はオーケストラに入ってヴァイオリン三昧。年に1~2回帰省したときに、実家のピアノを触るだけになってしまいました。

パイプオルガンというと、まず楽器のあるところに行かなければ弾けないし、場所を借りるにも、教会やホールにある楽器は関係者以外は機会が限られているので、ハードルの高さを感じていました。

でも、またオルガンが弾きたいなぁ……。いつもスルーしてきた願望が、バケットリストの企画を聞いて、再沸騰してしまったのです!

江戸川橋のBEATAオルガン練習室へ

さて、オルガンを弾くにはどうしたらいいのか。サントリーホールのパイプオルガン取材でお世話になった近藤岳さんに相談してみると、なんと神楽坂にある弊社から徒歩圏内に、パイプオルガンのレッスンをしているオルガンスタジオがあるとのこと!

早速、江戸川橋にあるBEATAオルガン練習室にお邪魔しました。一見、オルガンがありそうには見えないオフィスビルの1フロア。扉を開けると、オーナーの木田いずみさんと、趣あるパイプオルガンが、あたたかく迎えてくれました。

オーナーの木田いずみさん。

オーナーの木田さんは、お母さまがオルガニストだったこともあり、オルガン奏者が練習場所に困っていることを肌で感じていたことから、2008年にフランスのガルニエ社製のオルガンを置いたスタジオを開設。始めてみて、オルガンを弾きたいという人の多さに驚いたそうです。

パイプオルガンは、基本的に聴く人に合わせて作られているから、奏者には音が大きすぎたり、遠くで音が鳴っているように感じられたりしますが、このオルガンは弾く人に合わせて作られています。身体に優しい音色です。オルガンを弾いてスタジオから出てくると、みなさん表情が良くなっているんです」と笑顔で教えてくださいました。

BEATAオルガン練習室の魅力

いざ、パイプオルガンの前へ。近藤岳さんに、実演しながらオルガンの紹介をしていただきました。

鍵盤の長さが短めに設計されているため、バロック時代の作品の運指に適しているそうです。

BEATAにあるパイプオルガンは、手鍵盤2段と足鍵盤のある小型練習用オルガン。大きさを最小限に留めるために、音色の種類を決めるストップは2つで、パイプの種類にも工夫が見られます。

手鍵盤は、2段あります。上の段(=主鍵盤)は、外側から見える金属のパイプによって、はっきりとした音が出ます。下の段と足鍵盤には、木製のパイプが用いられ、やわらかい音色が特徴です。

オルガンのカバーを外して、内部も見せてもらいました。鍵盤を押すと、そのパイプに空気が送り込まれます。

ここに習いに来ている生徒さんたちは、もともとピアノやオルガンを習っていて、パイプオルガンに憧れを抱いていた方が多いそう。中には、ホールなどが主催するパイプオルガン講座を数回受講したことをきっかけに、もっと長い期間をかけて習いたいと思った方や、演奏会でパイプオルガンを聴いているうちにオルガンが好きになって、触ってみたくなったという方も。

年齢も、30代から60代までさまざまで、50代が占める割合が大きい。

みなさんとてもやる気があって、もっともっと触りたいと意欲的だそうです。そういう方たちにとって、継続的にレッスンと練習を続けることのできるこの空間は、本当に貴重な場所ですね。

「オルガンのしゃべり方や歌わせ方を習得して、ステップアップしていくというポリシーを大切にしています。楽譜と向き合い、バロックの音の作り方を考えていきます」とレッスンの方針を語る近藤さん。

今年1月24日に刊行された近藤さん編著による教本『オルガン奏法 パイプでしゃべろう! パイプで歌おう!』(道和書院)は、パイプオルガンの仕組みや姿勢などの基礎知識から奏法まで、幅広く学ぶことができます。手鍵盤のタッチや足鍵盤の練習方法が譜例とともに丁寧に解説されています。

 

パイプオルガンを満喫! 大満足!

いよいよ実奏! おそるおそる弾き始めるところ。

今回弾いてみたのは、キリスト教の受難節(今年は4月上旬)が近い今にぴったりのコラール、J.S.バッハの「おお人よ、汝の罪の大きさを嘆け(O Mensch, bewein dein Sünde groß)BWV 622」。高校1年生のときに発表会で弾き、教会の奏楽でも何度か使った思い出の曲です。

右手のメロディを金属パイプのはっきりした音で、左手と足は木製パイプの丸みのある音で弾きます。

普段はヴァイオリンしか弾いていないので、見慣れている楽譜はト音記号1段のみ。オルガンの譜面は、右手、左手、足の3段。3段を同時に目で追うことに、まずついていけません。特に足が挙動不審。……落ち着きましょう。

木田さんのお話にあったように、このオルガンの音色はとても心地よく、身体に染みわたるような優しい響きです。パイプオルガン独特の風を送る音を感じながら、両手と両足を使って、全身で楽器に向き合っているような感覚を味わうことができました。

近藤さんにご指導いただき、「パイプをよく歌わせて」というお言葉のもと、それぞれの音を大切に弾いてみると、オルガンの鳴り方ががらっと変わったように感じました。繊細な音色なので、タッチを丁寧に練習するのが楽しい。カメラマンをしてくれていた編集部員Kも、これにはびっくり。

パイプオルガンを弾ける喜びを噛みしめて、堪能させていただきました。

もう忘れきっていてボロボロだと思っていましたが、「足鍵盤で動きがあっても重心がぶれない」「姿勢がよい」などお褒めいただき、身体が覚えていると実感。

ブランクがあっても、気後れせずにやってみよう! と前向きな気持ちでスタジオをあとにしたのでした。

おまけ 受難節のおすすめオルガン曲プレイリスト

BEATAオルガン練習室

住所: 東京都新宿区山吹町261 トリオタワーサウス6F

利用時間: 10:00~22:00(不定休)

基本使用料: 1時間 1,600円(要予約)

問い合わせはこちら

近藤岳さんのオルガン講座は、毎年4月開講。新年度の募集は既に終了していますが、この記事をご覧になった方限定415日(水)までご相談に応じます。電話かメールでお問合せください。

 

やりたいことを叶えてもらった編集部員
三木鞠花
やりたいことを叶えてもらった編集部員
三木鞠花 ONTOMO編集者

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ