しんとした空気、突然、フルートが唄いだす。「ディディ ディディ……ディッディッ ディ~ン」なんなんだ! この楽しさは!?
音楽からイメージして楽譜の表紙絵を描くという、本間ちひろさんによる詩とエッセイ。アーティスティックな世界に往ったり、超現実の生活に戻って来たり……揺れ動く日常を綴ります。
1978年、神奈川に生まれる。東京学芸大学大学院修了。2004年、『詩画集いいねこだった』(書肆楽々)で第37回日本児童文学者協会新人賞。作品には絵本『ねこくん こん...
椅子
知り合いにも 気がつかないふり
目を閉じ 静かに待っています
これから 音のごちそうが
見えないテーブルに 並ぶので
音楽曲線
笑いだす一瞬前の 満ちる空気を
葉がひらく一瞬前の 芽の膨らみを
演奏家が 爪先立ちでたどっていく
聴衆が その曲線を追いかける
新緑がまぶしい土曜日の六本木。昼食のグラスビールはちょっと我慢して(笑)、「デュオ・バーゼル」のコンサート「春の夢」へ。
(フルート 吉岡次郎、クラシックギター 日渡奈那/2018年4月21日 デザインKホール)
M.C.テデスコの「ソナティナ Op.205」。
冒頭の次郎さんのディッディッディ~ンで、心はクスクス、笑いでいっぱいになる。そしてギターとフルートが、「ね、ここ、おもしろいよね」遊ぶように掛けあって。
そしてまた、やってくるフルートのディディディディ。
ワクワク楽しい! 春だもの!
第2楽章は、コートのポケットに手を突っ込んで、路地裏で潮風を嗅ぐような、オトナ憂鬱モードに、ニヤッとしてしまう。音楽ドラマにひきこまれ、いつしか私も登場人物の一人になって、「だよね、生きていくって、色々よ」とかなんとか、フルートとギターと一緒に、妄想の酒杯を傾けはじめる。きっと路地には猫もいて……。ニャオ。
時にはこうして、人生のいろいろを演劇ふうに面白がって、生きていくのもいいじゃない?
それにしても、どうして、音からドラマが見えるのだろう。見えない音、見える音。音のむこうに、見える世界。
演奏会では、まるで自然に生まれたように音楽があるけれど、そこに至るまでには、演奏家の思考の作業があって。本番では、それは昇華していて、まるで「ない」かのようだけれど、きっと微かには残っていて、音を香らせているのだと想う。
そのほのかな香りに、私たちは心地よく酔っぱらい、境界線を飛び越えて、音楽の大人遊園地で遊ぶのだ。
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