読みもの
2023.07.10

映画の中のクラシック#1『ゴッドファーザー』に脈打つクラシック音楽スピリット

往年の名作映画から最近のアクション映画まで、実に多くの映画でクラシック音楽が使われています。なぜ監督はこの曲を選んだのか。その理由を探ることから見えてくる、クラシック音楽の新たな魅力をお伝えします。

山田真一
山田真一 (芸術文化研究者、音楽評論家)

シカゴ大学大学院博士課程修了。芸術組織や文化政策などの講義、シンポジウム、セミナーなどを行なう一方、評論活動ではオーケストラ、オペラを中心に、海外在住経験を生かし、直...

イラストー駿高泰子

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公開50周年のいまも映画史上に輝く名作

それほど映画を見ていない人でも、“ゴッドファーザー”という名は知っているだろう。英語圏の映画ランキングを見ると、必ずベスト10に入り、『ゴッドファーザー』(1972)はトップ3の常連。対抗馬は『カサブランカ』『市民ケーン』というのが相場なので、カラーで制作された作品としては、事実上トップに君臨する。

映画『ゴッドファーザー』はその後、『ゴッドファーザー PARTⅡ』『ゴッドファーザー PARTⅢ』と続編が制作され、いずれも高い評価を得ている。昨年は公開50周年記念ということで、制作の舞台裏を描いたドラマ『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』が放送され、改めてその面白さ、内容の深さが評価されている。

『ゴッドファーザー』三部作のトレーラー

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『ゴッドファーザー』の評価がここまで高いわけ

何が映画『ゴッドファーザー』の評価をそこまで高くしているのか。それは物語、俳優、音楽の三拍子が揃っているからだ。

物語の原作はマリオ・プーゾによる小説『ゴッドファーザー』。プーゾはイタリア移民の子で、ニューヨーク市の下町育ち。売れない小説ばかり書いていた頃、近隣のイタリア人ギャング団の話を元に小説を書いたらベストセラーになった。

小説が売れたのは、それまで冷酷な暴力集団とばかり思われたマフィアにも家庭があり、人情があり、ルールと集団の統率を持つ人間として描かれたためだ。また、その多くが移民二世だったことで、移民国家アメリカの人々の心を掴んだ。

これをハリウッドのパラマウント・スタジオが映画化。イタリア人カルチャーを知る人間を起用したいというプロデューサーの意向で、プーゾが脚本を担当した。映画やドラマの脚本を原作者が担当することは稀で、当時も異例の起用だったが、監督のフランシス・フォード・コッポラとの共同作業で映画独自の世界観を生み出した。

主人公はマフィア一家だが、移民社会とアメリカの時代性を強調したことで、これが映画ヒットの源泉になる。コッポラ監督曰く、「芸術性と商業性を同時に持つ稀有な作品」となり、アメリカ文化史に名を刻むことになった。

 

『ゴッドファーザー』が公開されたころのフランシス・フォード・コッポラ(1976)

また、プーゾが担当したことで、映画で使われなかった題材等をもとに、すぐに『PARTⅡ』も制作された。続編を作るのは当時としては異例で、現在の映画連作化の元祖となった。以降、『ゴッドファーザー』のような時代を紡ぐ一族の連作ドラマや映画をサーガ(伝承物語)と呼ぶようになり、現在までインパクトを与えている。

俳優は、マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュバル、ダイアン・キートン、タリア・シャイアと、いずれもアカデミー賞を受賞か、その候補になるスター、名優たちを揃えた。このあたりの事情はドラマ『ジ・オファー』に詳しい。

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