ドビュッシーは猫派? 犬派?
《月の光》や《牧神の午後への前奏曲》などで知られるフランスの作曲家ドビュッシーが飼っていたのは、わがままな猫と、庭を荒らすおてんば犬だった?
ピアニストでドビュッシー研究第一人者である青柳いづみこさんが、ドビュッシーの意外な一面とともにペットのエピソードを紹介します。
安川加壽子、ピエール・バルビゼの各氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院首席卒業、東京藝術大学大学院博士課程修了。武満徹・矢代秋雄・八村義夫作品を集めた『残酷なやさし...
猫気質のドビュッシー
クロード・ドビュッシーの前世は猫だったに違いない。どこもかしこも丸く、歩くと猫のように足音がしなかったという。いつの間にかそばにいて、びっくりしたという話も伝わっている。 彼はまた、猫のように物静かで、猫のように自分勝手だった。
ある詩人は、こんなふうに描写している。
彼は音を殺して重たげな感じの、独特な足取りで、入ってきた。柔らかくて無頓着なあの身体つきが、目に浮かぶ。(中略)猫のようでいながらジプシーみたいで、火のように燃えているあの風貌。そんな彼が、目に浮かぶ
猫族であるドビュッシーは、猫を飼っていた。若いときには、「毛が灰色の、半アンゴラ種」の猫で、名前はリーヌ。最初の妻リリーとの家庭にも、2匹の猫がいたという。リリーとは1899年に結婚し、約6年間を共にした。
「夫妻は何でも猫たちのしたい放題にさせていたのです」と、ピアノの生徒は回想している。「自分たちの主人のように物静かな猫たちは、書物机の上におごそかに陣取り、そうしたければ、鉛筆を散らかす権利を持っていました」。
再婚で犬派に転身?
しかし、2人目の妻エンマとの家庭では、2匹の猫のかわりに2匹の犬が飼われていたのだ。パリ16区の贅沢なお屋敷の玄関前で、ドビュッシーが犬たちと写っている写真がある。
1匹は大きく、毛並みが長く、尻尾も長く、堂々としている。コリーの一種だろうか。もう1匹は小さく、毛が短く、尻尾も短く、キョトンとした目に愛嬌がある。 こちらは、ジャックラッセルテリアの中で毛足が短い「スムース」という犬種かもしれない。この犬がいたずら者のグザントだろうか。
ジャックラッセルテリアはイングランド原産で、キツネ狩りのために作られた犬種。好奇心旺盛で活発、負けず嫌いな性格が特徴。
1913年12月、指揮者のクーゼヴィッキーの招きでロシアに演奏旅行したドビュッシーは、一粒種の娘シュシュに宛ててこんな手紙を書いている。
グザントは良い子にしているかね? 相変わらず庭を台無しにしているかい? お前に大声で叱る許可を出そう! クーゼヴィッキーのモスクワの家には、2匹の魅力的なブルドッグがいるよ。彼らの目はまるでカエルのようだ。
ロシア出身の指揮者、作曲家、コントラバス奏者で、オネゲルの《パシフィック231》やプロコフィエフの「交響曲第2番」などを初演したことでも知られる。
おうちが大好きだったドビュッシーが、なぜ演奏旅行に出なければならなかったかというと、エンマが贅沢好きだったからだ。定職がなく、作曲の筆が遅いドビュッシーは、高級住宅街の一軒家で召使や料理人、子どもの養育係まで雇う暮らし向きに稼ぎが追いつかず、高利貸しから借金を重ねた。 それでも、ロシア旅行に出ると早くおうちに帰りたくて、汽車が駅に着くたびにエンマに電報を打ったドビュッシー。
ワルシャワ:「明日の夜帰るよ。もう待ちきれない」。ベルリン:「なんて長い旅なんだろう。愛しているよ」。リエージュ:「今晩帰る、ともう一度お前に言うことのできる幸せ」。
猫のように勝手だったドビュッシーの性格も、犬を飼って、犬のように従順になったのだろうか。
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