読みもの
2022.04.26
4月の特集「音楽と部屋」

真空管FMチューナーで心あたたまるラジオ体験を~音楽学者がアンプとともに工作に挑戦!

ガジェット大好き音楽学者の広瀬大介さんが、今度はFMチューナーとデジタルアンプの工作に挑戦! その様子と聴き心地をレポートしてくれました。子ども時代を思い出すなつかしいラジオを、真空管で音質にこだわって聴いて、にやにやが止まらない!?

広瀬大介
広瀬大介 音楽学者・音楽評論家

青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。iPhone、iPad、MacBookについては、新機種が出るたびに買い換えないと手の震えが止ま...

写真:筆者撮影

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子ども時代を思い出す魅惑のラジオ

皆さん、普段、ラジオってどのくらいお聴きになりますか?

昔に比べて、ラジオの聴取環境は多彩になりました。もちろんインターネットのおかげです。NHKならば「らじるらじる」、民放ならば「radiko」で、かつては聴くのが難しかった地方局の放送まで愉しめるようになりました。聴き逃し放送も充実し、各種ポッドキャストもいまなお根強いファンに支えられています。

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私のような昭和生まれのオジサンが若い頃、ラジオとは、完全に受け身となって情報を与えられるだけのテレビと違い、ハガキやお便りを出すことでパーソナリティとのつながりが持てる、双方向メディアのはしりでした。さだまさしのセイヤング、ビートたけしのオールナイトニッポン。いまもなお、その文化がラジオに残っているのは本当にありがたいことです。

メディアが多様化した現在でもなお、車で移動する際、なんとなく音楽を聴く気分にならないときはラジオに耳を傾けます。私自身もメディアの仕事にかかわる機会がときどきありますが、ラジオでしゃべる際は、どんな仕事でも感じることのできない特別な高揚感に包まれます。自分にとってラジオとは、日常に寄り添うものでもあり、そして非日常を彩ってくれるものでもあるのです。

小学校に上がる前、親が運転するカーラジオで、AMとFMの音質を聴き分けて、「よくわかるな〜」と親に褒めてもらえたことは、子ども心にも鼻高々でした。すこしガサついた音質のAMで聴く軽快なトークは、オトナの世界を垣間見る気分になり、より澄んだ音質のFMで聴く音楽番組は、まだ見ぬ実演の世界への憧れをかき立てられたものです。

いま、多少電波状況が悪くとも、携帯の電波さえつながれば、「らじるらじる」や「radiko」で、全国津々浦々の番組を高音質で聴取できます。そのことにはとても感謝をしつつも、こんなにスッキリとした、雑味のない音でラジオが聴けてしまってよいのか、とも思っていました。もちろん、インターネット放送は直接空中に飛んでいる電波を拾うわけではないので、どこでも同じ音質で(理論上は)聴けるはずです。でも、AMにせよ、FMにせよ、なぜかその音から、かつてのラジオに感じられたオトナの世界やまだ観ぬ世界への憧れを感じることはできない。自分がオジサンになったからだけかもしれませんが、やはり便利さとひきかえに喪ったものは大きいな、と、やはりオジサンらしい感懐を抱いてもしまうわけです。

FMチューナーとデジタルアンプを手持ちのスピーカーに合わせて

現在、純粋なオーディオ機器としてFMチューナーを発売するメーカーは、ほとんどなくなってしまいました。実は2019年9月、老舗オーディオメーカー、ラックスマンが「Stereo」誌とタッグを組んで、真空管を用いた組立式FMチューナー LXV-OT8 を発売する、というのは情報としてキャッチはしていたのです。ですが、組立式かあ、実際に組み立てる暇あるのかな……、などと逡巡している間に、同好の士は多いと見えてあっというまに完売。欲しいときが買い時、という言葉をあのときこそ痛切に噛みしめたことはありませんでした。

すると昨年末、ONTOMO編集部から、「FMチューナー組み立ててみませんか?」という悪魔のささやき……いや、天使の福音が。聞けば、そのときの発売が大変好評で、(私同様)買えなかったひとが続出。ぜひまた売り出してほしい、という熱烈なラブコールに応えたのだとか。私も心の中だけでラブコールを送るという無精を詫びつつ、そのお申し出を嬉々として受けたのでした。

幸い、コロナ禍のおかげ? で、普段よりは暇。年末年始のまったりした時間を使えば、不器用な私でも、じっくりこの種のものを組み立てる時間はありそうです。FMチューナー単体では当然音は鳴らないので、アンプも調達しなくてはならない。そのへんに転がっているポータブルアンプで鳴らすことはできそうですが、せっかくなので、同じラックスマンのデジタルアンプ LXA-OT4 を同時に入手し、組み合わせて使うことにしました。スピーカーは、その昔、音ゲーコラムを書いたときに必死に組み立てたものがありますので、今回の企画にピッタリでしょう。

いざデジタルアンプとFMチューナーの組み立てに挑戦!

LXV-OT8 も、LXA-OT4 も、組み立ての基本はほぼ一緒。ドライバー1本だけを用意すればよく、底板と基盤をネジ止めし、各種部品を取り付けつつ、側板と天板を取り付けるだけ。私が不器用なせいか、もともと天板が少し歪んでいたのか(ぜったい前者)、アンプのほうは少し歪んで隙間ができてしまったのですが、まあ自分が使うんだから気にしない。もっとも神経を使ったのは、FMチューナーの基盤に真空管を取り付けるときでしたが(爪などを折ってしまうと大変!)、なんとか無事ハマってくれたようです。両方合わせて1時間ほどで組み立てが完了しました。

というわけで、こんなふうにセッティングしてみました。

大人の工作その1:ラックスマン製 デジタルアンプ・キット 「LXA-OT4」

キットの中身はこんな感じです。
組み立てていきます。
一面ずつ仕上げていきます。
もう一息!
完成!

大人の工作その2:ラックスマン製 真空管FMチューナー・キット「LXV-OT8」

お次はFMチューナー。真空管がとても美しいです。

真空管ならではのあたたかみで心もうるおう

FMのつまみは回転ノブ式。添付のアンテナをめいっぱい伸ばし、アンプとチューナーの電源を入れると、子ども心をざわつかせたラジオ特有のホワイトノイズが聴こえてまいりました! とはいえ、そのノイズにも、どこか血の通ったあたたかみが溢れているような気がします。そう、それが真空管のお仕事。電気信号を増幅するのは、現代の機械ではトランジスタの役割ですが、それを真空管が代わりに果たしているわけです。電力効率や寿命が短いなどもちろん欠点もありますが、より自然で、やわらかな音を出せるのが真空管。FMチューナーとの相性はバッチリと申せましょう!(少しテンションがおかしくなってます、スミマセン)

このチューナーを鳴らす用途ならば、このアンプは少しオーバースペックかもしれません。FMの音を鳴らしきり、まだまだ余裕があるくらい。切替機をつないで、PCなど他のデバイスからの音も切り替えて鳴らせるようにしてみました。同じラックスマンの筐体が仲良く並んでいるというだけで、気分的にも音質体感は3割向上(あくまで気分)。なんだか嬉しくなって、ニヤニヤしてしまいます。

アンプとチューナーが並んだ様子を見るだけで顔がにやけてきます。

いろいろとツマミをひねっていると、ちょうどNHK-FMでベストオブクラシックがはじまり、チェロのふくよかな、木の箱が鳴り響く質感までが目の前に立ち上がりました。忘れかけていた子どもの日の嬉しさが蘇るよう。これからは、少し疲れたとき、心がなんとなく晴れないとき、この音を意識的に聴いて、心に潤いを求めるようにしようかな。

広瀬大介
広瀬大介 音楽学者・音楽評論家

青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。iPhone、iPad、MacBookについては、新機種が出るたびに買い換えないと手の震えが止ま...

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