ヴェルディの真実の友ルルちゃんと、オペラ創作を支えた愛犬たち
イタリア・オペラの巨匠ジュゼッペ・ヴェルディ。彼が愛したペットとは? 彼がいなければ大作オペラはかけないと言わしめたブラックくんと、お墓に「真実の友」と刻むほど愛したルルちゃんのお話です。
学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...
イタリア国家統一を象徴する大作曲家は犬派? 猫派?
《椿姫》《リゴレット》など、数多くの名作を書いたイタリア・オペラの巨匠ジュゼッペ・ヴェルディ。突然ですが、ヴェルディは猫派だと思いますか?それとも犬派?
イタリアの印象派画家ジョヴァンニ・ボルディーニによる70歳ごろの肖像画。
イタリア国家統一の時代に愛国的なオペラを書いた、ちょっと厳しいイメージもあるヴェルディ。だからこそ反対に、そのヴェルディが猫を愛でているところを想像するとかなり可愛いのでは、という気がします。
例えば、作曲に興がのってきたヴェルディが五線譜にペンを走らせようとすると、愛猫がじゃれついてそれを邪魔する図、とか。それとも、安楽椅子に座って膝の猫を撫でていると、突然「!」と素晴らしいメロディがひらめくけれど、猫をどかせるのが忍びなくて机まで行かれず困っているヴェルディ!?
いいえ、実はヴェルディは大の愛犬家でした。
愛犬はオペラ創作のパートナー
都会から離れたパルマ近郊の土地サンターガタ。よく手入れされた広大な庭と、何千ヘクタールもの畑に囲まれたヴェルディの邸宅(ヴィラ・ヴェルディ)では、いつも犬を何頭か飼っていました。
現在ヴィラ・ヴェルディとして一般公開もされているサンターガタのヴェルディ邸
愛犬たちは、ヴェルディが長いオペラを書くときの欠かせない友でもありました。例えば、ヴェルディが友人のアッリヴァベーネ氏に向けた手紙で、狩猟犬(マスティフ犬)のブラックについてこう書いています。
「私のかわいそうなブラックはかなり具合が悪い。ほとんど動けないし、おそらくもう長くはないだろう」「次のブラックをボローニャに注文したんだ。なぜって、もしまた《ドン・カルロス》のような作品を書こうなどという気を起こしてしまったら、彼らの協力なしにはできない話だからね」(1868年)
ヴェルディがブラックの力を借りて(?)作曲した5幕のオペラ《ドン・カルロス》
マントの中にいつも抱えた真実の友
そして特に、妻のジュゼッピーナ・ストレッポーニが飼ったマルチーズのルルちゃんは、ヴェルディもとびきり可愛がっていました。
もとオペラ歌手。若きヴェルディの才能をいち早く見抜いた女性。その後、ヴェルディが大作曲家としてキャリアを築くのにも大きく貢献した。
画像提供:ヴィラ・ヴェルディ
ルルちゃんは、ヴェルディ夫妻の愛犬として、オペラ界でも広く知られていたようです。当時のイラストには、前髪をリボンで結んだルルちゃんが、ヴェルディと一緒に描き込まれているものが数多く残されています。
妻ストレッポーニが、パリの出版エージェントLéon Escudierに書いた手紙にはこうあります。
「あなたが、まだ子犬だった頃にご覧になった、私の真っ白なルルは、世界で一番美しい犬です。そしておそらく、一番幸せな犬でもあると思います。自分が誰に対しても主人だと思って振る舞い、しかも皆にかしずかれているのですから。ヴェルディは彼のマントの中に、息ができるように鼻先だけ出した犬を抱えて、気をつけながら歩いています」(1860年)
ヴェルディがどれだけルルちゃんを愛していたのかは、お墓からもうかがい知ることができます。ルルちゃんが亡くなったとき、ヴェルディとストレッポーニは悲しみに暮れました。そして、美しい庭の母屋の近くに愛犬のお墓を作ります。そこには「Alla memoria di un vero amico 真実の友の思い出に」と刻まれているのです。
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