10月特集「ハロウィン」

ハロウィンに聴く! オペラに登場する怖い魔女トップ3

読みもの
2018.10.14

「魔女」にはいろいろなイメージがありますね。とんがり帽子に箒、黒い衣装を身に纏い……というのがハロウィンの定番でしょうか。実は、魔女はオペラに欠かせないキャラクターでもあります。予言や美貌で人間の男たちを翻弄する魔女の音楽を聴いてみましょう。

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メインビジュアル: ラファイエット劇場で上演された《マクベス》第2幕より © Federal Theatre Project
ナビゲーター
飯尾洋一 音楽ライター・編集者
飯尾洋一
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飯尾洋一 音楽ライター・編集者
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

いつのまにか日本にもすっかり定着したハロウィン。今のところ、日本のハロウィンは子どもたちがお菓子をねだるというよりは、若者たちの仮装イベントといった感がある。コスプレ用の衣裳も盛んに売られているが、定番は魔女。ハロウィンの王道だ。老婆から魔女っ子まで、魔女は年齢を問わないのがいいところ。

クラシック音楽の世界では魔女はおなじみの存在だ。特にオペラ。さまざまなタイプの魔女がいて、それぞれに怖い。オペラには怖いタイプの女性がたくさん登場するが、ここではいわゆる「魔性の女」ではなく、なにがしかの超自然的なパワーをもった「魔女」について、もっとも怖い三大キャラクターを選んでみたい。

ヴェルディの《マクベス》に登場する3人の魔女

筆頭に挙げられるのは、ヴェルディの《マクベス》の魔女。原作はもちろんシェイクスピア。魔女といえば、なによりもまず《マクベス》である。森の魔女たちは予言する。「マクベスは王になるであろう」「バンコーは王の父になるであろう」。予言通りにマクベスは王になるが、「バンコーは王の父になる」という予言に心を乱されて、バンコーの息子たちに刺客を送る。原作では魔女は3人だが、ヴェルディのオペラでは魔女役に合唱があてがわれる。山場に次ぐ山場のハイテンションなオペラだが、魔女の見せ場は第3幕。魔女たちが住む洞穴で「女から生まれた者にマクベスは倒せない」「バーナムの森が動かない限り敵はいない」の有名な予言が下される。

マクベスと3人の魔女/ヨハン・ハインリヒ・フュースリー(1741–1825)© WebMuseum

予言はいつも正しい。ただし、マクベスは女から生まれてこなかった者に倒されるし、バーナムの森はやがて動き出す。不信や慢心といった人間の弱さを突いてくるあたり、魔女の予言には純度100パーセントの悪意があって、実に恐ろしい。

ドヴォルザークの《ルサルカ》

続いて挙げたいのは、ドヴォルザークの《ルサルカ》。ヒロイン役のルサルカは森の奥の湖に住む水の精である。ルサルカは人間の王子に恋をしてしまう。恋を成就させるためには人間にならなければならない。「はやく人間になりた~い」という妖怪人間ベムばりの願いを、ルサルカは声を失うことと引き換えに実現する。めでたくルサルカは王子と結婚する。第1幕のアリア《月に寄せる歌》が有名で、よく単独で歌われる。

このオペラでなにがすごいかといえば水の精ルサルカは人間に姿を変えるのと引き換えに、声を失ってしまうのだ。オペラの題名役なのに、口がきけなくなるという大胆すぎる設定。そして、お約束通り、王子はしゃべれないルサルカに愛想を尽かし、他国の王女に惹かれてしまう。裏切った王子に待っているのは罰だ。王子は命を落とし、ルサルカは王子を抱いて湖の水底へと沈んでゆく。

1901年に初演が行なわれたルサルカ/作者不明

水の精に恋心を寄せられた男は、破滅して水中に引きずり込まれるものと相場は決まっているのだが、ルサルカの場合、人間の姿ではしゃべれないのが特徴的。口もきいてくれないとは、なんという仕打ちだろう。この設定に男性の抱く潜在的な恐怖心が反映されているのでは。

ドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》

最後に挙げたいのはドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》。これもまた《ルサルカ》と同じく一種の水の精ものといってもいいだろう。メリザンド自身は超自然的な行為をするわけではないが、森の奥にある泉でひとりで泣いている美少女という存在は、どう考えても妖魔の類である。どこから来たのかわからないし、なにを考えているのかわからないが、王太子ゴローに発見され、妻となる。やがてメリザンドはペレアス(ゴローの異父弟)と恋仲になり破滅への道を歩む。

メリザンドの得意技は「大切なものを水に落とすこと」。最初のゴローとの出会いで王冠を落とし、ペレアスと一緒のときにゴローの大切な指輪を落とす。それも遊びでわざわざ高く放り投げて、落としたくて落としている。これは水への捧げものなのか。

ペレアスとメリザンド/エドモンド・レイトン(1852–1922)

メリザンドのいちばん怖いところは、最後に出産するところ。メリザンド自身は死んでしまうのだが、赤子は生きる。おそらく赤子は美しく育ち、やがてまただれかを破滅させるのだろう。再生産性があるのが、この妖魔の恐ろしいところである。

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