「アルルの女」ってだれ? ──ビゼーの二大傑作《アルルの女》と《カルメン》
人気音楽ジャーナリスト・飯尾洋一さんが、いまホットなトピックを音楽と絡めて綴るコラム。
第5回は、ビゼーの2大傑作《アルルの女》と《カルメン》。カルメンといえば、オペラを見たことがない人でも、「あ、この曲知ってる!」とピンと来るに違いない名旋律ばかり。《アルルの女》もキャッチーな旋律が盛りだくさんだけれど、ところで……どんな話だっけ? 2大傑作に共通するのは「三角関係」だった!?
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...
「アルルの女」ってだれ? ──ビゼーの二大傑作《アルルの女》と《カルメン》
ビゼーが書いた2大傑作といえば、オペラ《カルメン》と組曲《アルルの女》。この両作品のなにがスゴいかといえば、「名曲密度」の高さ。ひとつの作品のなかに有名なメロディがぎっしりと詰まっている。名作オペラは数あれど、《カルメン》のように最初からおしまいまで、こんなにも親しみやすいメロディが連続する作品があるだろうか。あまりにも音楽が自然体なので、人間が頭で考えて作り出した音楽という気がしない。
同じことは、組曲《アルルの女》にも言える。こちらのほうは民謡が使われていたり、他の作品からの転用があったり、盟友ギローの手が入っていたりと、《カルメン》とは若干事情が異なるところもあるのだが、できあがった組曲の完成度はやはり尋常でなく高い。
フランスの作曲家。ビゼーと親交があった
フランスの作曲家
そんなこともあって、《カルメン》と《アルルの女》はどちらもとてもなじみ深い名作であると思っていたのだが、あるとき、ふと気が付いた。
《カルメン》のストーリーはよく知っているが、《アルルの女》ってどんな話なんだっけ?
どちらも名作とはいっても、《カルメン》はオペラとしてひんぱんに上演されるのに対し、《アルルの女》はもっぱら組曲が演奏されるのみ。本来は劇音楽として書かれたわけだが、劇のほうを見たことがない。しかも、ドーデによる原作は、日本語訳が少々入手しづらい。岩波文庫や新潮文庫など、かつてはいくつもの日本語訳で刊行されていたが、現在簡単に手に入るものはない。いずれも1950年代までの翻訳なので、そろそろ新訳が欲しくなる。
ちなみに、ドーデの《アルルの女》には2つのバージョンがある。まずは短篇集『風車小屋』に収められた短篇。こちらはかなり短い。それが後に3幕からなる戯曲に仕立てられた。ビゼーが音楽を付けたのはこちらの戯曲のほうだ。
ビゼーを捉えたのは「三角関係」?
あらすじを簡単に紹介してみよう。
舞台は南仏。豊かな農家の息子フレデリが主人公だ。彼はアルルの女に恋をする。フレデリは田舎で溺愛されて育った純朴な男だが、アルルの女は都会の奔放な女。フレデリの家族は、そんなどこの馬の骨ともわからない女よりも、地元の農家のまじめな娘を選んでほしいと願っている。フレデリはアルルの女への思いが募って、食事も喉を通らない。ところが、馬の番人がやってきて、そのアルルの女は自分の情婦だという。これを知って、フレデリはアルルの女との結婚をあきらめ、代わりに家族たちのすすめに従って、幼なじみのヴィヴェットと結婚しようとする。しかし、馬の番人を目にしたことがきっかけで、アルルの女への思いがあふれ出て、苦しみを終わらせるために自ら命を絶つ……。
うーむ、そんな話だったのか! これはどうしたって《カルメン》を思い起こさずにはいられない。フレデリとアルルの女とヴィヴェットの関係は、ほとんどそのままドン・ホセとカルメンとミカエラの関係に重なるではないか。アルルの女もカルメンも男を破滅させる魔性の女だが、この戯曲ではアルルの女は一度も姿を見せないのがおもしろい。
ビゼーが《アルルの女》を書いたのは1872年。《カルメン》は1875年の初演だが、《アルルの女》を依頼された時点で、すでに次のオペラの題材にメリメ原作の「カルメン」を選んでいたようだ。ほぼ同時に同じような登場人物たちのストーリーを音楽化しようとしていたことになる。
ビゼーにとって、この三角関係の図式はよほど胸に刺さるものだったのだろうか。
【公演日程】
2018年11月23日(金・祝)14:00 オペラパレス
2018年11月25日(日)14:00 オペラパレス
2018年11月27日(火)14:00 オペラパレス
2018年11月30日(金)14:00(貸切) オペラパレス
2018年12月2日(日)14:00 オペラパレス
2018年12月4日(火)18:30 オペラパレス
【チケット】
S席 23,760円/A席 19,440円/B席 12,960円/C席 7,560円/D席 4,320円(すべて税込)
【出演】
カルメン: ジンジャー・コスタ=ジャクソン
ドン・ホセ: オレグ・ドルゴフ
エスカミーリョ: ティモシー・レナー
ミカエラ: 砂川涼子
指揮: ジャン=リュック・タンゴー
演出: 鵜山 仁
合唱指揮: 三澤洋史
合唱: 新国立劇場合唱団
ダンサー: 新国立劇場バレエ団
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
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