読みもの
2022.12.09
知識ゼロからわかる!

インターネットと音楽についての法律相談室 第3回 その「編曲」は本当にやっていいの? <後編>

YouTube、SNS、ブログなどで自由に表現ができるようになった昨今。それに伴い、著作権への関心も高まっています。
本連載では、インターネットと音楽についての著作権や関連する法律についての初心者向けの基礎知識を、アート関連のスペシャリストが集まった骨董通り法律事務所の弁護士・橋本阿友子さんに教えていただきます。
今回は、前回に続き「編曲」についてお伝えします。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

お話を伺った弁護士・橋本阿友子さん(骨董通り法律事務所にて)

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訴えることのできる人は決まっている

――著作権法違反は「親告罪」なんですよね。つまり親告罪というのは、訴えられなければ罪には問われない?

「親告罪」というのは、告訴がなければ起訴できない犯罪で、著作権侵害は基本的には親告罪とされています。このように、著作権侵害は刑事罰もあるのですが、損害賠償と差し止め等の民事上の責任も重要です。例えば、無断で他人の曲を有料コンサートで演奏したという場合は、著作権者は損害賠償を請求できると考えられます。

――「親告罪」は、告訴するべき立場にいる人でないと告訴できないってことなんですね。

そうです。告訴権を持っている人は決まっていますから、その人以外が告訴することはできません。

――もし著作権を侵害している人を見つけたとしても、誰でも告訴できるというわけではないと。

そういうことになりますね。

民事上の責任も、請求権を有しているのは原則として権利を侵害された本人で、誰でも追及できるわけではありません。著名人のリサイタルの動画がアップロードされているのをたまたま発見しても、発見者は権利を侵害されていないので、アップローダーに責任追及できるわけではないのですね。

それは著作権に限らず一般的にいえることで、例えば交通事故も、たまたま目撃者がいて、その人が被害者のかわりに損害を請求できるかといったら、それは認められていないというわけです。

部活動でこの曲を編曲しても大丈夫?

――小中学校の音楽教師が、子どもたちの教材として、今流行しているヒット曲を編曲して演奏させることは、正規の授業の中なら大丈夫だと思うのですが、運動会や校内音楽会などのイベント、あるいは部活動での校外の発表会やコンクールの場合は著作権的に問題になるのでしょうか。

学校教育に関連するものは、著作権法35条1項という条文で、授業を受け持つ担任の教師や、授業を受ける生徒自身が、授業の過程で著作物を複製・公衆送信・伝達できると規定されています。また、音楽に関しては、著作権法38条1項が、非営利目的で、無償で、演奏者が報酬を受けない場合には、無許諾で演奏できると規定しています。

――町の公民館とかで、いくつかの小学校が集まって催し物をするといった場合は……?

授業の過程から外れた活動には、先ほどの著作権法35条1項は適用されないと考えられますので、みんなが集まって歌うために楽譜(楽曲・歌詞)を人数分印刷して配る場合等は、JASRAC等に使用料の支払いが必要だと思います。他方、演奏については、上記の理由で、許諾(使用料の支払い)は不要でしょう。

――でも、やはり「編曲」を勝手にやるのはアウト?

そう、アウトです。学校教育等での利用でも、です。

著作権法は「編曲権」を著作権者に独占させています。そのため、第三者が無断で編曲すると、著作権侵害となります。

ただ、アレンジの中で、著作権法の「編曲」に当たらない場合もあります。例えば、オーケストラのスコアの中から、メロディだけを取り出して、それを例えばピアノで弾くといったケース。これは編曲のように見えるかもしれないけれども、そこに創作的な表現は加わっていないですよね。例えば全く同じ曲のまま楽器編成だけを変えるのであれば、問題とはならないと考えられます。

もっとも、そこに伴奏をつけたり、和声を変えたりする。あるいは、ピアノ曲を交響曲にするとなると、その変更に創作性が出てくるので、著作権法上の「編曲」といえると思います。行なおうとしている変更が、誰がやっても同じ変更といえるかどうか、がポイントです。

――高校野球で応援するときの吹奏楽が演奏する曲は、ほとんど編曲されていますけど、あれはどうなんでしょう? 例えば歌謡曲をよく吹奏楽で編曲して演奏しますよね。

先ほど申し上げた通り、曲自体はそのままで、楽器編成だけを変えるなら問題となりにくいだろうと思います。新たな小節を加えたり、伴奏に変更を加えるのは著作権侵害になり得ますが、許諾を得て行なわれている場合もあるのかもしれません。

編曲に関する相談はとても多いです。編曲は実は頻繁に行なわれているから大丈夫と思っていたら、調べるとダメっぽいことがわかった、という背景があるのではないでしょうか。

――もし編曲をしようとするなら、著作権者にOKを取らなきゃいけないというのが基本的な考え方ですか?

はい。元のオリジナルの楽曲を編曲する権利は、著作権者が独占しているので、著作権者の許諾を得るという手続きが必要になると思います。

編曲に関しては前回お話しした著作者の「同一性保持権」も関係します。ですので、曲をカットしたりクラシック音楽をジャズ風にアレンジして即興を加えたり作品を改変して利用する際に、著作者(楽曲であれば作曲家)の同意を取得しないといけない場合があります。

著作権者と著作者両方にコンタクトをとるのは、結構大変な作業になりますね。

――もし発表会やリサイタルで、今流行しているヒット曲をピアノにアレンジして弾いてみたいと思うピアニストの場合は、それは許諾を取らないと危険な行為になりますか?

ピアノは音楽の再生装置と言われることがありますが、交響曲でも一台である程度再現できますから、ヒット曲をピアノでそのまま再現する、という場合は問題とならないケースもありそうです。他方、原曲を極限までピアニスティックに表現したいと思ってアレンジするのであれば、許諾を得るべきでしょう。

取材を終えて

今回は編曲についての話題が主だったけれど、こんなにも編曲をめぐる事情が厄介だということを初めて知った。著作権が切れた昔の作品(パブリック・ドメイン)の楽曲を編曲するならいざ知らず、著作権が生きている楽曲となると、どんな場面においても、許諾なしに編曲をやってはいけない。この基本ルールはぜひ覚えておきたい。

学校教育の内外や部活動での編曲の問題についても、ゼロから話を伺えたが、少しでも現場で音楽教育に携わる方々の役に立てていただければうれしい。

次回は、いよいよ動画や画像のネット上での使用についての問題に入っていくので、ぜひお楽しみに。

(林田直樹)

「エンタテインメント法実務」(骨董通り法律事務所編、弘文堂)

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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