ファンがストーカーに変化してしまったら? 泥沼化を防ぐ対策とは
YouTube、SNS、ブログなどで自由に表現ができるようになった昨今。それに伴い、著作権への関心も高まっています。本連載では、インターネットと音楽についての著作権や関連する法律についての初心者向けの基礎知識を、アート関連のリーガルスペシャリストが集まった骨董通り法律事務所の弁護士・橋本阿友子さんに教えていただきます。
今回は、誰もが発信者になれてしまう時代のストーカー対策について。SNS発信での注意点や、法律的な対処法、被害を未然に防ぐ対策についても教えていただきました。
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
ストーカーにできる法的な対処とは
――いまは“推し”の時代ですし、もともと熱心なファンだった人が、愛情が行き過ぎてストーカーに変化してしまうような話もよくニュースで目にします。クラシック音楽の世界でも水面下でそれに近いことが起きているのではないかと思います。ストーカーの問題についてはいかがですか。
橋本 ストーカーの怖さのひとつは、自分の中では愛情があるのに、なんで分かってもらえないのかというスタンスで、悪いことをしている認識があまりないところにあるのではないでしょうか。
法律上は、警察から、つきまとい等やストーカー行為をはたらかないよう警告を出すことができる。また、加害者が警告を無視した場合などには、都道府県公安委員会といったところが禁止命令といった法的措置を講じることがある。ストーカー行為や禁止命令違反、あるいは刑法上の罪に問われれば、加害者は懲役刑を科されることもありますが、もし仮に刑務所に入れられたとしても、いつかは出てくるのです。
このような法的措置も一時的には効果があります。でも、終極的な解決には向かわないところが、ストーカー事件の恐ろしいところだと思っています。ストーカーは、リサーチ力が高く、被害者を探し当てるのがうまいといった印象があります。
――SNSに上がっている顔写真の瞳に映った風景から、住所をリサーチするようなことがありますね。
橋本 マンションの壁紙とか……。ではそれをどう防ぐかというと、一人で抱えていても解決しないので、法律的な手段を取るとか、少なくとも弁護士がついているということを知らせるとか、そうすることで、収まる場合もあるかと。
――地下アイドルが握手会で刺された事件がありましたが、やはりアーティストはファンと触れ合わなければいけないし、そのときにどうやって身を守るか。
橋本 刺されるといったケースはもちろん警察に通報する事例だと思います。
ストーカーの感情というのは、こんなに自分が尽くしているのになぜ見返りをくれないの?ということなのです。ポイントとしては、ストーカー化したなと思ったときに、泥沼にはまる前に早く手を尽くすことですね。
泥沼になった後は、弁護士や警察が入っても、もう抑えきれないぐらい感情が高まっている。これだけ尽くしたのに何も返してくれないというところまでいくと、警察が動こうが弁護士が動こうが、最悪のケースに発展してしまう可能性もある。
これはすべての法律相談に言えることですが、少しでも危険を察知したタイミングで、早めに警察や弁護士などにご相談なさってください。そうすれば危険を避けられる、あるいは何かが起きても対処が早いということもあると思います。
――危険を感じたら、早めに相談ですね。
橋本 自意識過剰などと思わないで、とにかくご相談いただきたい。少し放置すると、加害者側の感情のレベルが盛り上がってしまうので怖いです。
自分の行動パターンをSNSに書かない
――誰もがSNSでの発信者である以上、バズってインフルエンサーになって、誰かから目を付けられて被害者になってしまう可能性もあり得ますよね。どういうことに注意したらいいのでしょうか。
橋本 基本的なこととして、居場所を掴まれないようにするのは大事ですよね。要するに、SNSにアップするときに、位置情報をオフにするとか、自宅周辺の景色をアップしないとか、自分の行動パターンをあまりSNSに書かないこと。
写真や画像にはいろいろな情報が詰まっていて、住んでいる地域が特定されるケースもあると思います。
――プライべートを切り売りするのも人気のうちという面がありますから、難しいところではありますね。
橋本 行動パターンを毎日変えるとか、同じ場所に行かないとか。ここに行けば会えるのではないか、と推測できるような情報をかかない。それはけっこう基本的で、重要なことですね。
要するに「武装する」というのが大事で、法的にも知識や武器があると、狙われにくいと思うのです。
ひとりでいることの多いプライベートを公にしている人と、頼りになりそうな人が周りにいることを最初からなんとなくアピールしている人と、どちらが狙われやすいか。犯罪者の思考として、狙いやすい人を狙うんじゃないかと。
英字新聞を読んでいたり、女性の場合は歩き方が大股で男っぽいと狙われにくい、という話も聞いたことがあります。
――隙がない印象を与えるということでしょうか。
橋本 女性の場合、自分に知識がある、あるいは力がある、といったことを社会に示すと狙われにくい。力が弱そう、人に主張することもなさそうと思われたとたんに、犯罪を最後まで遂行しやすいと思われてしまうから、狙われる。
厳重な警備がされている家と、窓がぜんぶ開いている家と、どちらの家に泥棒が入るのかと一緒ですね。自分は武装しているから、犯罪を最後まで成し遂げられませんよという態度を示すことが大事だと思います。
言葉の暴力は匿名性を暴くことがポイント
――直接的な暴力でなくても、ネットを介した言葉の暴力に対して、それは違法だと認められるためには、どのような条件があるのですか。
橋本 たとえば、「殺すぞ」という言葉は脅しなんです。「死ね」は勝手に死んでくれという話で、別にその人が何か行動を起こすことを示しているわけではない。ですが、「死ね」を連発すると、名誉棄損などにあたり違法性が認められることがあります。
ただ、とくに名誉棄損については、民事の不法行為と刑事の名誉棄損罪の両方での追及が可能になりますが、刑事については、「殺すぞ」といった直接的な表現でない場合には、警察がその投稿が違法かどうかを判断しにくいといった事情があるようです。
また、投稿者が誰かを特定しないままでは、警察としてもなかなか動けないようです。民事裁判で、裁判所が違法とした判決などがあると、警察も動いてくれるとは思います。
――ネット上でも言葉の暴力はどんどん巧妙になってきているので、「殺すぞ」というような分かりやすいものは、たぶんあまりなくて、グレーゾーンを狙ってくる暴力が多いと思います。そういうものに対してはどうすればいいでしょうか。
橋本 違法だといえる投稿でなければ、本人特定までいきつかないこともありますが、加害者側は、まさか自分が特定されると思っていない。匿名だから、より暴力的になるわけです。特定された時点で、けっこう萎縮します。抑止力としては8割くらい成功と言えるのではないでしょうか。
だからポイントは、匿名性を暴くこと。要するに、自分が誰か分かられては困るというのがあるので、言葉の暴力は、人物の特定までをやると、割と収まるケースが多いと思いますよ。
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