読みもの
2019.02.26
ネットワーク・オーディオ・サーバー「fidata」「Soundgenic」(アイ・オー・データ機器)試聴レポート

検証! オーディオ用のNASに音楽データを保存すると音が良くなる!?

理屈は不明だけれど、音が良くなってしまう魔法のNASがあると聞いて。

NASとはネットワークHDD、つまりネットワークに接続できるハードディスクのこと。ネットで音楽データをダウンロードして聴いているリスナーにはお馴染みかもしれない。で、なんでNASで音が良くなるの? アイ・オー・データ機器が偶然開発に至ったオーディオ用NAS「fidata」「Soundgenic」を試してみた!

視聴した人
小美濃悠太
視聴した人
小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

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とある共演者の門下生から、「ウチの会社の製品に、理屈はわからないけどオーディオの音が良くなるものがある」という話を聞いた。理屈では納得できないけど、その良い音を体験してしまったので認めざるを得ない、オーディオに興味があるならオフィスで試聴してみないか、というのだ。

えーマジっすかー、と話半分に聞きつつもちゃっかり訪問させていただいたのが、株式会社アイ・オー・データ機器の東京オフィス。同社の音楽専用NAS「fidata」そして「Soundgenic」を実際に体験してみようじゃないの、というのが今回の記事の主旨である。

先に結論から言えば、この「fidata」あるいは「Soundgenic」を導入することで、明らかに音は良くなった。しかし、音が良くなる理屈がわからない。わからないが、我が家の総額3万円以下のオーディオに導入してもはっきり音が良くなってしまうのだ。

よくわかんないけど、なんか音が良くて最高だよね」というこのシロモノたちを、我が家の安価なラズパイオーディオシステムに組み込んで使用してみた結果をご紹介したい。

下から2段目がfidata。シンプル極まりないデザインがかっこいい。アンプはLepy、そして最上段にRaspberry Pi(ラズパイオーディオについてはこちらの記事を参照されたし)
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こちらはSoundgenic。fidataのような高級感はないが、こちらもシンプルでスタイリッシュ。

そもそも「fidata」と「Soundgenic」って何?

ダウンロードしたり、CDから取り込んだりした音楽データは、どこに保存するべきだろうか。PCやスマートフォンに音楽データを全部入れようとしても、すぐに容量不足になってしまうだろう。

そんなときに役立つのが、「NAS(ネットワークHDD)」と呼ばれる機器。NASに音楽をまとめて保存しておけば、いろんな機器からアクセスして音楽を再生できるようになるという優れもの。

もちろんNASには音楽以外のデータも保存できるのだが、音楽データの保存、そして再生に特化してつくられたのが「fidata」、そしてfidataのノウハウを注ぎ込んだ廉価版のNASが「Soundgenic」だ。

NASで音が変わるわけがない、のだが…

音楽を高音質で楽しむためには、音楽の信号をできるだけ傷つけずにそのまま再生ことが重要だ。信号をノイズから守ることで、音楽のより微細なニュアンスや空気まで再生することができる。

ものすごく単純化して言ってしまうと、デジタル信号は傷がついても正確に元の状態を再現できることが特徴の一つ。そのため、音楽データを正確に送るのに適している。NASは、音楽データをデジタルのままプレイヤーに送るもの。NASが安価なものでも高級なものでも、プレイヤーに届く音楽データは無傷で届くようにつくられている。

したがって、NASの品質はオーディオの音には関係ないはず。デジタルの仕組みがわかる人にとっては、NASで音が変わるなんてオカルト現象に感じられるだろう。実際、アイ・オー・データのエンジニアの方々もこの現象を初めはまったく信じていなかったのだそう。ド文系の私でもオカルトを感じるし、現役エンジニアの家人も「ちょっと何言ってるのかわからないです」とのコメント。

NASを高音質化するために、部品の動作による振動を抑えたり、ケーブルの接続方法を変えたり、ハードディスクやSSDを(生産ロット単位で)変えたり……と、いろいろな試行錯誤の結果生まれたのが「fidata」、そして「Soundgenic」である。これが、デジタルからアナログに変換され、スピーカーから音が出るまでの間の信号への影響を少なくしているのではないか……ということらしい。

懐疑派であったエンジニアの方々が、こうして音楽専用NASを開発していらっしゃるのだ。こうなると、どうしても自分で試してみたくなる。うーんうーん、興味あるなぁ、家で試してみたいなァ……という顔をしていたら、ご好意で「fidata」と「Soundgenic」をお借りすることができた(本当にありがとうございました)。というわけで、この2つの製品をわが家のオーディオシステムに組み込んでテストしてみることにした。

小美濃家の配線図

聴き比べに使ったのは以下のアルバム。

  • 《ワルツ・フォー・デビー》 / ビル・エヴァンス
  • 《コンパス》 / サイゲンジ
  • 《晴れ》 / アルベルト・カルフ&小美濃悠太 インターナショナルカルテット

エヴァンスのアルバム以外は、自分がレコーディングに参加しているもの。また、聴き比べの直前にレコーディングを行なった、サックス奏者、名雪祥代のニューアルバムのラフミックス音源も比較に使用した。スタジオで録ったものを聴いた印象と、オーディオで聴く印象を比較できるのはミュージシャンの特権である。

わが家のNAS vs Soundgenic

まずは、これまでわが家で使っていた一般用途向けのNASと「Soundgenic」を聴き比べてみた。以前紹介したラズパイオーディオをそのまま使用しているのだが、これは高価なものではない。「Soundgenic」も、同様にハイグレード製品ではない。正直、我が家のNASと「Soundgenic」で差は出ないのではないかと思いながら、比較を始めた。

まずは「Soundgenic」から試聴。ビル・エヴァンスのアルバムは、1曲めの《マイ・フーリッシュ・ハート》の再生が始まった瞬間に、録音された会場の空気がグッと立ち上がる。会場のざわつきを聴いて、まるで自分がその場にいるかのように感じる。初めてこのアルバムのハイレゾ音源を聴いたときはスネアドラムを叩くブラシの繊細さに驚いたのだが、今回はさらにシンバルのリアルさに驚かされた。叩かれたシンバルの揺れまで目に見えるようだ。

続いてサイゲンジの《コンパス》から、タイトル曲《コンパス》。名ピアニスト・林正樹の音色がいつもより際立って聴こえる。魔法のようにバンドサウンドをカラフルにする彼のピアノが、さらに煌めくようだ。また、ボーカルとギター、ウッドベースのユニゾンパートでは、ベースが太くクリアに聴こえる。

名雪の音源は、録音してまだほとんど手を加えていない状態。名雪のサックスの色気、イントロの後に入ってくるベースのゴツッとしたアタック、シンバルの多彩な音色がはっきりと聴き取れる。もうこのままリリースしてもいいのではないか、と思ってしまうほどだ。

さて、続けて同じ音源を我が家のNASで聴いてみた。なんと、再生した瞬間に「Soundgenic」との大きな差が感じられたのである。「Soundgenic」より音圧が感じられるし、低音域の押し出しがあるのだけれど、全体的にモヤッとしている。紙一枚隔てて聴いているような感覚だ。

再び「Soundgenic」に戻って音源を再生してみる。明らかに、「Soundgenic」の方が感動があるのだ。演奏が始まる直前の静寂と、始まった直後から音楽に包まれる感覚。あまりに貧弱な語彙を恥じるばかりだが、「Soundgenic」で聴く音源には心踊るものがある、としか言いようがない。我が家のNASでは、どこか冷めた聴こえ方になってしまった。

Soundgenic vs fidata

さて、続けてアイ・オー・データの音楽用NASの上位機種である「fidata」と、エントリーモデルにあたる「Soundgenic」を比較してみた。

その価格差は何と10倍以上! これで差が感じられなかったら、アイ・オー・データさんに何てコメントしたらいいんだろう……と不安に思っていたのが本音である。しかし、これも全くの杞憂であった。

「fidata」で聴く《ワルツ・フォー・デビー》は、スネアドラムの皮をこするブラシのスピードの変化が、まるで皮から5cmの距離で聴いているようにはっきりわかる。ベースのアタックは「Soundgenic」よりもさらにクリアだし、ミスタッチも聴き取れる。

《晴れ》に収録された拙曲《さくら咲く日に》では、あたたかみのあるシンバルがさらに空間の広がりを感じさせる。シンバルが叩かれた瞬間に、音の粒子が弾けて、やがて霧のように消えていくのが目に見えるよう。

ついつい楽しくなってしまって、比較用音源ではないものも試してみた。昨年発売した拙作《フィクション》 / トライフォニックをCDからリッピングしたものを聴いてみたところ、スタジオのモニターで聴いたときの空気が思い出された。ウッドベースのハーモニクスを弾くときの「プツッ」というアタック、チープなオーディオだと聴き取れないスピード感もはっきり再現されていた。

今からネットワークオーディオを始める方こそ、音楽用NASがオススメ

正直なところ、NASでこんなに音が変わると思っていなかった。「fidata」「Soundgenic」を使うことで、音が立ち上がる瞬間の高揚感がこんなに得られるとは! この聴き比べをしてからは、スマートフォンとイヤフォンで音楽を聴くたびにガッカリしてしまう。薄紙一枚挟んだ向こう側の演奏を聴いているかのように聴こえてしまうのだ。

音楽を聴くのに、CDやレコードではなく、ダウンロード音源などの音楽データを利用するなら、NASの導入をお勧めする。そしてせっかくNASを買うなら、「fidata」や「Soundgenic」のような音楽用のものを選んでおいて間違いはない。「Soundgenic」なら3万円台から購入できるし、思い切って高級なものを揃えるなら「fidata」がその熱意に応えてくれるはずだ。

最後になるが、我が家のスタジオにも正式に「Soundgenic」をお迎えすることになった。以前紹介したラズパイオーディオと組み合わせて音楽を聴くようになってから、スタジオに引きこもっている時間が増えてしまったのは良かったのやら悪かったのやら……。

こんなにコンパクトなのに音楽が120%楽しめるシステム
I-O DATA Soundgenic

HDL-RA2HF
仕様 2.0TB HDD
価格 オープン価格

RAHF-S1
仕様 1.0TB SSD 
価格 オープン価格

I-O DATA fidata(HFAS1シリーズ)

HFAS1-H40
仕様
 4.0TB HDD
標準価格 320,000円

HFAS1-S10
仕様
 1.0TB SSD
標準価格 370,000円

HFAS1-S10/K
仕様
 1.0TB SSD
標準価格 407 ,000円

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小美濃悠太
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小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

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