思い切り歌えない今だからこそ、たくさんのアイデアで「歌心」を育てたい
「感染症対策を講じてもなお感染のリスクが高い学習活動」として示されている、「室内で児童生徒が近距離で行う合唱」。とはいえ、歌唱活動は音楽の授業に必要不可欠。どのような対策を取れば、子どもも大人も安心して歌えるのでしょうか。マスクをしてても、大きな声が出せなくても、たくさんのアイデアで子どもたちの「歌心」を育てようと奮闘する、沖縄県那覇市立仲井真小学校・工藤かや先生の実践をご紹介します。
全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...
子どもたちへのメッセージ
4月、子どもたちのいない運動場に、校長をはじめ教師みんなで歌う『にじ』(新沢としひこ作詞/中川ひろたか作曲)が響き渡りました。子どもたちに「先生たちも同じ気持ちだよ。だから元気出してね!」と伝えるため、それぞれが個別に練習をして、遠くのカメラに向かって、心を込めて歌いました(NHK沖縄放送局の夕方のニュース番組で放送していただき、大きな反響がありました)。
歌の力は偉大です。歌だから伝わるものがあります。歌じゃないと伝えられないものがあります。先生たちの愛情が歌声となって、空を渡って、休校中の子どもたちの心に届いたはずです。
当日の映像を学校のHPに掲載したところ、保護者から「涙があふれた」「感動した」「ありがとう」といった感想が寄せられました。
休校中の「音楽だより」
休校中の子どもたちに向けて、「音楽だより」を作成し、課題を取りに来校する保護者に配布しました。
リコーダーをお掃除しておくことや、教科書のはじめの曲を声に出して読んでみてほしいこと、教師のちょっとした自己紹介も掲載しました。とても小さなことですが、休校中だからこそ、子どもたちの心に音楽が寄り添ってほしいと思い、心を込め、ラブレターを書くような気持ちで作りました。
学校再開に向けて
こんなときだから音楽科の授業改善のチャンス!と捉え、職員会議で「本校の音楽科の基本方針」を提案し、職員全体で共通理解を図りました。具体的な進め方の【例】を提示し、授業のイメージをつかむ勉強会を実施しました。
普段の多忙な毎日の中では、全職員で「音楽の授業」についてじっくり勉強会をすることは難しいですが、まさにピンチはチャンス! 若い先生方の、音楽の授業への向かい方に、少し変化が生じたようです。
また、休校開けには、音楽専科が低学年の全てのクラスに入り、TTで授業を行い、今後の学習の進め方について、共通理解を得ることができました。
環境整備も慎重に行いました。まず、手洗い場・トイレの徹底した清掃・消毒やペンキ塗り、音楽室では、児童が座る椅子を前後1メートル、隣とは0.5メートル空けるようにしました。音楽室が狭いため、メジャーで測った上で、最大限のソーシャルディスタンスを保てるようにしました。
授業では、マスク着用での熱中症リスクを考慮し、児童全員水筒を持参させて、教師の指示で、水分補給の時間を設けています(暑い沖縄では特に、気を付けているところです)。また、エアコン・扇風機を常時稼働させながら、全ての窓を10センチメートル程度開けたままにしています。学級の入れ替え時には、窓を全開にし、教師が消毒を行っています。
こんなときだから深めたい歌詞の世界「ときめきポイント」
マスク着用の場合、ソフトな歌声で歌ったとしても、普段の2倍以上の体力を使います。先述の通り本校のある沖縄は、とても暑いです。そのため、音楽室にも水筒を持参させて、こまめに水分補給をさせています。少し歌って、水筒の冷たい水を飲んで一息ついたら、「ときめきポイント」という活動を行っています。
教科書を開き、歌っている曲の「ときめいた」ところにマークを付けます(本校では❤マークを付けています)。その後、なぜその部分に「ときめいた」のか理由を簡単に書きます。書き終わったら、隣同士伝え合います。
その後、発表をするのですが、「〇〇さんは、〇〇にときめいたそうです。なぜなら〇〇だからだそうです。ぼくはそれを知って〇〇だなと思いました」というふうに、友達の気付きをみんなに伝え、それについて自分が感じたことを自分の言葉で表現し、全体で共有していきます。自分の「ときめき」を紹介してもらった子は、とてもうれしそうな顔をします。
その後、黒板に貼り付けた縦書きの歌詞にみんなの❤を貼り付けていきます。その後、❤がいっぱいの歌詞を見て、体いっぱいに表現しながら、心を込めて優しい声で歌います。みんなの❤がいっぱいの「ときめき時間」が流れていきます。
歌い終わった子どもたちに、どうだったかを聞くと、「❤がいっぱいでいい気持ち」「うれしくなった」「心を込めて歌えた」「マスクをして歌うのは大変だけれど、優しい気持ちで歌ったから気持ちがよくなった」といった声が上がりました。
「エアー歌い」からスタートする「豊かな表情」への道
本来ならば、曲の背景や心情を理解し、歌い深めていく活動は充実感いっぱいで楽しいものです。しかし、それが思うようにできない今、「エアー歌い」と名付けた活動を取り入れてみました。
エアー歌いは、口パクとは違います。心を込めて、表情を豊かに、真剣に「エアーで歌う」活動です。まず、大きな目で、頬骨がピカピカした絵を黒板に描きます(写真参照)。それを目指して、教師の伴奏(またはCD)に合わせ、エアーで歌います。声を出さない熱唱です。
目や眉以外はマスクに隠れていますので、かなり頑張らないと、歌っているようには見えません。そこがポイントです。全体的に遊びのような雰囲気にならないために、曲が始まる前の静けさ、そして歌い終わった後の余韻を大切にします。これを徹底するとメリハリが生まれます。「エアー歌い」を生かして、静けさの中で、歌に向かう姿勢を身に付けましょう!
子どもたちが頑張って(声を出さずに)歌っている様子を見て、「エアー歌い選手権」を企画してみました。各クラスのチャンピオンを音楽室の壁にを張り出すと、そこに名を連ねたのは、普段はちょっと落ち着かないかな、と感じていた子どもたちでした。そこがステキなのです。
マスクが取れたとき、この経験を生かすチャンスです。豊かな表情にエアーではなく、声をつなげていけるように導きたいと心から思う時間になりました。
エアー歌い選手権!
子どもたちが頑張って(声を出さずに)歌っている様子を見て、「エアー歌い選手権」を企画してみました。各クラスのチャンピオンを音楽室の壁にを張り出すと、そこに名を連ねたのは、普段はちょっと落ち着かないかな、と感じていた子どもたちでした。そこがステキなのです。
マスクが取れたとき、この経験を生かすチャンスです。豊かな表情にエアーではなく、声をつなげていけるように導きたいと心から思う時間になりました。
頭のてっぺんに響く「ハミング風」で発声の基礎を磨く
合唱団などで日頃からトレーニングしている子どもたちでも、ハミング「m・n・ng」で響かせることは難しいです。学級でも簡単にできるのは「Lu」から始め、口を軽く閉じた「u」を「ハミング風」にしていく方法ですが、それでもかなりの確率で顎に響いた声になってしまいます。
そこで、頭蓋骨のイラスト(写真参照)を準備し、息を頭のてっぺんに向かって流す練習を行いました。さらに眉を上げて目を開き、頬骨の位置も上に上げて、頭蓋骨の天井が高くなるイメージで、イラストの★の部分に当てていくように意識させます。
教師は透明マスクやフェイスシールドを着用して、顔の見本を示すと分かりやすいです。低音から高音に一気に駆け上がるように「u」を発声します。
例えば、『Believe』(杉本竜一作詞・作曲)の「そばにいて~」の部分を「u」の発声にして、息が頭のてっぺんに駆け上がっていく意識を持たせると、今後の歌唱に生かせるのではないでしょうか。
このように、思い切り歌うことができない今だからこそ、さまざまなアイデアで子どもたちの「歌心」を育て、マスクが取れたとき、学校中をステキな歌声でいっぱいにしましょう!
(7月時点)
——『教育音楽 小学版』2020年9月号特集「ウィズコロナの歌唱指導を探る」より/工藤かや(沖縄県那覇市立仲井真小学校教諭)
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