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2021.10.01
教育音楽アーカイブ

知っておきたい「オンライン授業」での著作権

現在、感染拡大防止の観点から、オンライン授業やハイブリッド授業が注目を集めています。実施にあたっては、授業の進め方や機材も重要ですが、忘れてはならないのが「著作権」。音楽の授業では、教科書だけでなく楽譜や音源、映像などさまざまな教材・資料を使う場面が想定されます。どんな準備や手続き、注意点があるのか、一度確認しておきましょう。

取材協力:(一社)授業目的公衆送信補償金等管理協会 SARTRAS

「教育音楽」編集部
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全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...

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著作権と改正著作権法第35条

音楽などの著作物を創作した人には著作権が、CD音源を制作した人(会社)、演奏する人には著作隣接権という権利が、それぞれ付与され、音楽などは創った人たちの財産であるから勝手に使ってはいけない、ということが著作権法に定められています。通常、音楽などを「使う」ときにはそうした権利者の許諾を得て使わなければなりません。

ですが、著作権法ではこのことと合わせ、許諾を得なくても使える場合も定めています。その中で、教育に係わるものの一つが「引用」です。今まで「引用」として認められていたことは、著作権法改正後もそのまま認められます。「引用」とは、自分の著作物に他人の著作物を利用することですが……

・引用する著作物がすでに公表されている

・正当な理由がある(「研究に必要」「授業で使う」など)

・引用の部分とそれ以外の部分が明確に区別されている

・出所を明示する

など、さまざまな条件に基づいていなければ、「引用」として認められません。詳しくは著作権法第32条を参照してください。これを踏まえた上で、以下が営利を目的としない学校で、権利者の利益を不当に害さない範囲で、先生または生徒が、授業の目的のために必要な限度において権利者の許諾を得ずに著作物を利用できることを定めた改正著作権法第35条の要点となります。

①「学校で」「先生が」子どもたちに「授業をする」とき、無許諾・無償で著作物を複製(手書きで写す、パソコンに打つ、コピーを取る、写真を撮る、録音する……など)することを認める

 

この部分は、今までどおりです。これに加えて、

②「学校で」「先生が」子どもたちに「授業をする」ときは、許諾を得る必要はないがSARTRASに補償金を支払った上で、著作物を放送やインターネットを通じて公衆送信することを認める

こちらが、新しく認められることになった部分です(2020年4月28日施行)。今までは、授業目的であっても、インターネット等を通じて著作物を公衆送信する場合は許諾が必要でした。

これまでも学校の「イントラネット」を用いてパソコンやタブレットで、楽譜や本のデータをやり取りしていた先生方も多いハズ……

これは、今まで通り問題ありません。紛らわしいですが、学校内や会社内の人など特定の人しか入れない/閲覧できない「イントラネット」は、「インターネット」とは別のものです。校内放送のように学校の同一の敷地内に設置されている放送設備や、サーバー(学校外からアクセスできるものは不可)を用いて行われる校内でのやり取りは、公衆送信行為には当たらないため、引き続き許諾を得なくてもできます。

今回新しく認められたのは、例えば「教科書の楽譜を使った授業の様子を録画して、別の日に生徒が授業として見られるようクラウドサーバにアップする」、「宿題を生徒にメールで送る」といった、先生が授業のために著作物を公衆送信する場合も、所定の手続きを経た上で、注意点を守ればOKということです。代表的な注意点については、後の解説をご覧ください。

音楽室で子どもたちを目の前にして行っていた今までの授業でも、上記のような「イントラネット」の仕組みの中で、教科書をスクリーンに大きく映して見せたり、合唱の伴奏を自ら弾いて録音したCDを使ったり、プリントに記事の切り抜きを載せることは、多かったのではないでしょうか。それが、「授業の様子をインターネット中継で配信」(スタジオ型の同時一方向の遠隔授業)、「授業を録画した動画を配信」(異時で行われる遠隔授業)、「自演の練習音源をアップする」(予習・復習のための著作物の送信)といった状況においても可能になります。

「補償金制度」や「SARTRAS」とは、一体?

前述のように、音楽室で子どもたちを目の前にした授業で、著作物をコピー・配布するときは、従来から権利者の許諾は必要ありませんでした。

一方で、インターネットを使って送信する場合には、個別に許諾を得る必要がありました。そのため、「インターネットに載せるのはちょっと……」と断られるケースや、作者本人がすでに亡くなっていて権利を引き継いだのが誰なのか分からないケースもありました。さらに、そもそも「権利者を探して申請する」ということ自体に、多くの手間や時間が掛かることも問題でした。

この問題を解決するためにできたのが「授業目的公衆送信補償金制度」です。学校設置者(教育委員会等)が文化庁の指定管理団体に一括して補償金を支払うことで、個別の許諾を得なくても国内外のさまざまな著作物を利用できる制度です。そして、その「文化庁の指定管理団体」がSARTRASです。つまり、教育委員会等がSARTRASへ手続きを済ませて補償金を支払っていれば、

・予習/復習/自宅学習用の教材をメールで送信する

・インターネットでの授業で、映像等を子どもたちに見せる

といったとき、先生方からの許諾申請や利用料の支払いは必要ありません。全国各地の教育委員会等から預けられた補償金を、SARTRASが分配して権利者に使用料を支払います。SARTRASへの登録や支払いは、学校設置者(教育委員会等)が一括して行いますので、先生個人の登録や支払いは不要です。

注意点

権利者の利益を不当に害してはいけません。子どもたちが買うことを想定して販売されているもの――例えば、ドリル、ワークブック、資料集や合唱曲集といった著作物をそのまま送信するなど、実物の売れ行きが落ちるかもしれないと判断される場合や、これから売れる可能性を邪魔してしまうような場合には、これまで同様、個別に許諾が必要です。この原則にのっとり、具体的には以下のような注意点が挙げられます。

 

  • コピー/送信する数は、授業を受ける人数まで

著作権法が改正される以前から、楽譜をコピーする際などには「必要な人数分だけ」が原則でしたが、インターネットで送信する場合には、さらに工夫が必要です。学校のサイトであっても「学校だより」「行事予定」などと同じページにアップしてしまったりすると、世界中の人が誰でも閲覧できる状態になってしまいます。これはNGです。YouTubeを例に取れば、動画のURLを知っている子どもたちしかアクセスできない「限定公開」の設定にするなどが考えられるでしょう。

 

  • 送信は学校のパソコンから

放送やインターネットで送信することが新しい制度の下で認められているのは、「学校で先生が子どもたちに対して授業をするとき」とされています。そのため、原則として学校のパソコンを用いて送受信しましょう。

 

  • 紙でもデータでも、「必要と認められる限度」の利用であること

「授業のために必要」かどうかがポイントです。これは授業の内容や進め方等によって異なるため、個々の授業の実態に応じて「授業のために必要」であると説明できるか、先生に判断いただく必要があります。これらのほか、本や楽譜を丸ごと掲載したり、毎回の授業で1節(1楽章)ずつ取り出して紹介していたら結果的にほぼ全部を掲載していたり……ということがあってはいけません。ただし、一部分の利用だと著作者の意図に反してしまうような場合(俳句や詩の一節だけ、新聞記事の一文だけ、絵画の一部分の拡大だけ、など)には、全部の利用が認められることもあります。

Q&A

オンライン授業をつくるとき、本、楽譜、教科書などを映してもよいですか?

同時生中継をする場合でも、授業の動画をアップする場合でもOKです。教科書を映す場合は、掲載されている楽譜・イラスト・写真等も含め、映してもOKです。ただし、「注意点」は守ってください。制度に該当しない利用は個別の権利者の許諾が必要となります。制度に該当する利用であれば、補償金に関しては、教育委員会等からSARTRASへの登録や支払いが必要です。

曲を自分で演奏した録音を、送信して子どもたちに聴かせてもよいですか?

授業のために先生が演奏することそれ自体はOKです。その様子を公衆送信する場合、同時生中継をする場合でも、動画の場合でもOKです。教科書の曲でも、それ以外の曲でも利用できます。録音だけでなく、授業で教師や子どもたちが演奏する場合も問題ありません。ただし、「注意点」は守ってください。制度に該当しない利用は個別の権利者の許諾が必要となります。制度に該当する利用であれば、補償金に関しては、教育委員会等からSARTRASへの登録手続き・支払いが必要です。

CD音源を、送信して子どもたちに聴かせてもよいですか?

自演した音源ならば前項のとおり問題ありません。CD音源には作詞者、作曲者、演奏者等に対する「著作権」の他にも、レコード会社や教科書会社等の「著作隣接権」があります。この「著作隣接権」についても補償金制度の対象となりますので、「注意点」を守って使ってください。制度に該当する利用であれば、補償金に関しては、教育委員会等からSARTRASへの登録や支払いが必要です。

本、楽譜、教科書などを含んだプリントやワークシートをネットで配ってもよいですか?

プリントやワークシートのように記入式のものは、それらを配付すると実物の売れ行きが落ちるかもしれないと判断される場合や、これから売れる可能性を邪魔してしまうような場合に当たるおそれが高いため、これまで同様、個別に許諾を得てください。

合唱部や吹奏楽部の個人練習や予習のために、楽譜や音源を送信してもよいですか?

OKです。小・中・高の特別活動(学級活動・ホームルーム活動、クラブ活動、児童・生徒会活動、学校行事、その他)や部活動、課外補習授業等は「授業」の範囲内とされています。また、その予習や復習も「授業の過程」に含まれますので、問題ありません。ただし、「注意点」は守ってください。特に楽譜やCD音源は、1冊、1枚を購入して部員らに配付する行為は実物の売れ行きが落ちるかもしれないと判断される場合や、これから売れる可能性を邪魔してしまうような場合に直結します。これら制度に該当しない利用は個別の権利者の許諾が必要となります。制度に該当する利用であれば、補償金に関しては、教育委員会等からSARTRASへの登録手続き・支払いが必要です。

——『教育音楽』2020年7月号特集「学びを止めるな!オンライン授業・著作権・コンテンツ」より

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