音楽を深読みするとストーリーがひと味違って見える!? 音楽から読み解く『ラ・ラ・ランド』
2016年度のアカデミー賞で『タイタニック』に並ぶ、最多の14ノミネートを果たし、日本でも大ヒットを記録したミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』。その音楽を改めて丁寧に読み解いていくと、どんなことが見えてくるのだろうか。
東京音楽大学の作曲専攻を卒業後、同大学院の音楽学研究領域を修了(研究テーマは、マイルス・デイヴィス)。これまでに作曲を池辺晋一郎氏などに師事している。現在は、和洋女子...
2016年度のアカデミー賞で『タイタニック』に並ぶ、最多の14ノミネートを果たし、日本でも大ヒットを記録したミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』。昨年夏からDVD&Blu-rayが発売、秋頃からはシネマ・コンサートが開かれるようになり、この4月30日には東京国際フォーラムで開催される。
これまでにもさまざまな評論家やライターから賛否両論の意見が語られてきた本作だが、これだけ音楽が中心にある映画にしては、意外にも、充分に音楽面から読み解かれてきたとは言いがたい。『ラ・ラ・ランド』の音楽を改めて丁寧に読み解いていくと、どんなことが見えてくるのだろうか。
物語を読み解く鍵は、冒頭の「アナザー・デイ・オブ・サン」にあり!
『ラ・ラ・ランド』を代表する1曲として多くの人々が挙げる、映画冒頭の渋滞シーンで踊り歌われる楽曲《アナザー・デイ・オブ・サン》。この曲名は「新しい日!」「新しい太陽が昇る」などと訳されるが、ここでの「サン(太陽)」とは栄光の象徴である。
つまり、夢追い人であるふたりの主人公は、「サン(≒栄光)」を手にする「アナザー・デイ(≒いつか)」を夢みているから、劇中、四苦八苦を繰り返す。まさに『ラ・ラ・ランド』を象徴する曲名でもあるのだ。
そして映画を観終わったあとであれば、この曲の歌詞がその後の展開を予見する内容になっていることに、多くの人が気づくであろう。でも実は言葉だけでなく、音楽そのものもその後の物語を予見するつくりとなっている。
まずは歌がはじまる前のイントロに注目してみよう。イントロの前半は響きが少し暗くなる「ネガティブなコード進行」(専門用語でいえば「偽終止」/コードではB♭7→Cm)、イントロの後半は少し明るい響きとなる「ポジティブなコード進行」(専門用語でいえば「完全終止」/コードではB♭7→E♭)となっている。
誤解のないように言っておくならば、これらの進行は一切特別なものではない。しかしながらネガティブとポジティブ、正反対の性格によるこれら2つの進行が、各場面の音楽のなかでどのように使われているかによって、主人公のセブとミアにとってどんな意味をもつ場面であるかが描かれているのだ。わかりやすい場面をピックアップしつつ、具体的にみていこう。
愛は、ひたすらポジティブに
ミアとセブがバーで再会するきっかけとなったのが《ミアとセバスチャンのテーマ》という三拍子のワルツだ。実は、この曲には元ネタがある。『ラ・ラ・ランド』に多大な影響を与えた映画のひとつ、ジャック・ドゥミ監督の『ロシュフォールの恋人たち』で歌われる《シモンの歌(イヴォンヌの歌)》である。元ネタの歌詞の内容は「別れてしまった恋人を思い出す」というもの。つまり《ミアとセバスチャンのテーマ》には歌詞がなくとも、どのような意味をもつ音楽であるかは明らかなのだ。
ピアノソロゆえに淋しげなサウンドに聴こえるが、意外にも「ポジティブなコード進行」が中心である。なぜかといえば、この曲は後に編曲されて、ふたりの愛が成就する《プラネタリウム》という楽曲に姿を変えるからなのだ。そして、ふたりの心が一気に接近するタップダンス・シーンで流れる《ア・ラブリー・ナイト》でも「ポジティブなコード進行」ばかりが繰り返される。愛はひたすらにポジティブなものとして描かれているわけだ。
歌詞のないBGMが物語るもの、そしてネガティブな成功
グリフィス天文台の《プラネタリウム》でふたりはついに結ばれる。ロマンティックの極致で締めくくったあと、季節が夏に転じると映画も後半戦へと突入する。しばらくはセリフや歌なしで主人公ふたりの恋愛がどれほど幸せなものかを描いていくのだが、ここで使われているBGMは、既成楽曲を除けば映画内の主要楽曲をアレンジメントしたものばかり。どの楽曲がどのシーンに当てられているか考えるのも読み解くヒントとなる。
なかでも興味深いのは、ジョン・レジェンド扮するキースが登場し、主人公セブをバンドに勧誘するシーン。この背景でジャズバンドが演奏しているのは《アナザー・デイ・オブ・サン》のジャズ・アレンジなのだ。ここからが第2のオープニングであり、セブの人生に転機が訪れることを示す仕掛けである。
キースのバンドに加入し、ステージで輝くセブの晴れ姿を観にきたはずのミアが聴く「スタート・ア・ファイア」は「ネガティブなコード進行」ばかりで構成されている。ノリの良い曲調からすると意外に思われるかもしれないが、外面的な盛り上がりとは裏腹にセブが当初の夢を見失いつつあることが音楽によって描かれているというわけだ。
音楽で物語を総括する
5年の歳月を経て、完全にそれぞれの道を歩みだしたふたりが久々の再会を果たした場面でセブが演奏し始めた場面の音楽は、サウンドトラックでは《エピローグ》という題名になっている。物語を総括するに相応しいメドレーで、《ミアとセバスチャンのテーマ》にはじまり、《プラネタリウム》→《アナザー・デイ・オブ・サン》→《オーディション》(途中からジャズアレンジへ)→《プラネタリウム》→《シティ・オブ・スターズ》と来て、最後は再び現実世界の《ミアとセバスチャンのテーマ》に戻ってくる。
ところがここで問題となるのが、ここでの《ミアとセバスチャンのテーマ》だ。セブは右手でメロディだけを弾いており、左手でコードを付けていないので「ポジティブなコード進行」なのか「ネガティブなコード進行」なのか、わざと判然としない作りにしているのだ。まだこの時点では、ふたりの運命がどう転ぶかわからなくするための演出であろう。
ふたりの進む先が明らかになるのは、わずか45秒ほどの《ジ・エンド》という楽曲において。ミアと一瞬見つめ合うセブ。そのとき、先ほどまでピアノの単音で弾かれていた旋律が、今度は木管楽器によりコードも付いた状態で奏でられていく。
実はこの場面、映画前半を締めくくった《プラネタリウム》の最後の部分の変奏にもなっているので、ここが後半の締めくくりであることも示している。ところが愛が成就した《プラネタリウム》と違って、《ジ・エンド》ではミアが帰る素振りをみせている場面であることに対応して、明らかに短調の響きで先行きは暗い。
しかし最後の最後で、笑顔になり、頷き合うふたり。ミアは去ってしまうが、なんと音楽は徐々に明るくなってゆく。ここで音楽に何が起きているかというと、《アナザー・デイ・オブ・サン》で示された「ポジティブなコード進行」でも「ネガティブなコード進行」でもない、別の進行をみせるのだ(一応、専門的に説明しておくと、イ短調と思わせておいて、突如ハ長調になりコードがG7からA♭へと進行する)。
こうすることで、それまでとは違う結論へとたどり着いたことを暗示しつつ、最後には《プラネタリウム》と同じくハ長調の輝かしい「ドミソ」の和音が鳴り響く。このエンディングが決してネガティブなものではなく、ポジティブなハッピーエンドであることを示すかのように。
映画『ラ・ラ・ランド』の音楽はキャッチーでこそあれ、シンプルな作りなのであまり音楽的な面白みがないと批判する人々もいた。しかしながら実際のところ、オペラや交響曲のような緻密な構成をもっている作品なのだ。既に何度か観ているという方でもこの記事をヒントにすれば、音楽に注目(注耳?)することで『ラ・ラ・ランド』をこれまで以上に楽しんでいただけるはずである。
日時: 2018年4月30日(月・振休)
17:30 開場 / 18:30 開演
会場: 東京国際フォーラムA
料金: S席 ¥9,800(税込) / ¥9,075(税抜)
A席 ¥7,800(税込) / ¥7,223(税抜)
S席(前方席) ¥9,800(税込) / ¥9,075(税抜)
出演者: 指揮:エリック・オクスナー
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
*映画キャスト・シンガーは出演しません
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