平井千絵の 「昔のピアノと暮らしています」 第2回

のろけます! 素敵なパートナーに巡り合って世界で一番幸せな私。

読みもの
2018.10.26

フォルテピアノの側でハタキを持った写真が話題をさらった平井千絵さんの連載2回目は、フォルテピアノとの出会い、紆余曲折、そして恋に落ちるまでをご紹介いたします。

途中からフォルテピアノが「彼」に変わるころには少女マンガさながら、平井さんの愛が爆発しております。平井さんがこんなに夢中な「彼」の「声」、聴いてみたくなること間違いなしです!

平井千絵 フォルテピアノ奏者
平井千絵
平井千絵 フォルテピアノ奏者
桐朋学園大学ピアノ科卒業後、オランダ王立音楽院修士課程を首席卒業。ブルージュ国際古楽コンクール等、国内外のコンクールに多数入賞。ウィーン・コンツェルトハウスでの演奏は...

こんにちは!

前回に引き続きお越しいただき、ありがとうございます。

想像していたよりたくさんの反応をいただき、ほんとうに嬉しいです。

さてさて、8月はヘールフィンク・フォルテピアノ・フェティバル@オランダに参加していました。

コンサート会場では現地の音楽家たちとの出会い&懐かしい再会があり、(第1回ショパンピリオド楽器コンクールで堂々2位入賞された川口成彦くんもそのひとり!)新しい発見と喜びでいっぱいの12日間でした。

理想を追う日々、そして彼との出会い

はい、本題に戻ります。

なぜに時代に逆行してわざわざ、たいへんに手のかかる昔のピアノを弾くんだ? って、思われたであろう皆様へのご回答でございますが。

簡単に言うと、一目惚れ(一聴ボレ)したから。です。
もう少し説明すると、求めていた存在に出会ってしまったから。そしていまだに、完全にin loveです♪ここで、馴れ初めをお披露目したいと思います!(韻踏んじゃった!)

それまでの自分は、モーツァルトが大嫌いでした。
聴くのは大好きなのに、弾くのが大嫌い。楽しくないのです。目の前にある楽譜から想像できる音楽と、自分が出した世界のギャップに混乱して苦しいのです。こんなはずじゃない、わたしが聴きたいのはこの質感じゃない、でも見えてこない、聴こえてこない、わかんない、あ゛〜〜〜っっ(以下省略)

ヨハン・ネポムク・ デラ・クローチェ作「モーツァルト家」

好きで表現したいのにうまく表せない、というフラストレーションの塊で、自分にはできないと諦めていました。
そんな思いを抱きつつ音楽高校生活が始まり、学生券でいろいろなコンサートに足を運びました。なにかに出会うことを期待し、探していたのです。

そのうち、フォルテピアノのコンサートを聴くチャンスも何度かありましたが、ホール全体を鳴らしきって説得するような男性的なスタイルに憧れていた当時の自分には、軽やかで楽しそうで、しかめっつらしいところがまったくなく、“努力感”がんばり感”がまったくない世界観に完全に拍子抜け。

しかし、繊細なデザインの美しい楽器を、それは楽しそうに、猫がじゃれるように演奏するメルヴィン・タンさんの演奏スタイルに出会ったときのこと。舞台から一番遠い学生席で、ふーんこれがベートーヴェン?? と偉そうに斜に構えつつも、実は内心、衝撃を受けていました。同時に、あまりに違う世界に怯えてもいたと思います。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ~ 3.ロンド(アレグロ・スケルツァンド)
メルヴィン・タン(フォルテピアノ) ロジャー・ノリントン指揮 ロンドンクラシカルプレイヤーズ

そうこうするうちに、開拓精神を携えた挑戦的でカッコイイ先輩たちに次々と出会います。既存の考え方、解釈、伝統や風習といったものを鵜呑みにせず、これって本物か!?  と真実を求めて食らいついていくエネルギー全開の、奏者たちに。
「古くさくて小難しい昔の楽器」へのわたしの先入観は、エッジの効いた解釈とキビキビした演奏、ちょっと楽器がヘソを曲げても、さっと対応してしまう先輩たちの柔軟な適応力を前に、即滅したのでした。

なにこれ。
なに、このひとたち。カッコイイ。

そしていつしか、その輪のなかにわたしも入りたい! と、一聴衆として憧れるようになり、数年間の迫っかけを経て、とうとう、恐る恐る、触れてみることに。

そして。

一瞬で、稲妻に打たれ、悟ってしまったのです。
この人しかいない!! この人を、この人の周りの世界を、すべて知りたい!! この世界を見ないことには自分は一生後悔するぞと。
そして小島芳子師匠に弟子入りし、彼女に後押しされてオランダに留学し、フォルテピアノと生活をともにすることになりました。

このひとしかいない! と思える存在と巡り合えたのは、ほんとうに大きなギフトでした。どんなところに惹かれたのか、この機会に感謝をこめてパートナーの魅力を再確認してみました。ラブ。……あ、楽器の話、フォルテピアノね。

彼が大好きな3つの理由

1.声

大好きな声。つまり音色。飾らない、作らない、でも魅力的で、いい声。かすれ声も甘ったれた声も、この声をずっと聞いていたい、この声でしゃべっていたい、そういう気持ちになります。

弦を打つ瞬間の音も好き。コロン、とかコン、とか、硬いマレットで打ったマリンバみたいな。伸びている最中の音も好き。いろいろな形の伸び方が神秘的。消えたときの残像感もいい。ろうそくをふーっとゆっくり揺らすようにタッチすると、大きくしなってゆらりとする。単音ではなくて和音にして音の形を追うと、一直線に射抜かれるようなシャープな音から、世界全体に抱っこされるような柔らかくて懐の深い音の伸びを感じることもできる。指から肘に振動が伝わって、細胞のすみずみまで心地よく染めてくれる音。5ミリしかない浅い鍵盤に触れれば、たちまち指が喜んで、感謝の気持ちが溢れ出す。

2.モーツァルトってイイね! と初めて弾いて思えた

声がいいだけでなく、おしゃべり上手! 滑舌がいいし、身のこなしが軽くてすばしっこいから、エンターテイナー! そんな彼が(いつの間にか彼になってるよ)時折見せる、しっとりしたイケメンぶり(美声ぶりね)。これってモーツァルトの音楽そのものではないですか!? 陽と隠、光と陰、デビルとエンジェル、このコントラスト! 心の奥まで入り込んでくる声で語られるし演じられるから、より生(なま)でリアルなドラマ。歌や弦楽器との密着感も抜群だから、血の通ったモーツァルトを思いっきり実感します。

モーツァルト: ピアノソナタ 第7番 KV.309 ~ 1.アレグロ・コン・スピリート
平井千絵(フォルテピアノ)

3.未知の世界への予感

実はこれ、20年近く連れ添って来た彼に対する最近の発見なんです。

フォルテピアノは現代ピアノのご先祖さまで、約150〜250年以上前のひとびとがデフォルトのピアノとして使っていたもので、当然のことながら、使われていた当時の音楽を奏でると、最高に素晴らしい効果を発揮します。たとえば、現代で二流とみなされている作曲家の作品が途端に色気をもって輝き出すのは最高に楽しいです。
でもそれだけではないことに、遅ればせながら気づきました。今生きている、現代の作曲家や、本来ならフォルテピアノを知らなかったはずの作曲家(たとえば私が愛してやまないセヴラックとか)の作品との相性も、なかなかのものなんです。少し前までは、セヴラックやモンポウを18世紀のフォルテピアノで演奏するなんて、邪道じゃない? と思っていましたが、いいならいいじゃない、というスタンスに変わりました。
自分の思い込みや既成概念を柔らかくして、未知なる世界を眼前に広げてくれる……最高に素敵なパートナーではないですか! ほんとうに自分は世界一幸せで恵まれています!←楽器のことね。

彼となら子どものように笑顔でいられる

馬車がいちばん速い乗り物だった頃。
キャンドルに照らされたサロンで、
人々のため息がどよめきとなって、
モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトといった
フォルテピアニストを取り囲んでいた……
そんな時代に活躍していたフォルテピアノとの暮らし。
いいでしょ?
まるでおとぎ話のよう!
前回お話しためんどくさいことだって、帳消しにしたくなるでしょ?

……と、話す側から、最近おろそかにしていたワルターくんの調律・調整がヤヴァビッシモなことに気づく……

軽々と鍵盤を引き出して、調整をはじめる平井さん。モダンピアノじゃこうはいかない!

尊敬するホッホランド師匠は、「音楽家の素晴らしいところは、子どもみたいに心を遊ばせられるってことだとおもうんだ。」と子どものような笑顔で仰っていました。

フォルテピアノを通して、新しい愉しみに出会いたいし、そういう出会いを提供できる存在でありたいって思っています。

いつのまにやら気難しくなりがちなお年頃に突入しつつありますが、子どものように人生と音楽を楽しみたいと思います!

平井千絵さん出演情報
平井千絵 フォルテピアノ&クラヴィコードコンサート in 池上實相寺 vol.1

日時: 10月28日( 日)17時 池上實相寺(大田区池上)
料金: 3,000円(自由席、懇親会参加の方は別途4,000円)
問い合わせ: ムジカキアラ 
03-6431-8186(平日10時から18時まで) info@musicachiara.com 

みのりの眼 info@minorinome.com

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