読みもの
2019.11.05
大人のピアノ、本気で再開 Vol.2

SNSでピアノ演奏! 指のもつれた「かっ飛ばし演奏」のほうが「いいね」が多い?

子どもの頃に習っていたピアノを大人になって再開。思うように練習時間を取れない、指が動かない……などさまざまなハードルがある大人のピアノ。楽しみながら上達するにはどうしたら? 音楽ライターの山本美芽さんが綴る「大人のピアノ、本気で再開」ストーリー。連載第2回は、SNSを通じて世界とつながる方法について。

ナビゲーター
山本美芽
ナビゲーター
山本美芽 音楽ライター

ピアノ教育とジャズ・フュージョンを軸に執筆。ピアノ教本研究家として全国で講演を行う。著書「練習しない子のためのピアノレッスン」「ピアノ教本ガイドブック」(音楽之友社)...

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ミスがあっても気持ちがあれば伝わる

16分音符が続くバッハのハ短調プレリュード。ゆっくりから少しずつテンポをあげてだんだん速くしていくのが上達への早道なのはわかっている。
 
だけどある日、私は、チマチマと遅く弾くのが嫌になった。
ぶっ飛ばしてロックに弾きたくなった。最初はいいのだけれど、だんだん指がもつれてくる……うまく弾けないけど、それでもいい。

弾きたいテンポ。猛スピードで弾いた「ぶっ飛ばしプレリュード」をInstragramとfacebookにあげたところ、普段全然コメントなんていただかないのに、「カッコいい」「グルーヴ感がある」などのコメントをいただいた。ミスのないきちんと落ち着いたテンポでの演奏にはなんの反応もなかったのに。

後日、ゆっくり弾いた演奏。悪くないけど面白くはないかも。あくまでこれは練習。

きちんと弾いたものより、ミスがあっても面白い演奏のほうが、伝わる。
これまでプロミュージシャンに20年以上インタビューの仕事をしてきて、「うまく弾こうとした演奏ってつまらない」という話はたくさん聞いて、そういうものだと知ってはいたけれど、まさにそれをインスタグラムで初めて経験した。

SNSに練習動画をアップ

練習を動画に録り始めてから、InstagramとFacebookとYoutubeに演奏動画を上げている。
 
Facebookの演奏動画は、知り合いへの「弾くのがマイブームなんです」という近況報告という感じ。
ところがInstagramに投稿していると、海外の見知らぬ人からどんどん「いいね」やら時々コメントもつく。

#pianist など、英語でのタグをつけ始めたら海外のインスタグラマーが見てくれるようになった
 
いったいどんな人なのか見に行くと、プロかアマチュアかわからないけれど何か楽器をやっていて毎日自分の動画を投稿している人が多い。まったく見知らぬ海外の人と弾いた曲が「好き」という思いだけでつながれる。この感覚は面白い。こうなってくると、確かにミスがないだけのきちんとしただけの演奏じゃ全然面白くないというのが実感できる。

まずは「いいね」しかつかないInstagramとFacebookから

演奏動画をアップしてみたいけれど、勇気がないという声も聞く。

私は、最初は、毎日記録のために録った動画を誰かに見てもらいたいなぁと素朴に思った。子どもの頃、はじめてつくった目玉焼きを「お母さん見て見て! できた!」と叫んでみて母に見てもらいたかったのと同じような感覚。「へぇー」と見てもらいたいのだ。それは「表現したい」ということだったのかもしれない。曲を表現する以前に、ピアノを弾く面白さを再発見した、その驚きを表現したかった。

それから、たくさんのアマチュアピアノ弾きの方々が、堂々と演奏をアップしている姿も刺激になった。プロはだしの上手い人だけがアップしているのかと思いきや、たどたどしくても練習途中でも、熱い想いでどんどん動画を上げ続けている方の何と多いことか。私も、このテンションに負けたくないと、思ってしまった。参戦しなきゃ。ここに混じりたい。

下手なのに図々しいとか言われたら、見苦しいと言われたら? 不安はあった。でもこれまで嫌な思いは一度もしていない。Youtubeに動画を上げて「よくないね」がつくと、ちょっとへこむ。でもプロでも「よくないね」をつけられているのだからあまり気にしなくてもいいとは思う。
インスタやFacebookには「いいね」だけで「よくないね」は存在しないから気は楽だ。最近ではインスタやフェイスブックには短く切り取った動画を日々上げて、反応がよかったものをときどきフルサイズでYoutubeに上げている。

Instagramは動画が1分までという制限があるので、曲のなかでカッコよく撮れた部分を1分切り出す。反応はあったりなかったり。アングルも普段は横からなのだけれど、スタンドにスマホをセットして真上から撮ったときは反応があった。

手のアップにするのか顔も入れちゃうのかも悩むところなのだけれど、どっちがいいというものでもなく、インパクトを狙うなら顔入り、音楽に集中したいなら手のアップ。何を伝えたいのか日々考えるのが面白い。

鍵盤の上から撮ってみたら反応が。でもセッティングに時間がかかるので普段はしていない

こうなると練習するときに、インスタを意識して撮るようになってくる。新しい曲を譜読みしたり練習するときは、1分ぐらいの長さで区切り、そこを30分とか1時間で仕上げて、「今日はこれを練習しました」とインスタに投稿する。これを続けていくと着実に譜読みが進んでいく。やみくもに最初から最後まで通すよりも速く仕上がるのでお勧め。

突貫工事で、レ・フレールの「Boogie Back to YOKOSUKA」を譜読みしたとき、毎日譜読みした部分を撮ってインスタに投稿。私にしてはずいぶん速く半月ほどで1曲通せるようになった。

初日

だいぶ通せてきた

関西に行って、アンサンブル

最近は私が演奏している曲を聴いて「これカッコいいから私も弾いてみる」といって練習をはじめ、動画を上げてくれる知人も出てきた。当然ながら、友人の演奏を聞くと「あ、ここはこう弾いてもいいな」などの気づきがあり、「あそこ難しいけど攻略どうしてる」とやりとりしたり、毎日楽しい。

かつてピアノの練習は孤独なものだった。でも今はそうじゃない。動画をアップしていれば全然孤独じゃない。自分のピアノで世界中とつながれる。

大人のピアノ再開! TIPS 動画を撮ってSNSにアップ

・ミスがあっても気持ちが入っていれば伝わる。練習動画をスマホで撮影してSNSにアップしよう
・Instagramに投稿できる動画は1分。新しい曲を練習するときは1分程度で区切り、時間を決めて仕上げて、投稿!
・好きな曲の演奏に#piano #pianistなどのハッシュタグをつけて、世界中の人とつながろう

ナビゲーター
山本美芽
ナビゲーター
山本美芽 音楽ライター

ピアノ教育とジャズ・フュージョンを軸に執筆。ピアノ教本研究家として全国で講演を行う。著書「練習しない子のためのピアノレッスン」「ピアノ教本ガイドブック」(音楽之友社)...

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