ポーランドのイベントが目白押しの2019年秋~国立民族合唱舞踊団「シロンスク」ツアーと「ショパンーー200年の肖像」展
1919年、第一次世界大戦後に念願の独立を果たしたポーランド。このときの首相兼外務大臣はピアニストとしても知られたイグナツィ・パデレフスキ(1860~1941)だ。この政権を日本が認め、国交を樹立してから今年で100年になる。この記念すべきメモリアル・イヤーに、改めてポーランドの文化やその魅力に思いをめぐらせてみよう。
前編では、ポーランドの風景とともにポーランド映画の世界をご紹介。後編では、ともに10月から始まる注目イベント、ポーランド国立民族合唱舞踊団「シロンスク」来日ツアーと、同じく「ショパンーー200年の肖像」展について。
そして、民謡から始まった音楽の旅は、クラシックからジャズ、ロック・ブルースの世界へ!
編集プロダクションで機関誌・広報誌等の企画・編集・ライティングを経てフリーに。 四十の手習いでギターを始め、5 年が経過。七十でのデビュー(?)を目指し猛特訓中。年に...
日本で楽しむショパン展と国立民族合唱舞踊団「シロンスク」
先月、ポーランド広報文化センターによるプレス発表会でいただいた、ポーランドの朝ごはん。スクランブルエッグにトマトが入っていたのがうれしかった。ラツーシュキというパンケーキにはリンゴが入っていて、ソーセージは口の中で肉のうま味がじわっと広がっていく。素朴な中に一日ぶんの幸せがギュッと詰まっているようで、心が温かくなってくる。
さて、ポーランドと日本の国交樹立100年を記念して、すでにさまざまなイベントやコンサートが開催されているが、今年の後半も注目の催しが目白押しだ。
まず、ポーランド国立民族合唱舞踊団「シロンスク」の来日公演が、10月から11月にかけて行なわれる。『COLD WAR あの歌、2つの心』に出てくる「マズレク」のモデルとなった「マゾフシェ」と双璧をなす合唱舞踊団だ。「マゾフシェ」はポーランドの中央から少し東に寄ったところに位置し、ワルシャワもこの地方に属している。そして何よりショパンを生んだ地として有名だ。対して、シロンスクはポーランドの南部にあって、チェコ、スロバキアと接する奥深い地域だ。
「シロンスク」の特徴は、美しい民族衣装が映える踊りもさることながら、歌・合唱にも力を入れている点。美しく透き通った合唱団の歌声は必聴だ。ポーランドの伝統音楽とダンスを第一級のエンターテインメントまで昇華させたステージを、遠くポーランドに思いを馳せながら心ゆくまで楽しみたい。
会期 2019年10月19日(土)~11月20日(水)
公式サイト https://www.min-on.or.jp/special/2019/slask/index.html
ショパンを育んだポーランドに思いをはせる
そして、ショパンやピアノ音楽のファンにとって楽しみでならないのが、10月から全国を巡回する「ショパン――200年の肖像」展だろう。「エチュード ヘ長調 作品10の8」をはじめ、日本では初公開となる自筆譜や手紙、肖像画など250点が展示される。ショパンその人のみならず、当時のワルシャワやパリなど、彼とその音楽を育んだ背景を知ることができるのもポイントだ。
来年にはショパン国際ピアノコンクールが開催されることもあり、ショパンとその周辺の話題で盛りあがるのは必至。本展ではコンサートをはじめ関連イベントもたくさん行なわれるので、ぜひ足を運んでショパン・イヤーに向けての準備としたいところだ。
Photo:The Fryderyk Chopin Institute
credit:Dordrechts Museum
【兵庫】
会場 兵庫県立美術館 ギャラリー棟
〒651 0073 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通 1丁目11
会期 2019年10月12日(土)~11月24日(日)
主催 神戸新聞社、サンテレビジョン
共催 国立フリデリク・ショパン博物館、兵庫県立美術館
協賛 三ツ星ベルト(株)
【福岡】
会場 久留米市立美術館(〒 839 0862 福岡県久留米市野中町 1015
会期 2020年2月1日(土)~3月22日(日)
主催 久留米市美術館、読売新聞社、 RKB 毎日放送
【共通 】
共催:国立フリデリク・ショパン博物館
後援:駐日ポーランド共和国大使館、日本ショパン協会
特別協力:ポーランド広報文化センター
※東京会場は、練馬区立美術館にて、2020年4月6月に開催予定
※静岡会場は、静岡市立美術館にて、 2020年8月9月に開催予定
ポーランドから広がる世界
ショパンの音楽のすばらしさは、クラシック音楽という枠をも超えたつながりの多様性にあると思っている。ドビュッシーを経由してビル・エヴァンスにまでつながるような、ピアノ・ミュージックの地平線を押し広げているような気がするのだ。
むかし、ルービンシュタインが弾くショパンのマズルカを聴いて、「これ、エヴァンスみたい」と思ってしまったことがある。ファンからは「順序が逆だろう」と怒られてしまいそうだが、それだけの間口の広さをショパンの音楽が持っているということでご勘弁願いたい。
また、アントニオ・カルロス・ジョビンの代表曲「インセンサテス」はショパンの「前奏曲第4番ホ短調」が下敷きになっているというのも有名な話だ。
アントニオ・カルロス・ジョビンの「インセンサテス」(上)と、ベースとなっているショパンの「前奏曲第4番ホ短調」
ちなみに、パリのペール=ラシェーズ墓地にあるショパンの墓のすぐ近くには、エヴァンスの系譜に連なるジャズ・ピアニスト、ミッシェル・ペトルチアーニ(1962~99)が、まるでショパンに抱かれるようにして眠っている。
ポーランドからの移民、レナード・チェスの手によって、シカゴでブルーズが花開く
最後は余談になるかもしれないが、ブルースとロックンロールの話。
ポーランド系の移民が多いアメリカの都市といえばシカゴが挙げられるが、1920年代にポーランドからこの街にやってきたレナード・チェスは、1950年にブルースを紹介するレーベル「チェス」を立ち上げた。アメリカ南部で黒人たちの音楽として誕生したブルースやジャズは、ミシシッピ川を北上してシカゴで花開いていたのだ。
チェスの中核をなすアーティストのひとりが、マディ・ウォーターズという、もとはミシシッピ・デルタの農夫だったブルースマンで、彼の大ヒットによりチェスは潤っていく。かのローリング・ストーンズは彼の曲からバンド名をとったというのはよく知られたエピソードである(チェスがアメリカに来なかったらロックの歴史は変わっていたかも、というのは考え過ぎか)。チェス・レーベルの物語は2008年の映画『キャデラック・レコード』で描かれている。レナード・チェス役を演じているのはポーランド系の俳優エイドリアン・ブロディだ。
インターネットによって世界中の情報が一瞬にして伝わるようになるはるか以前、ポーランドというひとつの国で生まれた人や音楽、文化が、異なる国のものと出会い、融合したり、影響を与えあったり。こうした歴史のダイナミズムを感じながら考えをめぐらすのも音楽の楽しみのひとつで、今回のようなメモリアル・イヤーは、そのきっかけになると思うのである。
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