ポスト・ロック的クラシック案内 Vol.2

売れっ子バンドの“頭脳”は現代音楽の作曲家! レディオヘッドのグリーンウッドやザ・ナショナルのブライス・デスナーたち

読みもの
2019.06.23

ロックやエレクトロニカとクラシックが交差する世界を巡る「ポスト・ロック的クラシック案内」の第2回。ロックとクラシックを行き来する音楽ライター原典子さんが、シーンの最前線を知りたい! という好奇心旺盛な方に、知っておくべきキーパーソンをご紹介!

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メイン写真:ジョニー・グリーンウッド ©S. Katan
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原典子 編集者・ライター
原典子
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音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。鎌倉出身。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在は子育...

ライヒも絶賛する才能、ジョニー・グリーンウッド

前回は、レディオヘッドの『OKコンピューター』によってロックの領域が大きく押し広げられたという話をしたが、今回もこのバンドの話からはじめてみよう。

レディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドは、オーケストラや室内楽のための作品を書く作曲家でもある。幼い頃からヴィオラを習い、クラシックの教育を受けた彼は、バンドでもギターのみならずシンセサイザーやヴァイオリン、オンド・マルトノなどさまざまな楽器を弾きこなすマルチ・プレイヤー。ヴォーカルのトム・ヨークとともにレディオヘッドのサウンドの中核を担う存在である。

そんなグリーンウッドの作曲家としての顔をはじめて知ったのは、2007年にポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の音楽を手がけたときだった。

冒頭から弦楽器の不協和音が鳴り響き、尋常ではない緊張感を与える。石油採掘をめぐる主人公の欲望と心の闇を迫真の音響で描き出したグリーンウッドは、映画音楽の作曲家として高く評価され、以降も『ノルウェイの森』(2010年)、『ザ・マスター』(2012年)、『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)、『ビューティフル・デイ』(2017年)などの音楽を担当。『ファントム・スレッド』(2017年)はアカデミー賞作曲賞にノミネートされた。

映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

映画『ファントム・スレッド』

グリーンウッドは、かねてからメシアンやペンデレツキなどの現代音楽に大きな影響を受けたと公言していたが、2011年にポーランドで開催された「ヨーロピアン・カルチャー・コングレス」において、ペンデレツキとのコラボレーションが実現した。

ペンデレツキが自作《広島の犠牲者に捧げる哀歌》《ポリモルフィア》を自ら指揮し、加えてグリーンウッドがそれぞれの作品にインスパイアされて作曲した2作品が演奏されたコンサート。直後にスタジオでレコーディングされたアルバムもリリースされている。

ペンデレツキ&グリーンウッド

さらに、グリーンウッドが演奏した《エレクトリック・カウンターポイント》に感銘を受けたライヒが、レディオヘッドの《エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス》(『キッドA』収録)と《ジグソー・フォーリング・イントゥ・プレイス》(『イン・レインボウズ』収録)をもとに、ライヒ独自の様式で《レディオ・リライト》を作曲。2013年に初演され、大きな話題となった。

ロックの世界に変革をもたらしたレディオヘッドは、いまや現代音楽の巨匠をも動かしてしまうモンスターバンドへと成長したのである。

《レディオ・リライト》

インディ・クラシックの旗手、ブライス・デスナー

ロック・バンドのメンバーが現代音楽の作曲家でもあるというケースは、じつはレディオヘッド以外にも数多く存在する。インターネットによってあらゆる音楽ジャンルに容易くアクセスできるようになった今、音楽大学でクラシックを学ぶ学生が、課外活動としてバンドを組んでいてもなんの不思議もない。近年、このようにクラシックの教育を受けた音楽家がインディ・ロック界隈で自由に才能を発揮し、「インディ・クラシック」と呼ばれるシーンが形成されて注目を集めている。

インディ・クラシックや、前回ご紹介したポスト・クラシカルといった新しい潮流は、海外ではまとめて「ネオ・クラシカル」などと呼ばれることが多い。どちらもミニマル・ミュージックの影響を受けているものの、ポスト・クラシカルがアンビエントを基調とした静謐で夢幻的なサウンドであるのに対し、インディ・クラシックはより実験的でエッジのきいたサウンドであるのが特徴と言えるだろう。

アメリカのインディ・ロック・シーンで圧倒的な存在感を示すバンド、ザ・ナショナルのギタリストであるブライス・デスナーも、グリーンウッドと同じく、作曲家としての顔をもつ。幼い頃からクラシックを学び、イェール大学にて音楽の修士号を取得、ザ・ナショナルの活動と並行して現代音楽の作曲を行なってきたデスナーは、インディ・クラシックの旗手とも言うべき人物である。

ザ・ナショナル『I Am Easy To Find』

2013年にはクロノス・クァルテット(編集部註:現代音楽における“弦楽四重奏ブーム”を巻き起こし委嘱作品は750曲以上)が、デスナーの作品を演奏したアルバム『Aheym』をリリース。

2015年には、自身のレーベルからソロ・アルバム『ミュージック・フォー・ウッド・アンド・ストリングス』をリリースし、パーカッション・ユニットのソー・パーカッションによる演奏で、新しい響きやリズムを追求しながらも、ポップネスを失わない独自の境地を聴かせてくれた。

ブライス・デスナー『ミュージック・フォー・ウッド・アンド・ストリングス』

また、デスナーはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の映画『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)の音楽制作に、坂本龍一アルヴァ・ノトとともに参加している。

そして今年、イニャリトゥがジャケットのアートワークを手がけ、彼に捧げられたアルバム『El Chan』がドイツ・グラモフォンからリリースされた。ここには、ミニマル作品の演奏でも名高いピアノ・デュオ、カティア&マリエルのラベック姉妹のために作曲した《2台のピアノのための協奏曲》や《El Chan》などが収録されている。

ブライス・デスナー『El Chan』

さらに挙げると、カナダのインディ・ロック・バンド、アーケイド・ファイアのメンバーであるリチャード・リード・パリーも、ドイツ・グラモフォンから作品集『Music for Heart and Breath』をリリースしており、クロノス・クァルテットやデスナー、ニコ・ミューリーら錚々たる面々が参加している。

また、アメリカのバンド、ウィルコのドラマーであるグレン・コッツェも現代音楽の作曲家として頭角を現しているひとりだ。

ここにご紹介した作曲家たちは、いずれも売れっ子バンドのメンバーとして活躍しながら、一方で自身のルーツであるクラシックに根ざした活動を並行して行っている。彼らにとってそういった活動は「実験室」のような位置づけなのかもしれない。

現代音楽から得た新たな響きをバンドでの楽曲制作に活かし、バンドでの活動から得たポップネスがクラシックの世界に新風を吹き込む。クラシックとロックは今、そんな共振関係にある。

リチャード・リード・パリー『Music for Heart and Breath』

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