マルカート:語源は強調する。18世紀以降に定着した指示はどう書かれた?
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
イタリア語の「強調する」という意味の“marcare”の過去分詞で、「強調して」と訳されるこの楽語。実は、18世紀以前はほぼ使われることのなかった、わりと新しい楽語なのです。なんと1802年にドイツで出版された音楽事典(コッホ, Musikalisches Lexicon)にも、当時はまだ珍しかったマルカートの項目はありませんでした。
マルカートが登場した最初期の作品、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番(1795年作曲)の第2楽章のピアノパートにおいては、8つのバス(低音)の音に、それぞれ “ques-te no-te ben mar-ca-te(これ-らの 音-を 強-調 して-ね)”というように、指示そのものも強調した書き方がされています。
その後もマルカートが指示される際は、強調してほしいパートの部分にのみ表記されるか、「何を強調するのか」が具体的に記されることがほとんどで、シューマンの交響的練習曲の第2変奏においても “marcato il canto(歌の部分を強調して)”と“marcato il Thema (主題を強調して)” というように、明確に指示されています。
この部分では、曲の主題が低音で奏でらているため、この低音を強調しないと主題が聞こえないのですが、「主題だけじゃなくて歌の部分もちゃんと出してね」という作曲者のこだわりも垣間見られます。
もしくは……曲全体にマルカートが指示され、その場合はしつこいほど全ての音が強調されます!!
ここでは、“pp ma ben marcato(ppで、しかしよく強調して)”の指示が見られます。マルカートはただ大きい音を出せばいいものではないことを物語っています。
マルカートを聴いてみよう
1. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番〜第2楽章 Largo
2. パガニーニ:《24のカプリース》〜第22番 Marcato
3. シューマン:交響的練習曲〜第2変奏
4. ブラームス: 交響曲第4番〜第1楽章
5. プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番〜第3楽章 Allegro ben marcato
6. ショスタコーヴィチ:前奏曲とフーガ第15番 変ニ長調〜フーガ
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